54 / 284
第1章:俺の声は何!?
44:自己紹介から始まった
しおりを挟む
-----------
--------
-----
『ねぇ、なまえ。なんていうの?』
俺が四歳の時の事だ。
俺の家の向かいにあったオンボロな家に、山吹 金弥はやって来た。もともと、その、オンボロの家には、おっかない爺さんが一人で住んでいた。
無口で、目つきがギョロっとしてて、よく庭の手入れの為にカマを持っている、日本昔話に出てくる悪役みたいな見た目の爺さんだった。それが、幼い俺には怖くてたまらず、家を出る時は、爺さんが外に出ていないか、毎度毎度こっそり居間の窓から確認していた程だ。
『……ねぇ、なまえだよ。ないの?』
『……』
そんなボロ家に、金弥は突然やって来た。
母親の手に引かれ、俯きながら。あまりに昔の事なので、俺もあまり覚えちゃいないのだが、あの頃の金弥は、今の金弥のように明るく元気なタイプではなかったと思う。
なにせ、俺が何度名前を聞いても、答えてくれなかった程だ。
『ねぇ、きこえないのー?』
『……』
再び、俺は目の前の子供に尋ねた。けれど、やはり返事はない。俯くその顔が、一体どんな表情を浮かべているのか、俺には全く分からなかった。
『まったく。ほら、金弥。あいさつ。できないの?』
『……』
一向に話そうとしない我が子に、金弥の手を繋ぐ母親が、少し苛立ったように金弥に声をかけた。それでも、金弥は何も話そうとはしない。むしろ、俯く顔がもっと深く下を向いてしまった程だ。
そんな中、俺達の頭の上では互いの母親が『人見知りでごめんなさいね』とか『いいのよ。こちらこそ突然ごめんなさいね』と、既に旧知の仲であるかのように話している。
『ねぇってばぁ』
『……』
正直、暗いやつだなぁとか、つまんなそうなやつだなぁと、その時の俺は思った。
『ふむ!』
それでも、そんなのは、その時の俺からすれば些細な事だった。
狭い狭いつまらない世界の中に、見知らぬ同い年の子供が、突然俺の家の前にやって来たのだ。それはもう、その時の俺にとっては相手がどうであれ、歓迎すべき以外の何者でもなかった。
------聡志?お向かいさんに、聡志と同い年の男の子が越して来たみたいよ?
------ええ!あのボロ家に!?こわいジーさんは!?しんだの!?
------お願いだから、そんなこと絶対に外で言わないでね!?お爺さんの娘さんとお孫さんが、
------ちょっと、かお見てくる!
------はぁっ!?ちょっと、待ちなさい!聡志!
確か、こんな具合だった筈だ。当時の俺のはしゃぎっぷりと言ったら、今でも感情の記憶に十分残っている。なにせ、あのおっかない爺さんの居る家にも関わらず、俺自ら駆け出して行った程だ。
-------こんにちはー!
それくらい、近所に同い年の子供が越して来た事が、当時の俺には嬉しかったのだ。
当時、自分一人で遊びに行ける場所と言えば、家の中と庭、そして家のほんの近所だけ。まだ四歳だ。仕方なかったのかもしれないが、正直その頃の俺は、狭すぎる世界と、変化のない日常に、齢四歳にして、既に人生にウンザリとした気持ちを抱えていたのである。
≪オレは、もっと広い世界に出るんだ!この仲間達と一緒に!≫
俺は、テレビアニメの主人公みたいに、仲間と共に未知の冒険に出たくて堪らなかったのだ。
そんな俺の前に現れた、金弥。
家を出れば、すぐに友達に会える。いや、この時の俺にとっては“仲間”と言った方が良いだろう。当時の俺は、金弥という仲間の登場により、やっと俺の冒険は始まったのだと、本気で思っていた。
『ねぇ、ねぇ』
『もう、聡志?人の事ばっかり聞いてるけど、貴方こそ、まだ自分の名前を言ってないじゃない』
お母さんから、最もな事を言われてしまった。確かにそうだ。
ちょうど、こないだ見たアニメの主人公が、同じようにライバルに対して、『名前を尋ねるなら、まず自分からだろうが!』と、勢いよく言い放っていた。
あぁ、いけないけない。
俺は“主人公”なのに、逆にそんな事を言われてしまうなんて。まったく、しっかりしなければ。
なにせ、主人公はいつだって“俺”じゃなければ、いけないのだから。
『おれの名前は、なかもとさとし。これからよろしく』
そう、俺が俯く金弥の顔を覗き込みながら言う。
話す時は相手の目を見てから、とアニメのキャラが言っていた。確かにそうだと思う。そうじゃなきゃ、相手に自分の言葉が伝わっているのか分からないからだ。
『んーー?』
するとどうだ。上の方で金弥のお母さんが『凄いわね。もう聡志君は自分の事を“俺”って言えるの。ウチの金弥なんて、まだ……』と、疲れたような、どこかウンザリしたような声で言った。それに対し、俺のお母さんはすかさず、『うちの聡志だって、こんなのただのアニメの真似っこよ。だから、汚い言葉も平気で使うし』と、すかさず困ったように答える。
俺はコレが嫌いだ。
大人達のよくやる『ウチの子なんて』ごっこ。すごくつまらない遊びなのに、大人はどこへ行ってもソレをやる。
『……あ』
そんな大人達のつまらない会話の下で、俺は見てしまった。ちょうど、金弥の顔を覗き込んでいたから気付く事が出来た。
『ウチの金弥なんて……』と、金弥のお母さんが言った瞬間、金弥の顔が酷く苦しそうに歪んだのを。
その顔に、俺はとっさに理解した。
これは、「助けて」って言ってる人の顔だ、と。
--------
-----
『ねぇ、なまえ。なんていうの?』
俺が四歳の時の事だ。
俺の家の向かいにあったオンボロな家に、山吹 金弥はやって来た。もともと、その、オンボロの家には、おっかない爺さんが一人で住んでいた。
無口で、目つきがギョロっとしてて、よく庭の手入れの為にカマを持っている、日本昔話に出てくる悪役みたいな見た目の爺さんだった。それが、幼い俺には怖くてたまらず、家を出る時は、爺さんが外に出ていないか、毎度毎度こっそり居間の窓から確認していた程だ。
『……ねぇ、なまえだよ。ないの?』
『……』
そんなボロ家に、金弥は突然やって来た。
母親の手に引かれ、俯きながら。あまりに昔の事なので、俺もあまり覚えちゃいないのだが、あの頃の金弥は、今の金弥のように明るく元気なタイプではなかったと思う。
なにせ、俺が何度名前を聞いても、答えてくれなかった程だ。
『ねぇ、きこえないのー?』
『……』
再び、俺は目の前の子供に尋ねた。けれど、やはり返事はない。俯くその顔が、一体どんな表情を浮かべているのか、俺には全く分からなかった。
『まったく。ほら、金弥。あいさつ。できないの?』
『……』
一向に話そうとしない我が子に、金弥の手を繋ぐ母親が、少し苛立ったように金弥に声をかけた。それでも、金弥は何も話そうとはしない。むしろ、俯く顔がもっと深く下を向いてしまった程だ。
そんな中、俺達の頭の上では互いの母親が『人見知りでごめんなさいね』とか『いいのよ。こちらこそ突然ごめんなさいね』と、既に旧知の仲であるかのように話している。
『ねぇってばぁ』
『……』
正直、暗いやつだなぁとか、つまんなそうなやつだなぁと、その時の俺は思った。
『ふむ!』
それでも、そんなのは、その時の俺からすれば些細な事だった。
狭い狭いつまらない世界の中に、見知らぬ同い年の子供が、突然俺の家の前にやって来たのだ。それはもう、その時の俺にとっては相手がどうであれ、歓迎すべき以外の何者でもなかった。
------聡志?お向かいさんに、聡志と同い年の男の子が越して来たみたいよ?
------ええ!あのボロ家に!?こわいジーさんは!?しんだの!?
------お願いだから、そんなこと絶対に外で言わないでね!?お爺さんの娘さんとお孫さんが、
------ちょっと、かお見てくる!
------はぁっ!?ちょっと、待ちなさい!聡志!
確か、こんな具合だった筈だ。当時の俺のはしゃぎっぷりと言ったら、今でも感情の記憶に十分残っている。なにせ、あのおっかない爺さんの居る家にも関わらず、俺自ら駆け出して行った程だ。
-------こんにちはー!
それくらい、近所に同い年の子供が越して来た事が、当時の俺には嬉しかったのだ。
当時、自分一人で遊びに行ける場所と言えば、家の中と庭、そして家のほんの近所だけ。まだ四歳だ。仕方なかったのかもしれないが、正直その頃の俺は、狭すぎる世界と、変化のない日常に、齢四歳にして、既に人生にウンザリとした気持ちを抱えていたのである。
≪オレは、もっと広い世界に出るんだ!この仲間達と一緒に!≫
俺は、テレビアニメの主人公みたいに、仲間と共に未知の冒険に出たくて堪らなかったのだ。
そんな俺の前に現れた、金弥。
家を出れば、すぐに友達に会える。いや、この時の俺にとっては“仲間”と言った方が良いだろう。当時の俺は、金弥という仲間の登場により、やっと俺の冒険は始まったのだと、本気で思っていた。
『ねぇ、ねぇ』
『もう、聡志?人の事ばっかり聞いてるけど、貴方こそ、まだ自分の名前を言ってないじゃない』
お母さんから、最もな事を言われてしまった。確かにそうだ。
ちょうど、こないだ見たアニメの主人公が、同じようにライバルに対して、『名前を尋ねるなら、まず自分からだろうが!』と、勢いよく言い放っていた。
あぁ、いけないけない。
俺は“主人公”なのに、逆にそんな事を言われてしまうなんて。まったく、しっかりしなければ。
なにせ、主人公はいつだって“俺”じゃなければ、いけないのだから。
『おれの名前は、なかもとさとし。これからよろしく』
そう、俺が俯く金弥の顔を覗き込みながら言う。
話す時は相手の目を見てから、とアニメのキャラが言っていた。確かにそうだと思う。そうじゃなきゃ、相手に自分の言葉が伝わっているのか分からないからだ。
『んーー?』
するとどうだ。上の方で金弥のお母さんが『凄いわね。もう聡志君は自分の事を“俺”って言えるの。ウチの金弥なんて、まだ……』と、疲れたような、どこかウンザリしたような声で言った。それに対し、俺のお母さんはすかさず、『うちの聡志だって、こんなのただのアニメの真似っこよ。だから、汚い言葉も平気で使うし』と、すかさず困ったように答える。
俺はコレが嫌いだ。
大人達のよくやる『ウチの子なんて』ごっこ。すごくつまらない遊びなのに、大人はどこへ行ってもソレをやる。
『……あ』
そんな大人達のつまらない会話の下で、俺は見てしまった。ちょうど、金弥の顔を覗き込んでいたから気付く事が出来た。
『ウチの金弥なんて……』と、金弥のお母さんが言った瞬間、金弥の顔が酷く苦しそうに歪んだのを。
その顔に、俺はとっさに理解した。
これは、「助けて」って言ってる人の顔だ、と。
50
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれ同盟
kouta
BL
落ちこぼれ三人組はチートでした。
魔法学園で次々と起こる事件を正体隠した王子様や普通の高校生や精霊王の息子が解決するお話。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる