異世界の常識が分からない ~気づいたら奴隷になってるんですが

TAKO

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気づいたら奴隷生活 1

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怖い話するよ?
普通に過ごしていたつもりなんだよ。自分はそんなできる奴じゃないって分かってるし。だから、できないなりに真面目にコツコツ毎日会社で働いてたのよ。
そしたらいつの間にか奴隷生活になっていたっていうね。

あー、社畜的な話だと思った?
それもあるっちゃあるんだけどね、例えば深夜退勤の翌日早出とか。しかも連勤でってザラにあったし。
そうじゃなくて。
ガチで。
ガチな意味の奴隷生活なんだな、これが。
だって今の私の格好見てみてよ。ガサガサの荒い生地のワンピース?みたいなぼろ布一枚着て。手と足に枷があって。
さらに首輪なんてしちゃってるんだよ?
あはははは……。逃避しないとやってらんないわー……。


ピチュ、ピチュ。
青空を背に木々を渡って飛んでいく鳥をぼんやり見上げる。
こういうとこはフツウだよなー……。
最も、よーく目を凝らせばその木も鳥も見たことない姿形なんだと思う。

だってさ、ここって――……。

「オラぁ、さっさと歩けやぁ!」
「ヒッ!」

バアンッていう聞き慣れない騒音に体を縮ませる。
最もそんな反応をするのはこの集団の中で私一人。騒ぎの一番外にいる私と違って目の前で暴行が行われているのに誰一人声も上げずぼんやりその様子を眺めてるだけ。
初めは信じられなかったけどなぜかは直ぐにわかった。だって慣れずにはいられないほど、この理不尽な暴力は頻繁に振るわれるのだ。

「ったく、おめえら獣人は頑丈なだけが取り柄なんだから、さっさと歩けっつーの!」

そうなのだ。
偉そうに鞭を振り下ろしてるでっぷりしたこの中年男と私。普通の人間は2人だけ。
他の枷をつけた十数人は、耳が頭の上から生えお尻からは尾が生えているんだ。

これがコスプレじゃないならもう決まりだよね。
ここ、私の知ってる世界じゃない。
本当に理由も切欠も分からないまま、気づけば私は異世界にいたんだ。

男は仕上げに鞭を打ち付けるとお腹を揺らしながら私がいる馬車に近寄ってきた。
何も起こらないようになるべく気配を消してたのに、男は私のそんな努力お構いなしに近寄ってくると、顎をぐいっと持ち上げた。

「ん~?この程度の躾が怖いのか?この程度、獣人なら何てことないというのに。ひひひ、相当の箱入りなんだな」
「……ッ」
「おーおー、ボロボロ泣いて。可愛いねえ」

そういうとベロリと頬を嘗めてきた。嫌悪感と恐怖でビクンと体が揺れた。や、やだ!
服の中に手を突っ込まれ、震えが止まらない。

「ぐふふ、最高の手触りだな。やっぱりちっとくらい味見しても……。う~ッ、畜生!我慢我慢!こんな高額奴隷、俺が扱えるチャンスなんて、そうねえんだ。味見なんかして価値を落とせねえ。組織でのし上がるチャンスなんだ」

言葉とは裏腹に手はなかなか服から出て行かず、あちこちを弄ってようやく離れていった。

この世界に来て、初めてあったのがコイツ。
今思えばコイツに助けを求めた自分を殴りたい。
コイツは笑顔でなんの躊躇もせず、私に枷と首輪を付けたんだ。
そうして馬車まで連れて行かれたら同じような目に合ってる男の人ばかりが集まっていて驚いて。さらにその人達が人間と違う様子に気づいて呆然とした。
着ていた服だってぜんぶ取られてッ。私、まだ誰とも付き合ったこともないのに素っ裸を初めて見られたのがこのクソ親父だなんて最低過ぎる。
あー、泣きたくないのにまた涙が出てきた。グス。もうやだ。

そんなこんなで数日過ごして訳が分からないなりに自分なりに状況を整理したんだ。
どうもこの男は奴隷組織の一員で、獣人?その奴隷達を護送中に私を見つけたみたい。私は有無をいわさず奴隷にされたわけだけど、人間だからか、女だからか。はたまた、人種の珍しさか文明差が外見に出ていたのか。理由は謎だけど、獣人さん達とは違って高級奴隷らしい。
そのおかげでこれでもまだマシな扱いを受けている状態。
暴力、暴行は今のところないし、馬車に乗せてもらってるし。でもそれも結局は売るため、なんだよね。
私、どうなっちゃうんだろ……。

◆◆◆

パチパチ……
炎がゆらゆら踊ってるのを見るのが癒やしになるって世界を跨いでも共通みたい。
闇夜に浮かぶ赤にぼんやり見入っていたら、目の前に影が差した。
獣人さんのひとりがご飯を持ってきてくれたらしい。

「ありがとう」

私が小さく呟くと獣人さんはきょとんとした顔になった。
あ、こんな表情、初めて見る。
獣人さん達は皆いつもぼんやりした無表情なんだ。
人種どころか種が違う訳だから不思議な感じはするけど、改めてじっくり見ると顔立ちはかなり整っているみたい。最も今は汚れと暴行の後でボロボロでその片鱗しか分かんないんだけど……。傷、痛そう。

「……体、大丈夫ですか?」

ついポロっと口をついた疑問。
言った瞬間にしまったって気づく。
だってどんなに頑丈だからって痛めつけられて大丈夫な訳ないじゃん。だからといって私にはそれを止める力もないし代わりになる勇気もない。
しかも私、同じ奴隷なのに優遇されてる身なのだ。
今だってそう。獣人さん達が作った夕食が並べられたのは私と、少し離れたところに座ってるあのクソ親父だけ。
さすがに何も食べさせてないってことはないみたいだけど、彼らは余り物とか悪くなった食材とか碌なものを食べてないみたいなんだ。
そんな私が上から実のない声掛けをするって、無神経だよね。

現に声を掛けた獣人さんは表情を変えず何も答えないまんまだ。
耳と尻尾の感じからすると……猫の獣人さんかな?
心配する気持ちは本当だけど何もできない自分。うぅ、沈黙が痛い……。
そんな私の様子にもさして何も感じないのか猫獣人さんはすっと立ち去ろうと腰を上げた。
それに気づいて慌てて小声で話しかける。

「これ、よかったら」

そうして差し出したのは私の夕食のおかずの干し肉。
あんまりもたもたしてると気づかれちゃう。戸惑った様子の獣人さんに半ば無理矢理押し付ける。

「私には硬すぎるし。ね?貰って」
「……」

重ねていうと戸惑った雰囲気を出しながらもスッと後ろ手にしまってくれた。
よかった。おかげで少しは罪悪感が減ったよ。ただの自己満足だけど。

それにしても不思議。
獣人さん達は頑丈だっていうし、みんな体格がいい。この酷い食生活でも筋肉ムキムキなの。
それなのに枷が付いているとはいえ、どうしてたった一人のあの親父の言うことを聞いてるんだろう?


◆◆◆

その疑問は早々に解決した。

森の中の街道を進んでいるときにそれは起こった。
がたん、馬車が大きく揺れて止まった。それが始まりだった。

「っ!どうしたんだ、急に止まりやがって!」
「……馬が……」

御者をやってる獣人さんの声が聞こえ、親父は苛立たしげに馬車から降りた。
気になった私も馬車から覗き見る。あれ、馬が暴れてる?どうしたんだろ。落ち着きなく、足踏みして。親父の命令で数人係りで宥めさせても全然言うこと聞かない。
……何だか嫌な予感がする。

こういうモノほど的中するんだからイヤになる。
どこか遠くから地響きのような音が聞こえてきた。そして、それはどんどん近づいてくる。

「チッ、ビックボアの群か。もったいねえが仕方ねえ」

親父は吐き捨てるように呟くと、上着の中に手を入れて、じゃらりと鍵束のようなものを取り出した。
鍵、なのかな? 細長い板状で、何かが書いてあるのが見える。
その中から適当な一枚を選ぶと、太い指で口元へ軽く持ち上げた。

「土壁を作ってビックボアの群れをここで止めろ。絶対に馬車に近づけるな」
声に反応するようにプレートが淡く光る。
すると直後にドゴオオッとすぐ側で轟音がなり、馬車が大きく揺れた。な、なに?地震?
這うように進み馬車から外を覗き見る。

「な、なにこれ……」

土煙の向こうに見えるのは……土壁?
さっきまで見えてた木々は視界から消えてしまってて脳が混乱する。
二階建てくらいありそうな壁が左右にずっと続いてる。よく見るとそこに手をつけてる人が一人。しかもその手は光ってる。
もしかしてこれって、魔法?

私が呆然としてる間に親父はプレートに次々話しかけていた。
「どんな手を使ってもいいから馬を走らせろ」
「残りの奴らは馬車に追いつくまで全力で走れ」

奴がそう呟いた途端、馬車がすごい勢いで走り出す。
とっさに荷台の骨組みを掴んで揺れに堪える。一体何が起こってるの!?
外を見ると馬車に遅れながらも走る獣人さん達。そしてその向こう。遠ざかる土壁にはそれを作り出した人がただ一人残ってる。
ドオオオン!!
轟音とともに土壁が崩れ、その向こうから恐竜みたいに大きな牛が現れた。しかもたくさん!

「危ない!」

踏まれちゃう!と思った次の瞬間にまた光があらわれ大きな炎が牛を突き刺す。でも牛は次々にやってくる。
その度に光とともに炎が現れ土壁が再びせり上がった。
でもそれも次第に勢いがなくなって……。もうその時には馬車は遠くに離れていてはっきり見えるような距離じゃなかった。
でもあの獣人さんが無事じゃあないってことは嫌でも分かる。

「な、なんなの……これ……」

私は手をぶるぶる震えさせながら荷台にしがみついていることしかできなかった。
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