苦労性の俺は、異世界でも呪いを受ける。

TAKO

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旅に出ることにしました 1


「うひぃ…ッ」



「キューイ」



数メートル先では映画の中のような光景がまさにリアルで進行している。

台風の中にいるような突風、飛び散る血液、地面が揺れるような轟音。

ファンタジーすごい!なんて思う余裕は一切ない。命のやり取りの感触は現代人にはあまりの生々しかった。

俺にできることは震えながら騎獣に引っ付いて、とにかく早く戦いが終わるように祈ることだけだった。





◆◆◆





あれは旅立ちの日。街を離れて数時間後のことだ。



人生初の戦闘は、草原をカローリで掛けていたら前触れもなくいきなり始まった。

辺りが急に黒い影に覆われたから『天気雨かな?』なんて、呑気に思っていた俺を殴りたい。

レイシスさんに同乗させてもらっていた俺はその腕の中から上空を見上げる。影を作っていたのはなんと雨雲ではなく、見たこともないサイズの大鷲だった。



「あ、危ないッ!」



大鷲がすごい勢いと共に単騎のガロスさん目掛けて急降下してきたのを見て思わず叫ぶ。

でも慌てふためくのは俺だけだった。

ガロスさんもレイシスさんも一切動揺していない。それどころかカローリ達でさえ冷静だった。



腰を浮かせ鞘から剣を抜くと、ガロスさんは余裕のある動きで近づく鉤爪を払い牽制をする。

その直後、すごい音と共に大鷲が光に包まれ悲鳴を上げた。

どうやらレイシスさんが雷魔法を放ったらしい。



大鷲が上空へ逃げて体勢を立て直している間に、ガロスさんはカローリの背を蹴り地上へ飛び下りる。

それと同時にレイシスさんもカローリを止めさせひらりと降りると、俺に岩場に隠れて待つよう指示をした。



そうして戦闘は突然始まった。



モンスターの強さの度合いがさっぱり分からないが、恐竜のようなサイズ感の相手にも関わらず二人は一切押されることはなかった。

むしろ余裕すら感じるような戦いぶりだ。

あっという間に大鷲が弱っていく。飛び立つことが難しくなったようで、ふらりとジャンプすることしかもうできないようだ。



「まだかよ~ッ!時間かけすぎだろ」



「うるさい!魔法は集中する時間がいるのだ。単細胞でやっていける筋肉馬鹿と一緒にするな」



…本当にいつも通りだな。



果たしてこの鷲が弱いのか、二人が強すぎるのか。この世界の常識がさっぱり分からない俺には判断ができない。でも相変わらずな二人のやり取りにずっとドコドコ鳴りっぱなしだった心臓が少し落ち着いてきた。



「うわっ!」



レイシスさんが何事か呟き手をワシに向けると、まぶしい光と共に大鷲に巨大な氷の矢が突き刺さった。

その後、大鷲はドーンという地鳴りと共に土埃に巻き上げ地面に落ちた。



お、終わった…?



「はあ~~~」



…よかったぁ。詰めていた息を吐き出す。

思わず抱えていたカローリの首にぎゅっと力を込めてたようで、ぐぇえっっと苦しそうな呻き声が漏れた。ごめん。



ガロスさんがもがく大鷲に剣で留めを刺す。

すると巨大な肉体の輪郭に急に靄がかかり、やがて砂のようにさらさらと崩れ落ちた。

風に飛んでいく砂の中に太陽の光を受けて輝く宝石のような緑の石が現れる。

それをひょいっと拾い上げるとガロスさんは足取りも軽くこちらに戻ってきた。



その様子を見ていたら、緊張が緩んだらしい。

視界が暗くなっていくのを感じた。



「サクヤ?」



「どうした!?大丈夫か?」



気を失う直前に聞こえたのは焦ったような二人の声だった。





◆◆◆



初戦闘体験から数日経った。

もう何度目かの戦闘になるけど未だに慣れずに震えてしまう。

自分が襲われるんじゃないかという恐怖はもちろんだけど、二人が怪我でもするんじゃないか、最悪命が――、なんて考えがどうしても過ってしまうのだ。



だから戦闘が終わった時、足取りの軽い二人より俺のがぐったりしていることが多い。





――なんて色々考えている内に、今回の戦闘も無事に終わったようだ。



「よかった…。カリー、ガロスさん達がやっつけてくれたよ」



「キューイ♪」



カローリ達を撫でてやると嬉しそうに鳴いた。この子らは初めて見た時は恐竜にしか見えずビビッてたんだけど今じゃ可愛くてしかたない。

慣れって大きいよな。戦闘もいつかは慣れると思いたい。



しばらくすると二人もこちらに戻ってきた。

ガロスさんの手にはさっきのモンスターから取り出した石がある。



「よ~し、これでCランクの魔石が3個か。まずまず順調だな」



「フム、Cが3個にDが11個か…。これだけ取れれば十分だな。そろそろシイーゴ草原を抜けてしまって、フェンリ森へ移動してもいいだろう」



「お疲れ様ですッ!」



カローリたちの手綱を引いてガロスさん達に駆け寄ると、それに気づいたレイシスさんが足を速めてきた。



「サクヤ、大丈夫か?気分は?」



そう。情けないが初めての戦闘を目の前で見た直後、俺は貧血になってしばらく起き上がれなかったのだ。

魔物とはいえ、生き物が輪切りにされている様の衝撃の強さを舐めていた。

俺は将来看護職につくのが夢だったので、生き死にに対して人よりも覚悟を持っているつもりだったけどとんでもなかった。現代っ子、もやしすぎる…

何でも直接戦闘に関わっていないのに気絶するなんて子供でもしないらしい。

どうもこの異世界自体がこうした命のやり取りが身近にある分慣れているようなんだよな。

そんな訳で子供以下の繊細さを見せつける形になってしまった俺に対して、二人は以前よりも過保護になった。



そんな俺は街に出てもう数日たつが当然のように役ただず。二人のお荷物になっている。

旅は俺のためのものなのに、情けなさすぎる…



「何ともないです。俺なんかより、二人ですよ!ケガはしなかったですか?」



「ああ、何ともない」



レイシスさんはそう言うと、ニコリと嬉しそうな笑顔を向けてきた。



出会った当初は表情をあんまり変えないクールな人だなっていう印象だったんだけど、ここ数日は俺にこんな甘い視線を向けてくる。正直困る。

好きと言ってくれるのが嬉しくないわけじゃないけど、単なる人種(?)の差のせいで魅力を感じてるだけと思うし。うぅ…どんな顔すればいいんだ…。



そんなレイシスさんを横からどんっと押しのけてガロスさんが近づいてきた。

ほっ。



「まーた、お前は!サクヤに近づくなっての!困ってんじゃねえか、なぁ?」



その通りなんだけど、では今俺の手を握りこんでいるガロスさんの手は…。



「お前こそ、その汚い手を放せ」



「っつーか、キャラ変わり過ぎだろ!きもいんだよ!」



ぎゃあぐぎゃあ、しょうもない争いが目の前で繰り広げられる。



「あの!それより先を急ぎましょう。ここでの依頼分をクリアして次の森に向かっていいなら、野営地も移動ですよね?明るいうちに向かわなきゃ」



「ん?そうだな。んじゃ、こっち来いよ。カリーに載せてやるから」



「待て、さっきは譲っただろう。今度は私の番だ」



「はぁ!?昨日は先頭の後もサクヤを引っ攫ってたじゃねえかよ!」



あーもう!だから早く進もうよ~!







◆◆◆







何とか仲裁をしてやっと出発することが出来た。そうして辿り着いた先には深い森が広がっていた。

『フェンリ森』というらしいこの森には草原とは違うタイプのモンスターが生息しているそうだ。

ただでさえ薄暗い森だ。すでに日が傾きかけていたから、今日の宿は森に入る手前であるここになりそうだ。



森の入り口には両横が切り立った大きな崖がそびえ立っている。その片方を背にするように天幕を構えれば前方のみ警戒をすればいいそうだ。なるほど、と頭の中にメモを残す。覚えることはいっぱいだ。

大きな木の幹にカローリ達の手綱を括り付けると、俺はこの数日でいくらか慣れた野営の準備を始めた。



「サクヤ、こんくらい俺らがやるから。お前はそっちで休んでろよ」



「そうだ。無理をしてまた倒れたらどうする?」



「だから、あれは生まれて初めて魔物がやられるところを見て気分が悪くなっただけなんですよ。俺は別に病弱なわけじゃないからそんなに心配しないで下さい。それに俺の魔法じゃ戦闘にまるで役立でないし…、手伝えるところは手伝わせて欲しいです」



お願いします!と頭を下げると二人はちょっと不満げな顔をしながらも任せてくれた。

それにしてもこのやり取り、なんで毎回やらなきゃならないの。

それだけ俺が倒れたのが衝撃的だったのかなぁ。

俺としてはただ守られて面倒を見てもらう方がよっぽど居心地が悪い。だから雑用はどんどん任せてほしいのだ。

もちろん手際はまだよくないし二人に比べたら非力だから、どれだけ役に立てているかは分からないけど。でもやらなきゃいつまでもできないままだし、それは嫌だ。



「よーし。天幕は張れたから、次はカローリたちのごはんかな。それが終わったら、火を起こして夕食の準備を始めますね。ガロスさんとレイシスさんは休んで武器の手入れとかしてて下さい」



あれ?ふたりが目元を抑えて上を向いている。頭痛?



「ゴホン。…いや、準備は手分けしてやった方が早く休める。手分けをしてやろう」



「そうそう、それが普通だから気にする必要ねえって」



「え、でも…」



「やはり一人でやってみたいか?そうだな…。それなら、私は周囲の警戒をしながら野草や小動物など食材になるものがないか見回りをしてこようか」



「そうだなぁ、んじゃ俺は北の方をやるわ。遠くにはいかねーから安心しな。もし何かあったら渡してある遠呼びの腕輪に魔力を通せ。そうしたら直ぐに駆け付けるからな!」



「確かに、携帯食料だけじゃ二人には物足りないですよね…。それに栄養がしっかり取れれば二人のためにもなるし。それじゃあ、お願いしてもいいですか?」



「「ぐぅ」」



俺がパッと顔を向けると、二人はまた同じポーズで上を見上げて固まっていた。仲いいな?



「…こんなに楽しい遠征あんのか?戦う旦那のために健気に働くって理想の嫁過ぎね?」



「…おかしい。彼はまだ光属性の回復魔法は獲得していないはずなのに。全く疲れを感じない」



ぼそぼそ二人が話している声が聞こえる。

見回りのことで話し合いしてんのかな?さすがプロの冒険者は手慣れてるよな~。



よし!俺も少しでも役に立てるように頑張んないとな!



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