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「それよりも私は、今回の問題は改めて番制度の是非を問う問題だとも思うんですが」
女性のコメンテーターの発言に、司会をしていたアナウンサーが首を傾げた。
「というのは?」
「ええ。今回の事件は、オメガがアルファに無理やり襲われたものですよね。未遂に終わったことは本当に幸いですが、きっと被害者の心にも大きな傷になっていると思います。それに……、日本では番制度が始まってから、同様の事件が急増しました。アルファもオメガも多く襲われたでしょう?」
「ええ、まあ」
報道は何よりも中立でありたいものだ。政治を批判するのは避けたいのか、アナウンサーは曖昧な返事をした。
「アルファの多くはオメガの貞操を気にしますから、オメガを汚してしまえば、自分にそのオメガを譲ってくれると考える人が増えたことは知ってますよね。番制度が開始される前にも問題視されていたことですが、今回のような強姦事件は制度の延長線上といっても過言じゃないと思うんですよ。私たちはもう一度、番制度について議論を重ねるべきです」
三成は黙って立ち上がった。窓の外には鳥が飛んでいて、下を覗き見れば、車道を車が走り、道を人が歩いているのが見えた。
「コーヒー淹れますけど、飲みますか?」
藤堂が帰ってくると同時に誠たちは帰っていった。まるで三成と過ごすためだけに来ているようだ。誠は三成に優しい笑みを浮かべ、剛はいつも通りの無表情だが、しかし、三成と目が合うと一つ頷いた。
二人には話していないが、藤堂の家もビジネスの中心にいるから、今回のフィッシャーの被害者が三成だと言うことを知っているのかもしれない、と三成は思った。
しかし、それをわざわざ二人にも藤堂にも聞こうとは思わなかった。三成は笑みを深めた。
二人をエントランスまで見送って、藤堂と一緒に三成はエレベーターに乗った。
「藤堂さん、あとでスマホ貸してもらってもいいですか?」
「ん? もちろん」
エレベーターには他に誰も乗っていないのに、二人は手と手が触れるほど近くに立っていた。
藤堂に使い方を教えてもらいながら、三成は世間のコメントを読んでいった。
ニュースで女性コメンテーターが言ったことは、第二性に関係なく、番制度の対象だった多くの人に届いていて、議論が激しく行き交っていた。
番制度はやはりおかしい、僕たちは道具じゃない、自分の家族が死んだのは制度のせいだ、そんな言葉が白い背景の前で黒い文字になって浮かび、まるで強い力を持っているように三成の目には映った。
数日後、日本中で一斉に大きなデモが起きた。突然のデモだったにも関わらず、多くの人が集まった。三成が暮らすマンションからもデモの行進が見えた。
三成はガラス窓に顔を近づけて旗が揺れ動き、人の波が少しずつ動いていくのを静かに見守った。しかし、心は強く動いていて、まるで自分もデモの中で一緒に旗を振っているような気分になった。
後ろから抱きしめられ、三成は落としていた視線を上げて、窓に反射した藤堂と目を合わせる。藤堂は静かに笑っていて、三成も微笑んだ。
彼と一緒にいるとき、自分の唇が自然に引き上がっていることを三成は知っていた。
行進をして何が変わるだろう、何ができるだろう。僕たちは自由を取り戻せるだろうか。多くの人が自分の好きな人を自分で選べるようになるだろうか。三成はできなかった。しかし、三成はできたのだ。三成は藤堂に会えた。好きになってもらえた。好きになれた。
三成はここ数日、誠や剛との暖かで擬似的な親子を過ごして、感じたことがあった。きっとそれは藤堂となら幸せになれるはずだから……。
体をひねって向かい合う。藤堂は少しだけ身を屈めて、三成に顔を寄せてくれた。
「……藤堂さん、僕、病院に通ってもいいですか?」
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