【完結】俺の声を聴け!

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
120 / 284
第2章:俺の声はどう?

106:サトシとあもの自問自答

しおりを挟む



 パチリと目を覚ました。
 そこは、いつもの王宮の中庭だった。ただ、いつもと違うのは、俺の頭の上に広がるのが夜空ではなく青空という事だ。

 どうやら、今は昼間らしい。

『イーサのとこ行こ!』

 俺は昼だろうが夜だろうがそんな事は一切関係なく、中庭の小道を走ってイーサの元へと向かった。いつもより心臓の音がうるさい。何故だろうか。いつも以上にイーサに会いたくて仕方が無かった。

『イーサぁ!イーサぁ!オレだよ、サトシだよー!』

 コンコン、コンコンと何度となくイーサの部屋の扉の戸を叩くが、中からは何の返事もない。いつもなら、一回呼ぶだけでイーサが『良く来たな!サトシ!』と、その大きな両腕を広げて出迎えてくれるというのに。

『イーサぁ。いーさぁ……いないのー?ねてるのー?』

 返事もない、足音も聞こえない。ここまでしても返事がないという事は、きっとイーサは部屋に居ないのだ。そう、なんとなく分かっているのに、俺は大声でイーサを呼ぶのをやめられなかった。

『いーさ!いーさぁ!』

 寂しくて、辛くて、少しずつ声が震えていくのが分かった。
 泣きそうだ。しかし、そう思った時には、既に俺の頬には大量の涙が流れていた。イーサが居ない。それが分かった瞬間、それまで腹の底で我慢していたモノが、マグマのように吹き出してきたのだ。

『いーざぁぁっ!オレぇ。のどが、いたいよー!ずっとビリビリして、いたくて、へんだったよー!おれ、ずっと、ずっと、がまんしてたよー!』

 ドンドン、ドンドン。
 いつまで経っても返事のない、開かれる事のない扉を俺は必死に叩き続ける。

『えーいちも、しんじゃうよー!くるじいよー!いーさぁ、いーざぁっ!』

 うえぇぇぇんっ!
 そう、痛みを抱える喉で、俺は多いに泣いた。どうしてだろう。ずっと前から喉は痛かった筈で、イーサからは「何かあったらすぐに言うんだぞ」と口を酸っぱくして言われていたのに。
 実際にこうして大声で苦しい事が叫べるのは、イーサが居ないと分かった瞬間からだ。

『っひく、っひぐ』

 ここで、俺は泣いてばかりだ。
 本当は泣きたくない。泣いても何も解決しないと分かっているから。それに、イーサには弱い所は見せたくない。俺の強い所だけ、格好良い所だけを、見せていたいんだ。

何故かって?そりゃあ、だって。
イーサの声を聴くと思い出してしまうから。

『きンー!』

 山吹 金弥を。

『あいだいよー!どこいっだんだよー!ずっといっじょって、いっだのにー!ひとりだけ、さきにいってぇ!おれを、いつもおいでいっでぇ!』

 イーサが喋る度に、思い出して寂しくなる。
 イーサの声は、金弥の声だ。
 ずっと信じたくなくて、認めたくなくて“似てる”って思って見ないフリをしてきたけれど、似てるんじゃない。同じなのだ。

 俺が、金弥の声を聴き間違う筈がない。

『いーざぁ。ぎんやぁっ。おれぇ、これからどうすればいいのぉ』

 こんな、みっともない所は見せれない。
 俺はビットみたいに格好良い主人公が好きなんだ。金弥にも、イーサにも、俺はそういう奴でありたい。
だから、俺は誰も居ないこの場所で、めいっぱい泣いておくことにした。

『っひぅ、っひく』

 片手で目をこすりながら、俺はドアノブに背伸びをして手をかけた。ガチャリと、その扉は簡単に開いた。本当はこんな事、してはいけないって分かっている。他人の部屋に、勝手に入るなんて。でも、今の俺は泣ける場所が欲しかった。

 誰も居ないけど、安心できる場所で。
 俺はたくさん泣きたかったのだ。きっと、現実世界では泣けないから。

『おじゃま、じます』

 俺は顔をビシャビシャにしながらも、律義に頭を下げ、見慣れたイーサの部屋に入る。部屋に入った途端、安心する匂いが鼻の奥にするりと入り込んでくる。これは、俺の好きな匂いだ。
そして、そこから俺は転がるようにいつもイーサとお喋りをするベッドの上へと飛び乗った。ここは、この世で一番安心する匂いのする所だ。

ここなら大丈夫。ここなら安心して泣ける。
それに、ここにはアイツも居るから、一人だけど一人じゃない。

『あも』

 そこには、イーサの友達のあもが寝ていた。イーサが居なくても、あもは笑っている。
イーサのフワフワのベッドとあもからは、“濃い”太陽の匂いがした。

あぁ、懐かしい、懐かしい。これは、イーサの匂いでもあり、金弥の匂いでもある。

『あも。オレ、のどが、すごくいたいんだ』

 俺はベッドの上で、にっこり笑ってこちらを見てくるあもへと話しかけた。そして、

「どうして?風邪を引いちゃったの?」

 返事をしないあもの代わりに、俺はあもの声を想像して返事をする。多分あもの声は、高くて、ふわふわで、まあるい筈だ。こんな声。そう、こんな声だ。
最初にここでイーサに出会った時に言われた。

------サトシ!あもを喋らせろ!

 そう言われて、俺はあもになりきってイーサに話しかけた。それを、今は自分にやる。

『ちがう。びりびりして、こわい感じ。こんなの初めてだ。でも、もっと怖いことが、あったんだよ』
「どんなこと?」
『ともだちが死んじゃうかもしれないんだ』
「助けられない?」
『助けたい』
「じゃあ、どうしよう」
『……どう、しよう』
「さとし、一緒に考えようよ。いっぱい、今までのことも話してよ。そしたら、一緒に考えられるよ」
『う゛んっ。わがっだ』

 俺はボロボロと涙を零しながら、笑うあもに抱き着いた。耳の奥でエーイチの声が聞こえる。エーイチは沢山の事を、俺に教えてくれた。

 知りたい事は、誰かに聞くだけじゃだめ。
 自分で考えることを止めたらだめ。
 答えがないときもいっぱいある。そういうときは、自分で答えを作り出さないとだめ。

『あのな、あも。最初におれの喉が痛くなったのは……』

 そこから、俺の長い長い、現実と戦う為の自問自答が始まったのである。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれ同盟

kouta
BL
落ちこぼれ三人組はチートでした。 魔法学園で次々と起こる事件を正体隠した王子様や普通の高校生や精霊王の息子が解決するお話。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

処理中です...