101 / 219
94恩知らずの末路③
「待ってくれ!」
手を伸ばそうとしても既に二人はその場にいなかった。
背後には燃えて灰になった建物。
そして瘴気で苦しむ者達。
「苦しい…」
「腕が痛い」
家事で火傷を負った者もいる。
教会で治癒がダメならばとポーションを求めるも。
「ポーションはありません」
「残っているポーションはすべて貴族が…」
王都内の商会にあるポーションは貴族達の手に渡り、彼らの手には残らない。
「今までは無償で…」
「フェリーチェ領地から好意で無償で支給していただきましたが、白の魔導士様のお作りになったポーションはすべて処分するようにと」
「そんな…」
彼らは忘れていた。
これまで無償で支給されたポーションはリネットが作った物だったが、役立たずのポーションなんて不要だと処分していたことを。
しかも魔導士が作るポーションと商業ギルドで作られるポーションは威力が違うのだ。
強い魔力を持つ者が調合してこそ高い効果を得られるのだが、そのポーションを自らの手で処分していたのだから。
「あそこにあるポーションは!」
「あちらは銀貨20枚になります」
「は?」
見るからに下級ポーションに見える。
しかも量は少量なのにかなり高額だったのだ。
「王都内に限らず、国内ではポーションが不足しております。原材料となる聖花は辺境地以外には咲いておりません」
「何で…」
「王都内の聖花を処分するようにとグレゴリー殿下と聖女様が命じられましたので」
絶望的な状況だった。
誰も助けてくれないと悟った彼らはその場に立ち尽くすだけだった。
「聖花が残っていれば…皆さんにも聖花を植えられていたはずですよね」
何も知らない商人が訪ねる。
十年前のケンタロウス暴走事件以来、聖花の苗を無償で支給していたことを思い出す。
「そんなもん…引っこ抜いて燃やした」
「は?」
「だって必要ないだろ!黒の魔導士様の魔術があれば…第一無能な魔導士の聖花なんてご機嫌取りだろ!」
「愚かな…あの聖花は結界の源です。治癒の力をも持つと言うのに」
「そんな…そんなの知らないぞ!」
聖花のことをろくに聞かなかった男は八つ当たりをした。
ちゃんと教えてくれればいいのにと思ったが。
「白の魔導士様は貴方達に絶望したのでしょうね」
「絶望?」
「ずっと身を粉にして守って来たのに、責められ蔑まれ暴言を吐かれ…最後は国を追放された。だからこの国から守りの加護が消えた」
「加護だと…」
「ご存じありませんでしたか。この国の結界の基盤を作っているのは彼女だと。魔術師はその上にポンと力を乗せるだけ…土台となる土がない場所に花は咲きません」
リネットが一人でどれだけの事をしていたか知らない者は多い。
彼らは知ろうともしないし、リネットの献身さもどうでもいいのだろう。
商人は冷たい目で告げた。
「お帰り下さい」
「待ってくれ!そのポーションでいい!譲ってくれ」
「そのポーションでいい?売る気はありません」
「そんな!」
ポーションを手に入れるのも困難な状況でそのポーションで良いなんて発言は侮辱に等しいものだった。
少なくとも商人にとっては苦労して手に入れた品なのだから。
「リネットお嬢様、どうかご無事で」
商人は風に消えるような声で呟きながらそっと静かに祈ったのだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
義妹に婚約者を譲りました。貧乏伯爵に嫁いだら、溺愛と唐揚げが止まりません
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」
そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。
代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。
世間は笑った。けれど、私は知っている。
――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、
ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚!
鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!
【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。
朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。
ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。