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第2章:俺の声はどう?
77:大いなる実り
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「……うーん」
気持ち悪さがなくなったおかげで、やっと俺は冷静に周囲を見渡せるようになった。どうやら、隊全員の転移が終わっていないようで、未だにゲートの出口からは兵士がポロポロと現れてくる。
まぁ、もちろん皆平気そうだ。
「……やっぱ納得がいかない」
いや、別に俺があんなに苦しんだ転移を、皆が平気そうな顔でやってのけている事に納得がいかない訳ではない。
納得がいかないのは、この場所だ。
ここ、やっぱ炭鉱じゃね?
絶対こんな場所に“大いなる実り”なんていう、マナの源泉があるようには思えない。
「テザー先輩」
「どうした」
「あの、場所はここで合ってるんですか?」
「……あぁ、そうだが。どうした」
「でも、ここってどう見ても炭鉱じゃないですか?こんな所にマナの源泉があるようには思えないんですけど」
そう、俺がテザー先輩に尋ねると、先輩は明らかに眉を顰めながら此方を見下ろして来た。その目は完全に「お前何を言ってるんだ?」という感情で彩られている。
「お前がどんな想像をしてたのかは知らんが、」
ついでに「バカなのか?」という色も見え隠れしているのだが、それに関しては、完全に納得がいかなかった。先輩にだけは言われたくない。
「ここが、マナの採掘場。ナンス鉱山だ」
先輩はそう言うと、なにやら眉を顰めて鉱山の入口をジッと見つめていた。それにつられて、俺も鉱山の入口を見つめ……鉱山?
「ちょっ、えっ!?待ってください!採掘?鉱山?……え?」
「なんだ」
「マナって……採掘して摂るモノなんですか!?」
思わず声が大きくなる。
だって、そりゃあそうだろ!マナって【セブンスナイト】シリーズではエルフのみが扱える、魔法を使用するのに必要な体内エネルギーのような描かれ方をしていた筈だが。
「いやいやいや」
それなのに、マナを採掘だって?
という事は完全に今回の仕事は、“炭鉱労働みたい”じゃなくて、炭鉱労働そのものじゃないか!
「そうだが……お前、知らなかったのか?」
「知りませんよ!え?え?マナって、エルフの皆の体の中にあって、それを使って魔法を使うんじゃないのかよ!?」
「はぁっ!?そんな訳ないだろう!お前、まさかそんな基本的な事も知らなかったのか!?」
「ええ!知りませんよ!マナってそんな石炭みたいなノリのエネルギーだったなんて……夢崩れたぁ」
「セキタン……?採掘するのは岩石ではなく気体だぞ」
「そんなの、どっちでもいいっすよ!?」
俺はテザー先輩に向かって叫ぶと、ひどくどんよりした坑道の入口を横目に見た。大いなる実り。聞こえだけはファンタジーっぽいが、実際は全然幻想的なんかじゃなかった。
セブンスナイトシリーズで使用されていた、あの華麗な攻撃魔法も、四百年に一度、こうして地道に炭鉱での採掘作業をした結果使えていたモノだと思うと、途端に華やかさに欠ける。
あぁ、知らなきゃ良かった。
「お前、俺達エルフを何だと思っているんだ」
「俺はてっきり、先輩達は体の中に、それぞれの属性のマナを持って生まれてくるものとばかり思ってました。だから、テザー先輩のお腹の中には、氷のマナがある、みたいな」
「それは……斬新な考え方だな。なんというか、腹が冷えそうだ」
「……斬新」
完全にイメージを壊されたショックで茫然とする俺に、先輩はチラチラと周囲を見ると、俺の肩に手を回して耳打ちをしてきた。その瞬間、それまでの気難しそうな先輩の声のトーンから一転して、緩い雰囲気を醸し出してきた。
「お前さぁ、あんまバカみたいな事言ってっと、ほんと下に見られっから気を付けろよ」
「いや、それ今更じゃないですか。人間ってだけで既に下に見られてるんで、もう良いですよ」
ていうか、先輩だってずっと俺の事を“人間の癖に”とか言って格下扱いしていたのに。一体、急に何だと言うんだ。
そうやって俺がテザー先輩を見上げると、先輩は「まぁ、そうなんだけどさぁ」と、気まずそうに俺から視線を逸らした。
「俺も、ここまでとは思ってなかったワケよー」
「まぁ、俺。文字も読めないくらいですからね」
「……そうだったねぇ。あーー、どうすっかな」
「ん?」
「マジで、ほんと。基本的な事だけでも教えるから……コレ見ろ」
先輩は寄せていた眉を、フッと緩めると自身の掌に氷の結晶を出してきた。雪の花みたいで綺麗だ。
「おお!凄いな!っていうか、先輩って氷柱以外も出せるんですね!?」
「あんま、俺をバカにすんなぁ?」
「すげぇな。うん、やっぱ魔法ってスゲェ!」
「これで、喜ぶんだからさぁ。ホント人間と関わってると、異文化こーりゅーって感じだぁ」
「俺も、異文化交流って感じです!」
まぁ、俺にとっては異世界交流なのだが。
「これは、俺の中にあるマナを使ったんじゃなくて、空気中のマナを、俺ん中に通して、氷属性に変換して再放出してんの。だから、別にマナそのものに属性とかねぇのよ」
「はぁ。なら、大気中にマナがあるんなら、採掘とか必要ないじゃないですか」
「ま。大昔はソレで良かったみたいなんだけどねー」
言いながら、テザー先輩は、掌の中にあった氷の結晶を自らの手で握り潰した。すると、先輩の指の隙間からポタポタと溶けた雪が、水滴となって零れ落ちて来る。
あぁ、綺麗だったのに。もったいない。
「今はさぁ、採掘した高濃度のマナを液化して、必要な場所で再び気化する事によって、大気中にマナを充満させてるわけ」
ほう、わからん。
俺はテザー先輩の言葉を右から左に聞き流しながら、深く頷いた。テザー先輩が、今後の事を思って説明してくれるのは嬉しいのだが、どうせ、俺はエルフじゃない。
人間の俺には、正直、マナも魔法も関係ないし、どうでも良いのだ。
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「……うーん」
気持ち悪さがなくなったおかげで、やっと俺は冷静に周囲を見渡せるようになった。どうやら、隊全員の転移が終わっていないようで、未だにゲートの出口からは兵士がポロポロと現れてくる。
まぁ、もちろん皆平気そうだ。
「……やっぱ納得がいかない」
いや、別に俺があんなに苦しんだ転移を、皆が平気そうな顔でやってのけている事に納得がいかない訳ではない。
納得がいかないのは、この場所だ。
ここ、やっぱ炭鉱じゃね?
絶対こんな場所に“大いなる実り”なんていう、マナの源泉があるようには思えない。
「テザー先輩」
「どうした」
「あの、場所はここで合ってるんですか?」
「……あぁ、そうだが。どうした」
「でも、ここってどう見ても炭鉱じゃないですか?こんな所にマナの源泉があるようには思えないんですけど」
そう、俺がテザー先輩に尋ねると、先輩は明らかに眉を顰めながら此方を見下ろして来た。その目は完全に「お前何を言ってるんだ?」という感情で彩られている。
「お前がどんな想像をしてたのかは知らんが、」
ついでに「バカなのか?」という色も見え隠れしているのだが、それに関しては、完全に納得がいかなかった。先輩にだけは言われたくない。
「ここが、マナの採掘場。ナンス鉱山だ」
先輩はそう言うと、なにやら眉を顰めて鉱山の入口をジッと見つめていた。それにつられて、俺も鉱山の入口を見つめ……鉱山?
「ちょっ、えっ!?待ってください!採掘?鉱山?……え?」
「なんだ」
「マナって……採掘して摂るモノなんですか!?」
思わず声が大きくなる。
だって、そりゃあそうだろ!マナって【セブンスナイト】シリーズではエルフのみが扱える、魔法を使用するのに必要な体内エネルギーのような描かれ方をしていた筈だが。
「いやいやいや」
それなのに、マナを採掘だって?
という事は完全に今回の仕事は、“炭鉱労働みたい”じゃなくて、炭鉱労働そのものじゃないか!
「そうだが……お前、知らなかったのか?」
「知りませんよ!え?え?マナって、エルフの皆の体の中にあって、それを使って魔法を使うんじゃないのかよ!?」
「はぁっ!?そんな訳ないだろう!お前、まさかそんな基本的な事も知らなかったのか!?」
「ええ!知りませんよ!マナってそんな石炭みたいなノリのエネルギーだったなんて……夢崩れたぁ」
「セキタン……?採掘するのは岩石ではなく気体だぞ」
「そんなの、どっちでもいいっすよ!?」
俺はテザー先輩に向かって叫ぶと、ひどくどんよりした坑道の入口を横目に見た。大いなる実り。聞こえだけはファンタジーっぽいが、実際は全然幻想的なんかじゃなかった。
セブンスナイトシリーズで使用されていた、あの華麗な攻撃魔法も、四百年に一度、こうして地道に炭鉱での採掘作業をした結果使えていたモノだと思うと、途端に華やかさに欠ける。
あぁ、知らなきゃ良かった。
「お前、俺達エルフを何だと思っているんだ」
「俺はてっきり、先輩達は体の中に、それぞれの属性のマナを持って生まれてくるものとばかり思ってました。だから、テザー先輩のお腹の中には、氷のマナがある、みたいな」
「それは……斬新な考え方だな。なんというか、腹が冷えそうだ」
「……斬新」
完全にイメージを壊されたショックで茫然とする俺に、先輩はチラチラと周囲を見ると、俺の肩に手を回して耳打ちをしてきた。その瞬間、それまでの気難しそうな先輩の声のトーンから一転して、緩い雰囲気を醸し出してきた。
「お前さぁ、あんまバカみたいな事言ってっと、ほんと下に見られっから気を付けろよ」
「いや、それ今更じゃないですか。人間ってだけで既に下に見られてるんで、もう良いですよ」
ていうか、先輩だってずっと俺の事を“人間の癖に”とか言って格下扱いしていたのに。一体、急に何だと言うんだ。
そうやって俺がテザー先輩を見上げると、先輩は「まぁ、そうなんだけどさぁ」と、気まずそうに俺から視線を逸らした。
「俺も、ここまでとは思ってなかったワケよー」
「まぁ、俺。文字も読めないくらいですからね」
「……そうだったねぇ。あーー、どうすっかな」
「ん?」
「マジで、ほんと。基本的な事だけでも教えるから……コレ見ろ」
先輩は寄せていた眉を、フッと緩めると自身の掌に氷の結晶を出してきた。雪の花みたいで綺麗だ。
「おお!凄いな!っていうか、先輩って氷柱以外も出せるんですね!?」
「あんま、俺をバカにすんなぁ?」
「すげぇな。うん、やっぱ魔法ってスゲェ!」
「これで、喜ぶんだからさぁ。ホント人間と関わってると、異文化こーりゅーって感じだぁ」
「俺も、異文化交流って感じです!」
まぁ、俺にとっては異世界交流なのだが。
「これは、俺の中にあるマナを使ったんじゃなくて、空気中のマナを、俺ん中に通して、氷属性に変換して再放出してんの。だから、別にマナそのものに属性とかねぇのよ」
「はぁ。なら、大気中にマナがあるんなら、採掘とか必要ないじゃないですか」
「ま。大昔はソレで良かったみたいなんだけどねー」
言いながら、テザー先輩は、掌の中にあった氷の結晶を自らの手で握り潰した。すると、先輩の指の隙間からポタポタと溶けた雪が、水滴となって零れ落ちて来る。
あぁ、綺麗だったのに。もったいない。
「今はさぁ、採掘した高濃度のマナを液化して、必要な場所で再び気化する事によって、大気中にマナを充満させてるわけ」
ほう、わからん。
俺はテザー先輩の言葉を右から左に聞き流しながら、深く頷いた。テザー先輩が、今後の事を思って説明してくれるのは嬉しいのだが、どうせ、俺はエルフじゃない。
人間の俺には、正直、マナも魔法も関係ないし、どうでも良いのだ。
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