乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ

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94恩知らずの末路③





「待ってくれ!」


手を伸ばそうとしても既に二人はその場にいなかった。
背後には燃えて灰になった建物。


そして瘴気で苦しむ者達。

「苦しい…」

「腕が痛い」


家事で火傷を負った者もいる。
教会で治癒がダメならばとポーションを求めるも。


「ポーションはありません」

「残っているポーションはすべて貴族が…」


王都内の商会にあるポーションは貴族達の手に渡り、彼らの手には残らない。


「今までは無償で…」

「フェリーチェ領地から好意で無償で支給していただきましたが、白の魔導士様のお作りになったポーションはすべて処分するようにと」

「そんな…」


彼らは忘れていた。
これまで無償で支給されたポーションはリネットが作った物だったが、役立たずのポーションなんて不要だと処分していたことを。


しかも魔導士が作るポーションと商業ギルドで作られるポーションは威力が違うのだ。
強い魔力を持つ者が調合してこそ高い効果を得られるのだが、そのポーションを自らの手で処分していたのだから。


「あそこにあるポーションは!」

「あちらは銀貨20枚になります」

「は?」


見るからに下級ポーションに見える。
しかも量は少量なのにかなり高額だったのだ。


「王都内に限らず、国内ではポーションが不足しております。原材料となる聖花は辺境地以外には咲いておりません」


「何で…」

「王都内の聖花を処分するようにとグレゴリー殿下と聖女様が命じられましたので」



絶望的な状況だった。
誰も助けてくれないと悟った彼らはその場に立ち尽くすだけだった。


「聖花が残っていれば…皆さんにも聖花を植えられていたはずですよね」

何も知らない商人が訪ねる。
十年前のケンタロウス暴走事件以来、聖花の苗を無償で支給していたことを思い出す。


「そんなもん…引っこ抜いて燃やした」

「は?」

「だって必要ないだろ!黒の魔導士様の魔術があれば…第一無能な魔導士の聖花なんてご機嫌取りだろ!」

「愚かな…あの聖花は結界の源です。治癒の力をも持つと言うのに」

「そんな…そんなの知らないぞ!」


聖花のことをろくに聞かなかった男は八つ当たりをした。

ちゃんと教えてくれればいいのにと思ったが。


「白の魔導士様は貴方達に絶望したのでしょうね」

「絶望?」

「ずっと身を粉にして守って来たのに、責められ蔑まれ暴言を吐かれ…最後は国を追放された。だからこの国から守りの加護が消えた」

「加護だと…」

「ご存じありませんでしたか。この国の結界の基盤を作っているのは彼女だと。魔術師はその上にポンと力を乗せるだけ…土台となる土がない場所に花は咲きません」


リネットが一人でどれだけの事をしていたか知らない者は多い。
彼らは知ろうともしないし、リネットの献身さもどうでもいいのだろう。

商人は冷たい目で告げた。


「お帰り下さい」

「待ってくれ!そのポーションでいい!譲ってくれ」

「そのポーションでいい?売る気はありません」

「そんな!」


ポーションを手に入れるのも困難な状況でそのポーションで良いなんて発言は侮辱に等しいものだった。


少なくとも商人にとっては苦労して手に入れた品なのだから。


「リネットお嬢様、どうかご無事で」


商人は風に消えるような声で呟きながらそっと静かに祈ったのだった。




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