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178探偵侍女始動~メープルside
リシュフェール帝国の獅子宮。
数多の宮殿の中で皇帝陛下専用の宮殿であり、ここで執務を行う場となっている。
しかし現在は皇帝陛下が病床に臥しているため、執務室に始まりほとんどを利用できるのはこの帝国の第一皇子であり皇太子であるベルラントとなっている。
既に執務室だけではなく獅子宮の雰囲気は変わっており、数年前に配置されていた調度品は引き下げられ、ベルラント皇太子の趣味に変わっている。
宮殿内では既に、皇帝陛下は退位する空気を醸し出しているのだ。
周りの使用人の態度も気になる。
だが、ここでボロを出すわけには行かない。
「メル、ここから先は入らない方がいいわ」
「え?何故ですか?この先は聖女様のお部屋ですよね」
「静かに!」
先輩侍女に声を抑えるように告げられる。
「聖女なんて何所まで本当か」
「あんな女が女神様のお使いなのか怪しいわ」
小声であるが、聖女への不満は止まることがあない。
そんな中、部屋から一人の侍女が出て来る。
「ちょっとどうしたの!」
「あっ…何でも」
服が紅茶で濡れ、腕から血が流れている。
「こちらへ!」
「えっ…」
「腕の傷を…火傷もあります」
酷い状態だ。
腕には破片が刺さっているし、膝には火傷をおっていた。
「早く処置を…」
「ダメです!そんな効果は薬…」
常備している薬を用意するも、帝国ではポーションは貴重だ。
塗り薬も中位貴族の中では高価だと言われている。
「ご心配なく」
「ごめんなさ…」
泣き出す彼女に私は周りを見た。
豪華な宮殿であるのに、使用人に対する待遇は良いものではない。
怪我をしても薬一つ満足に使えないなんてありえない。
いや違うわ。
当たり前になっていた。
怪我をしたら薬を塗ることも、誰かに心配されることも。
「メル…貴女はそんなに薬を?」
「そんな上等な包帯まで」
携帯している救急セットを見て他の侍女も驚く。
これはリネット様が持たせてくださったものでずっと愛用している。
「ずっと昔にお仕えしていたお嬢様にいただいたんです」
「お嬢様に?」
「ええ、実家は渓谷が近くて…昔は竜害を受けていまして。その時に救助にきてくださった方です」
嘘は言っていない。
リネット様は当初、我が領地に救護に来てくださったときに大量の薬をくださった。
私が公爵家の侍女になってからもリネット様は私の実家に薬を送ってくださった。
「もしかして王族の親族の方?」
「高位貴族の方だったりして」
帝国では貧富の差が激しい。
大国と言われ、セレスティア王国にいた時は帝国の暮らしぶりは発展していると聞く。
魔法に頼らない国と言われていたけど。
箱を上げればどうだろうか。
「羨ましい…どこの資産家のお嬢様なの」
「どんなお金があっても…ねぇ?」
その発言は、どんな金銭的に余裕のある貴族であっても、高価な薬を使用人に施すような真似をする人間はないといいたげだった。
リネット様は決して裕福ではない。
公爵家の婚約者になっても必要以上に着飾るよりも孤児院や貧しい教会に寄付をしていた。
ご自身の稼いだ給金も搾取されていたのにだ。
「ノブレス・オブリージュです」
「残念ね。そんな良い方に仕えていたのに」
「これ、良かったら食べて」
何故か、お茶やお菓子を渡された私は大いなる勘違いをされたようだ。
けれど、潜入初日はクリアしたわ!
リネット様の為に潜入侍女メープル・クロテッドの調査が始まったわ!
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