聖女なのに勇者に追放されました。だから魔王のお嫁さんになろうと思います!

ひるね

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こんなのって、裏切りだ。

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 ドーハートさまが、ミーシア王女と付き合っているという宣言に、わたしはもう一度固まった。

 聖女と勇者の結びつきは、恋愛による絆が基本だ。
 十年前わたしはドーハートさまを選び、そのときからずっと、ドーハートさまに恋をしている。告白は彼が聖剣を抜いたときに済ませているし、彼もそれを受け容れてくれた、はずだった。

 婚約しているようなものだ。勇者さまが魔王を倒したらその時は、きっと結ばれるのだと、思っていたのに。

 なのに、ドーハートさまがミーシア王女と付き合ってる? それは、もう、わたしに気持ちはないということ?

「だけど『勇者さまには聖女がいらっしゃいますから……』ってキスまでしかさせてくれねー」
「キ、キスだなんて……! は、はれんちです……!!」

 顔を赤くして大声を出したわたしに、勇者さまは「お前はすぐにそれだ」と言う。

「勇者なんて、なりたくてなったわけじゃねー。なのに聖剣に選ばれ、聖女に愛された俺は戦わないといけないんだと。ああ、いいよ。戦ってやるよ。勇者のスキルでレベルは無限だし、魔法は使い放題。経験値も通常の三十倍でたまる。この国じゃあもう、オレに勝てるやつなんて一人もいない。モンスターとの戦いだってヌルいくらいだ。このままいけば、魔王を潰すのももうすぐだろうさ。だけどな」

 そこで勇者さまは、わたしを見て嫌な笑い方をした。背中にぞっと鳥肌がたって、わたしはドーハートさまから一歩距離をとる。
 見る人が見れば、それが性的な興奮を孕んだ笑顔なのだとわかったと思う。
 だけど聖女としてずっと、世俗的なもの、特に性的なものから隔離された生活を送ってきたわたしにはそれがわからない。それなのに――その笑顔を、悍ましい、と思ってしまった。

 ドーハートさまは、そんなわたしの様子を気にしようともしなかった。

「頑張った分の、ご褒美は欲しいよなあ。オレに勇者やらせるんだったら、せめてキモチよくやらせてもらわないとな。せいぜいが手を繋ぐぐらいで、キスもその先もさせてくれねーお前みたいな聖女はいらないんだよ。というわけで、魔王を倒す前にお前はクビ。チェンジ。追放決定」
「……そんな! これからの戦いはどうするのです? 聖女の祈りは勇者の力の源です。主神のいとし子である聖女の想いが強ければ強いほど、主神から勇者に強力な加護――スキルが与えられるというのに」

 わたしの渾身の訴えを聞いても、勇者さまは鼻を一回鳴らすだけだった。

「はっ! おまえ、恩着せがましいんだよ! ずっと思ってたんだけどさ、その聖女の祈りって、嘘っぱちなんだろ? オレの強さはオレの努力の結果だよ。勇者の才能が、オレを強くした。だからオレさえいれば、ホンモノの聖女なんてもうお呼びじゃねー。それにたとえ聖女を選ぶ神託が下っていなくても、ミーシアが勇者が選んだオレの聖女だということにすれば、魔王を倒した後婚姻する大義名分になる。だから、お前はもう邪魔なわけ。そんでもって、神殿から出て行ってほしいわけ。そうしないとミーシアが神殿に入れないだろ? 王城じゃあ、監視の目も多いからな……」

 わたしが出て行くこととミーシア王女が神殿に入ることの繋がりがよくわからなくて、首をかしげていると、ドーハートさまはいら立ったようにこう続けた。


「ああ、ここまで言えば、温室育ちのお前でもわかるか? お前の部屋で明日から、オレと王女は子づくりするんだよ!」


 思わず、「ひっ」という情けない声を出してしまう。神聖な神殿の、最奥に守られた聖剣の祭壇。そこに最も近い聖女の部屋で、この人はいったい何をしようと言うのか。
 あまりのことに言葉を失い、その場に立ち尽くすわたしを置いて、勇者さまは聖女の謁見室から出て行った。

「聖女が交代することは、もう神殿長も了承済みだから」

 とだけ最後に告げて。

 まだお互い幼かったあの日、永遠に変わらぬ愛を誓い合ったはずだった。魔王を倒したら、結ばれるのだと思っていた。

 それなのに、こんなの。


 ひどい裏切りだ。
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