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第1章:俺の声は何!?
12:食事の時間②
しおりを挟む今日も今日とて、俺は……
「仲本聡志は、すこぶる機嫌が良かった……!むふふ」
機嫌が良過ぎて、思わず漏れだす笑い声を堪える事が出来ない。
おかげで、俺を馬鹿にしてくるエルフ達からの視線が、いつも以上に此方に集まっている気がする。
「……あー、いけね」
俺はとっさに緩む口元を片手で抑えると、一旦思考を、その気持ちの悪い笑みを浮かべさせてくる事象から切り離す事にした。
「気を付けねぇと、すーぐアイツら絡んでくるからな。そう、仲本聡志は深く息を吸い込んだ」
最近、あの「短命ご苦労さん」に対し、苦笑で反応するのもダルくなってきていたのだ。そのうち、「お前らはソレしか言えねぇのか!?もっと罵声のレパートリー増やして出直して来いや!?」と、叫び出してしまいそうなのである。
「どうやら、仲本聡志は腹を立てていないと思っていたが、実は、腹の底に、怒りのチリは降り積もって今や山となっていたらしい」
まぁ、そりゃあそうだ。
いくら訳が分からないとはいっても、あれだけ分かりやすくバカにしたような言葉を毎日投げかけられていては、腹も立つ。
「まぁ、ひとまず……いただきます」
そう、今、俺は食堂に居るのだ。
だとしたら、腹を立たせている場合ではない。立てるのではなく、今は空かせた腹を、満たす時だ。
「……ん?」
すると、何故だろう。それまで以上に、俺に向けられていた視線が強くなった気がした。気のせいだろうか。
「うまそ」
今日のスープはゴロリと何らかの肉と野菜の入った、見た目だけで言えばビーフシチューのようなモノだった。
「っはぁぁっ!」
これはもう、完全に美味いの一択に違いないだろうが!そして、ビーフシチューならば、まさに今日もスープにパンを浸す日和である!
「よーし」
そんな訳で、今日も今日とて、俺はスープにパンを浸して食べる。パンを半分に千切り、真ん中の柔らかい部分を中心に、ゴロゴロと具材の入った茶色のスープへと浸す。周囲からの視線が更に強くなった気がした。
「うんまぁっ!!」
分かっていたが、やはり美味い!
そして、その瞬間。俺に集まる視線が一気に熱を帯びた。チラと覗いた同期や先輩達の視線は、完全に俺を馬鹿にする事など忘れ切っている様子だ。
「ははぁん」
コイツは面白い。
「そう、仲本聡志は、絶対に現実世界では口にしないであろう“ははぁん”という、キャラが決まって、したり顔で言う台詞を、ここぞとばかりに口にした。そうなのだ。今、仲本聡志は、最高に“ははぁん”な気分だったのだ」
おかげで、セルフ語り部も饒舌絶好調だ。
「ははぁん」なんて、実際に自分が口にする日が来るとは、さすがに思っても見なかったが。
あぁっ!「ははぁん」が言える人生。なんて、素晴らしいんだっ!
「さぁて、お前ら、全員……」
俺は一気に呼吸を腹に溜め込むと、そのまま気分よく空気を震わせてやった。
俺の声を聴け!
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