君に心があるのなら

月内結芽斗

文字の大きさ
55 / 65

27. (2)



「それよりも私は、今回の問題は改めて番制度の是非を問う問題だとも思うんですが」

 女性のコメンテーターの発言に、司会をしていたアナウンサーが首を傾げた。

「というのは?」

「ええ。今回の事件は、オメガがアルファに無理やり襲われたものですよね。未遂に終わったことは本当に幸いですが、きっと被害者の心にも大きな傷になっていると思います。それに……、日本では番制度が始まってから、同様の事件が急増しました。アルファもオメガも多く襲われたでしょう?」

「ええ、まあ」

 報道は何よりも中立でありたいものだ。政治を批判するのは避けたいのか、アナウンサーは曖昧な返事をした。

「アルファの多くはオメガの貞操を気にしますから、オメガを汚してしまえば、自分にそのオメガを譲ってくれると考える人が増えたことは知ってますよね。番制度が開始される前にも問題視されていたことですが、今回のような強姦事件は制度の延長線上といっても過言じゃないと思うんですよ。私たちはもう一度、番制度について議論を重ねるべきです」

 三成は黙って立ち上がった。窓の外には鳥が飛んでいて、下を覗き見れば、車道を車が走り、道を人が歩いているのが見えた。

「コーヒー淹れますけど、飲みますか?」




 藤堂が帰ってくると同時に誠たちは帰っていった。まるで三成と過ごすためだけに来ているようだ。誠は三成に優しい笑みを浮かべ、剛はいつも通りの無表情だが、しかし、三成と目が合うと一つ頷いた。

 二人には話していないが、藤堂の家もビジネスの中心にいるから、今回のフィッシャーの被害者が三成だと言うことを知っているのかもしれない、と三成は思った。

 しかし、それをわざわざ二人にも藤堂にも聞こうとは思わなかった。三成は笑みを深めた。

 二人をエントランスまで見送って、藤堂と一緒に三成はエレベーターに乗った。

「藤堂さん、あとでスマホ貸してもらってもいいですか?」
「ん? もちろん」

 エレベーターには他に誰も乗っていないのに、二人は手と手が触れるほど近くに立っていた。

 藤堂に使い方を教えてもらいながら、三成は世間のコメントを読んでいった。

 ニュースで女性コメンテーターが言ったことは、第二性に関係なく、番制度の対象だった多くの人に届いていて、議論が激しく行き交っていた。

 番制度はやはりおかしい、僕たちは道具じゃない、自分の家族が死んだのは制度のせいだ、そんな言葉が白い背景の前で黒い文字になって浮かび、まるで強い力を持っているように三成の目には映った。

 数日後、日本中で一斉に大きなデモが起きた。突然のデモだったにも関わらず、多くの人が集まった。三成が暮らすマンションからもデモの行進が見えた。

 三成はガラス窓に顔を近づけて旗が揺れ動き、人の波が少しずつ動いていくのを静かに見守った。しかし、心は強く動いていて、まるで自分もデモの中で一緒に旗を振っているような気分になった。

 後ろから抱きしめられ、三成は落としていた視線を上げて、窓に反射した藤堂と目を合わせる。藤堂は静かに笑っていて、三成も微笑んだ。

 彼と一緒にいるとき、自分の唇が自然に引き上がっていることを三成は知っていた。

 行進をして何が変わるだろう、何ができるだろう。僕たちは自由を取り戻せるだろうか。多くの人が自分の好きな人を自分で選べるようになるだろうか。三成はできなかった。しかし、三成はできたのだ。三成は藤堂に会えた。好きになってもらえた。好きになれた。

 三成はここ数日、誠や剛との暖かで擬似的な親子を過ごして、感じたことがあった。きっとそれは藤堂となら幸せになれるはずだから……。

 体をひねって向かい合う。藤堂は少しだけ身を屈めて、三成に顔を寄せてくれた。

「……藤堂さん、僕、病院に通ってもいいですか?」


感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

トイレで記憶を失った俺は、優しい笑顔の精神科医に拾われる

逆立ちのウォンバット
BL
気がつくと、俺は駅のトイレで泣いていた。 自分の名前も、どうしてここにいるのかも分からない。 財布の学生証に書かれていた名前は、“藤森双葉”。 何も分からないまま駆け込んだ総合病院で、混乱する俺に声をかけてくれたのは、優しい笑顔の精神科医・松村和樹だった。 「大丈夫ですよ」 そう言って、否定せず、急かさず、怖がる俺を受け止めてくれる先生。 けれど、失った記憶の奥には、思い出したくない“何か”があるようで――。 記憶を失った大学生と、穏やかな精神科医の、静かな救済の話。 ※第一部完結済 双葉の“失われた時間”については、まだ何も分かっていない。 続きを書くとしたら、また彼らの日々をかけたらと思っています。 もしこの先も見守りたいと思っていただけたら、とても嬉しいです。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

Ωの庭園

にん
BL
<完結確約> 森 悠人(もり ゆうと)二十三歳。 第二性は、Ω(オメガ)。 施設の前に捨てられ、 孤独と共に生きてきた青年。 十八歳から、 Ω専用の風俗で働くしか、 生きる道はなかった。 それでも悠人は、 心の中にひとつの場所を思い描いている。 誰にも傷つけられない、 静かな庭園を。 これは、 そんな青年の物語。

運命のつがいと初恋

鈴本ちか
BL
三田村陽向は幼稚園で働いていたのだが、Ωであることで園に負担をかけてしまい退職を決意する。今後を考えているとき、中学の同級生と再会して……

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

契り

ミカン
BL
江戸時代舞台のオメガバース 。 ※吉原、陰間表現あり ※折檻描写あり