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36恐ろしき財力
翌日、帝国に向かうべく準備は急ピッチで進められたが。
「何で港に船?しかも豪華客船」
「これでもこじんまりとしている」
「ええ‥」
私は王家の財力を舐めていた。
正直に言おう、ベルシュタイン家の財力の方が上だと聞いていたけど。
「タルタロス号だ」
「大砲もありますので安心して旅を楽しめます」
普通、中世ヨーロッパといえば海賊時代のあれだと思ったけど。
目の前の船はあれだ。
映画にでも出た最後は沈んでいく豪華客船だ。
「沈んだりは…」
「ありえないな。魔力で動くが、ドワーフが腕を振るって作り上げた戦闘もばっちりだ」
帆船をイメージしていたのに。
こんな目立つ船でお忍びなんていうか?
「これはリシウス様の個人でお持ちの船だ」
「個人…」
「ああ、これで副業もしているが…そもそもあの方の趣味で作った物を改良した」
天才肌と聞いていたけど、こんな才能があったのか。
「言っておくが、設計は昔に君が神話時代の本を引っ張り出して模型を作ったものをモデルにしている」
「は?」
「実にユニークだったからあの方が悪乗りしたんだ」
元凶は私かよ!
確かに子供のころから船や古い遺跡とか好きだった。
この世界では神々の神話の伝説が有名で。
神話に出て来る遺跡や神殿が好きで絵にしていたこともある。
前世も現世も生粋のオタクだけど。
ただし私は乙女ゲーの恋愛的よりも背景の建物や装飾品などに興味津々だった。
美術的なオタクだ。
「これ、お忍びなんですよね」
「ああ」
「全然忍んでないですよね」
「そこは…まぁ」
こんな堂々とするお忍びないでしょう?
「君の影武者もちゃんと用意しているから大丈夫だ」
「ほわい?」
「表向きには君を追放したという事実が必要になるので身代わりは北の最果てに向かってもらい。そこからクロテッド領地に向かってもらう」
「万一探しに来てもクロテッド領地は王都と異なり野生の動物も多く、谷崖もございますので」
そう簡単に侵入はできない。
王都のように馬車を利用して移動できない程過酷な領地で移動は馬だ。
しかも訓練を受けた馬でないと移動ができない程だ。
「旦那様、そろそろ」
帝国には三人の侍女も同行する。
ひっそりと少人数で行くと思っていたのに。
「道中お守りいたします」
「ジル…」
何故か完全装備のジルに冷や汗を流す。
「お姉様、旅をお楽しみください」
「シシィ様をお一人で残していくなんて」
「私は学校もございますし…何より学園で害虫を排除しなくてはなりませんの」
にっこりと微笑むシシィ様に冷や汗が流れる。
第二王子とその愉快な仲間達はシシィ様にボコボコにされたと聞いているけど。
「クソ女はまだ健在ですの」
「あー…そうですか」
基本、根が優しいシシィ様は女子供に手を出すことはしない。
犯罪を犯した人間は別だけど。
どうかこれ以上悪化しないことを願う。
「ではお気をつけていってらっしゃいませ」
「行ってきます」
別れの抱擁を交わした私はそのまま船に乗り込んだ。
この後、シシィ様がそんな顔をしていたかなんて知らずに。
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