【完結】俺の声を聴け!

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
112 / 284
第2章:俺の声はどう?

99:骨肉の争い

しおりを挟む


「“鉱毒マナ”の被害はどれ程出ている?犠牲者は?」
「まだ犠牲者は出ていませんが、五十八坑道のうち、十八坑道から鉱毒マナの発生により、採掘作業の遅延が見られています」
「……前回より鉱毒マナの発生が早いな」

 マティックの言葉に、イーサは組んでいた手を自身の顎に添えた。
思ったより事態は芳しくない。夢の中でのサトシは何も変化はないと言っていたが、それもいつまで続くか。

「仕方ありません。ナンス鉱山もあと何回採掘に堪えられるか」
「父はそれについて、何の対策も出していなかったのか?」
「……いくつか案と政策は進めてありましたが、決定的な解決策はありません。いくら王も有限であるマナを無限にする事は出来ない。……マナの枯渇は、もうそう遠い未来ではありません」

 マティックの返答に、イーサは父の背中を思い出しながらハッと鼻で笑った。

「自分はもう長くないからと、次に丸投げか。アイツも大した王ではなかったな」
「……そう言わないでください。我が父も、そしてヴィタリック様も、懸命にやってこられました」
「結果が伴わない王の頑張りなど、民からすれば職務放棄と同じだ。無だ、無!」
「ふふ、まったく。おっしゃる通りでございます」

 余りに反論の余地すら残さないイーサの言葉に、マティックは苦笑しながら頷いた。これが外野からの意見ならば、マティックも反論のしようもあっただろう。
しかし、イーサはそうではない。これから王になろうとしている者の放つ、前王への文句は、全てイーサ自身に返ってくる。

 玉座を前に覚悟を決めたイーサだけが、ヴィタリックに対し、文句を言う事が出来るのだ。

「マナの枯渇に対して、今や解決策など一つしかない。……ソラナ。お前のように、目先の女の事……しかも自分の事しか考えていないお前にも、それは分かるだろう。それは何だ?」

 そう、先程から自身に対して、食い入るような視線を向けていたソラナに、イーサは試すような問いを放つ。

「言い方が気に食わないから、答えたくないわ」
「……議論を放棄するな。これは、クリプラント全土の問題だ。さぁ、答えろ。我が国が、他国、つまりはリーガラントからの脅威を、魔法抜きで生き残るには、今後、どうすべきか」

 足を組み、真正面から対峙してくる兄のイーサ。それに対しソラナの腕は、未だにポルカの背中に回されていた。
それが、ソラナにとっては、妙に後ろめたかった。

「……ソラナ、大丈夫?」
「ポルカ、私諦めてないわ。どんな形でも、私は私の望みを叶えてみせる。女は男の道具じゃない」
「はい」
「誰の奴隷でもない。女だからってバカにされたくない。道具みたいに扱われるなんてごめんよ」

 声を震わせながら、ソラナはポルカの背から腕を離した。そして、自身もイーサの前へと背筋を伸ばし、向き直る。

「閉ざされたこの国を、開くこと。この国が生き残るには、開国、それしかないわ」
「そうだ。最早、我が国が生き残る道は、それしかない。このような事、わざわざ考えるまでもないのに、この国のヤツらときたら……開国の重要性を真の意味で理解している王家の者は、ソラナ。お前しか居ない」
「……だから、なによ」
「本当にお前は昔から頭が良い」
「っ!」

 突然の兄、イーサからの何の気のてらいなく放たれた嘉賞に、ソラナは思わず唇を噛んだ。そうしなければ、表情がだらしなく緩みそうだったからだ。
 ソラナに対し、“女”を抜きに、こうして認めてくれていたのは、昔から、そう――。


-----ソラナ。お前は賢い。それは、素晴らしい才覚だ。大切にしなさい。
-----まったく。お前くらいなモノだ。俺の話しをまともに理解できる者は。


 父であるヴィタリックと、この兄だけだった。


「ソラナ……噛まないで。血が出てしまう」
「う゛んっ」

 ポルカは、一気に機嫌が良くなったソラナと、その機嫌に比例するように噛み締められる唇に、思わず声をかけた。しかし、ソラナの唇は未だに噛み締められたままだ。
そんなソラナに対し、ポルカがどうしたものかと思案した時だ。

「ソラナ、聞け」
「な、なによ」

 それまで腕を組んで難しい顔をしていたイーサが、ニヤリとその表情を得意気な色に染め上げた。

「ソラナ、お前は確かに頭が良い。ただ」

 そして、これみよがしにソファの背もたれに体を預ける。それだけで、態度が仰々しくなった。

「“分かっているだけ”では、国政は務まらない」
「……っ!」
「何事も実行出来てこそ、だ」
「わ、私だって……!」
「お前は、思考要領が狭過ぎる。国政は何も、女の事だけ考えていればいい訳ではないからな。きっと、お前の事だ。王業務に追われ、本来やりたかった事に尽力出来ず、途中で要領オーバーになってパンクするのがオチだろう」
「むぅぅっ!」

 とうとう、唇から血が出てきた。
 しかし、それは先程のように嬉しさに弛む表情を隠す為のモノではない。完全に悔しくて噛み締めた唇から流れた血だ。

「ソラナ!血が!」

 ポルカは慌てて傍にあった引き戸から真っ白い布地を取り出すと、血の滲み出したソラナの口にソッと添えた。

 その瞬間、白い布地に、真っ赤な血の色が混じる。

「出来るもん。全部、出来るもん。わだじ、ぜんぶできる……」
「全部など出来るものか。俺でも全部は難しいのに」
「おにいざまに出来なくても、わだじには、でぎるもん」

 ポルカの添えていた白い布地が、今やソラナの目元に添えられた。ポロポロと零れる涙が、布地を濃く色付かせる。

「ソラナ、癇癪を起しても変わらんぞ」
「ぎらい、おにいざま、なんが、ぎらい!一万回ぎらい!」
「そうか。俺はお前の事が……まぁ、嫌いではない。うるさいとは思うがな。お前以外の兄弟達は話し相手にならなかったからな。お前が居なかったら、この王宮は、本当につまらなかっただろう」
「うぅぅぅっ!」

 マティックは隣で全てを聞きながら、イーサが今日この瞬間、ソラナとの王座をかけた兄妹喧嘩を終える気である事を察した。
 本当に、この数日で口の上手くなられたものだ、と心底感心しながら。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれ同盟

kouta
BL
落ちこぼれ三人組はチートでした。 魔法学園で次々と起こる事件を正体隠した王子様や普通の高校生や精霊王の息子が解決するお話。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

処理中です...