【完結】俺の声を聴け!

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第2章:俺の声はどう?

94:サトシの技術

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『ムカツクんだよ!テメェら!そんな俺の叫び声と共に、そこから俺の全ての巻き返しが始まった!毎日いじめられるだけだった俺の人生が、ハッキリと動き出したのだ。それもこれも、全ては、“あの日”まで遡る――』


 そう、盛大に皆の注目を集める中、俺はイーサの部屋の前で行っていた“お話会”を、そのまま洞窟の中で開演させていた。
 ただ、一つだけイーサのお話会と異なる点があるとすれば、語る演目がイーサの時とは違い“童話”ではなかったという事くらいだろうか。


『俺はこの力を使って、絶対にこの学園で成りあがってみせる……!』


 その話は、転生主人公による成り上がりモノだ。
 まぁ、勿論コレもオーディションの為に、小説の一巻を読んだらハマってしまい最新刊まで読んでしまった代物である。
そして、まぁ分かるとは思うが、オーディションには落ちた。

 何故その物語を選んだのか、俺は未だに分からない。
 ただ、どうやら、あの時の完全にキレていた俺ですら、このエルフ兵達にはイーサと同じ【人魚姫】を演じても、然程刺さらない事は理解していたらしい。


『全員、まとめてかかって来いよ。これまでの俺だと思ったら大間違いだぜ』
『なんで、お前はそんなに自分を責めるんだ!一緒に側に居てくれるだけで、俺がどれだけ救われたかわかるか!?なぁ、スティル!一緒に行こうぜ!』


 そう、今回の小説は、バトルあり、友情あり。そして中身は完全なるサクセスストーリーという、男の子の“大好き”な材料を一気に鍋にかけて煮込んだようなモノだった。
特に、エルフ達に刺さったのは、完全にバトルシーンのようだった。勢いで演じながらも、それは肌で感じた。


『っくそ!この体じゃ剣は扱えねぇ……どうすりゃいいんだ!』


 そりゃあそうか。
 なにせ、俺の目の前に居る、このガタイの良いエルフ連中ときたら、どいつもこいつも“戦い”を生業とした国の近衛兵なのだから。


『クソクソクソッ!こんな所で、また……死んでたまるかよっ!』


 物語に集中し、息を呑む声が聞こえる。あぁ、やっぱりそうだ。どの種族でも、いくつになっても、男は“格好良い”ものには目がない。
そうやって、語り始めてどのくらいが経ったのか。物語は、そろそろ第一話の佳境に差し掛かろうとしていた。


『そう、俺が迫りくる魔物達に、拳を握りしめた時だった!』


 ただ、しかし。
 もちろん、そんな休憩時間程度で、物語の一話分が終わる訳はなかった。

 リンリンリン!

その、けたたましい作業開始のベルが鳴り響いた瞬間、俺は我に返った。

『……あ、休憩終わった』

それは俺だけでなく、エルフ達もそうだったようで、物語に入り込んでいた目が、一気に現実へと引き戻される。そう、ここは主人公の居る戦場ではない。太陽の光など欠片も届かぬ、狭い炭鉱の一角だ。

『……』

 そう、俺は話していた物語をブチ切り、先程まで座っていた岩の上に腰を下ろした。そんな俺を、テザー先輩を初めとしたエルフ達の視線が追いかけてくる。
 ずっと、ずっと、ずっと。

『……あの、休憩。その、終わりましたよ』

 控えめに伝えてみたが、誰もその場から動こうとしない。
 俺はと言えば、その頃には、声を思い切り出し、ストレスも大いに発散されていたので酷く冷静になってしまっていた。それどころか、俺は一体何を皆の前でやっているんだ、と酷い羞恥心が襲ってくる始末。

 いや。これ以上、こっち見んなよ。
 そう、俺がゴツゴツとした岩肌に、必死に目を落とした時だった。

『いやいやいやいや!あの後、マオはどうなるんだよ!?』
『勝手に話して勝手に終わってんじゃねぇし!』
『続きはあるんだろうな!?』

 俺は、集まって来たエルフ達から一斉に『ここで終わるなんてナシだろ!?』と盛大なブーイングを受けていた。
 皆、もちろん俺なんかよりガタイがデカイので圧が凄い。

『え、いや。続きは……』

 俺は、思わず『続きなんて、無い』と言いかけた。なにせ、本当に勢いだったのだ。語って聞かせたというより、完全に俺のストレス発散だ。

 だから、続きなんてあるわけない。
 そうやって、皆から目を逸らすと、ふと皆の洗濯物を抱えたエーイチと目があった。エーイチは俺を見ると、コテリと首を傾げて笑った。

--------サトシ、“人間”からは、自由になれそう?

『おい。サトシ・ナカモト』
『っ!』

 いつの間にか、俺の隣に立って居たテザー先輩が、今はまだ昼なのに、まるで夜みたいな声で俺を呼んだ。少し、声が弾んでいるように思える。
 そう、俺は“人間”ではない。もちろん、“役立たず”なんかではない。

 俺は、この世界で“サトシ・ナカモト”なのだ。

『お前は俺達の使う魔法を凄いというが、俺にとってはお前のその声の方が、断然凄いと思うぞ』
『……ぁ』
『それこそ、魔法のようじゃないか』
『っえ、と』

 そう、大真面目な顔でテザー先輩が言ってくるもんだから、俺は腹の底やら、背中やらが大いにムズムズするのを感じた。
 嬉しい。凄く、嬉しい。それに、物凄く恥ずかしい。

『コレは……ぎ、技術です』

 やっとの事で答えた俺に、テザー先輩は『そんなモノか』と、首を傾げた。

『で、続きはあるのか?』
『……あ、あります』

 こうして、その日から俺は休憩時間の度に皆の前に立って、“お話会”を開催する運びとなったのである。


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