148 / 284
第3章:俺の声はどうだ!
132:久々の再会
しおりを挟む「あれ……もしかしてサトシ?」
懐かしい声が聞こえてきた。
久々に聞いた気のするその声は、最後に聞いていた声とは違い、特有の張りと円みを帯びていた。
声だけで分かる。元気になったのだ、と。
「……おう、エーイチ。元気になったみたいだな」
俺はその場から立ち上がると、久々に見る元気なエーイチの姿に、ホッと胸を撫で下ろした。無事なのは聞かされていたが、こうして実物を目の前にすると、やっぱり安心感が違う。
「それはコッチの台詞だよ!良かった!最後に見た時、本当に死んじゃいそうだったから!」
「ごめん。心配かけたみたいで」
「ほんとだよっ!」
そう言って眼鏡の奥の大きな瞳を、これでもかと揺らしてみせるエーイチに、俺はやっと「無事に帰って来れたんだ」と、心の底から思えた。
本当に、皆が無事で良かった。あの、ナンス鉱山から。たった、三十日間。でも、俺にとってはとてつもなく長い三十日間だった。
「ねぇ、サトシ?体は平気?」
「あ。あぁ。ずっと寝てたからな。もう平気だよ」
「あ、いや。そうじゃなくてね」
そう言ってエーイチは自身の両手を重ね合わせると、絵に描いたようなモジモジとした仕草で俺から目を逸らした。その顔は、ほんのりとどこか赤い。
「どうした?」
「あ。いや、お金持ちになる方法ってさ……色々あると思うんだ。僕みたいに、頭を使って商売を成功させるっていうのも一つの手だし」
「ん、あぁ。そうだな」
一体何の話だろう。
俺は血色の良くなったエーイチの顔を見て首を傾げた。しかし、そこから続いたエーイチの言葉に、俺は一瞬にして、自分の置かれていた状況を思い出して息を詰まらせてしまった。
「あとは、その。サトシみたいに、その。か、体を使って……その玉の輿っていうのもアリだと思うよ」
「ぶはっ!」
「腰とか大丈夫?あんまり無理をしたらダメだよ?だって、元気だからこそ“お金”も意味があるわけだし」
「いや、エーイチ。あれは、違くて」
「あぁっ!いいのいいの!いいんだよ!王子様を相手に出来るなんて凄いよ!」
「聞いてくれっ!誤解なんだ!」
「あっ!あの王子様の事、僕も知ってるよ!百年間も、誰が何を言っても反応しなかったらしいのに……やっぱりサトシには、俺や皆には分からない魅力があるんだよ!」
今、「俺や皆には分からない魅力」って言ったぞ、コイツ!
マティックと言いエーイチと言い、気持ちは分からなくもないが、隠しているようで本音駄々洩れで俺の事を貶すのは止めて欲しい。
「自分の容姿について、仲本聡志は理解しているつもりだ。しかし、分かっていても傷つくものは傷つくのである」
セルフナレーションで事実から距離を取ってみる。けれど、何をどうしても、このヒリヒリする気持ちは納まる事はなかった。
ええ!ええ!
分かってるよ!俺は!完全に!どこからどう見ても、普通かそれ以下の顔だよ!モテた事なんか一度もねぇし!俺はいっつも、金弥と女の子を繋ぐパイプ役だったよ!分かってんだよ!ほっとけよ!
「そうだ!皆にもサトシが来てるって知らせなきゃ!ちょうどね、今晩。皆で酒場を貸し切って打ち上げをしようって話してたトコロだったんだ!」
「……そうなんだ」
「そう!みーんな心配してたんだよ、サトシの……腰を」
なんで腰をピンポイントで心配されてんだよ、俺は!せめて体全体を心配してくれよ!?つーか!
「ヤッってない!ヤってないから!俺!」
「おーい!みんなー!サトシが来てるよー!」
「お願いだから話を聞いて!?」
俺の静止も虚しく、エーイチの高くてよく通るその声は、訓練中の皆へとあっと言う間に届いた。
「おい!あそこに居るのサトシじゃねーか!」
「おいっ!皆、サトシが来てるぞ!」
「おー!サトシ!」
皆、俺の姿を認識すると、訓練中にも関わらず此方へと駆け寄ってくる。隊長も一緒にコッチに来ているのを見ると、今は訓練中とは言っても緩い感じらしい。
そして、いつの間にか俺の周りはガタイの良いエルフ達に一気に囲まれていた。みんな笑顔だ。
「あ、えっと。お久しぶりです」
若干の気まずさもあり、俺がおずおずとそんな事を言うと、隊長や皆が笑って言った。
「おいおい。なんだよ。まだ二日も経ってねーぞ」
「でも、確かに長い事会ってなかったように感じるよなぁ」
「まぁ、色々あったしな」
「つーか、サトシ。結局お話の続き聞かせて貰えてねーぞ」
「そうだそうだ!今日、飲み会やっから、その時続きを聞かせろよ?いいだろ?」
正直、さっきのエーイチみたいに鼻からイーサとの件をからかわれると思っていたのだが、俺を前にした皆は一切あの事には触れてこなかった。
皆、男子校みたいなノリのある奴らだから、いの一番に揶揄われると思っていたのに。
しかも、エーイチが言っていた通り、普通に飲み会にまで誘われてしまった。
「あ、えっと。隊長」
「どうした」
「その、飲み会って、俺も行っていいんですか?」
そう、俺がソロリと足元へと目を逸らしながら尋ねると、隊長は「はぁ?」と呆れたような声で答えた。
「何言ってんだ。当たり前だろうが」
「でも、俺とエーイチは人間です」
そう。俺とエーイチは人間だ。
俺はナンス鉱山へ行く直前に、数回街に下りただけだが、それだけでもハッキリと感じた。エルフは、人間にモノを売るのをあからさまに嫌がる。飲み屋や食事処だってそうだ。店の前で入店を断られたのだって、一度や二度の話ではない。
「あぁ、ンな事心配してやがったのか。大丈夫だ。知り合いの店だし、店もまるごと貸し切った。それに、店の方にも人間が来ても問題ないと確認してある。だからお前も、エーイチも何も気にしなくていい」
「……!」
そう言って、俺とエーイチの頭を撫でてくる二人の隊長に、俺は顔が赤くなるのを止められなかった。別に照れているんじゃない。嬉しいんだ。
41
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれ同盟
kouta
BL
落ちこぼれ三人組はチートでした。
魔法学園で次々と起こる事件を正体隠した王子様や普通の高校生や精霊王の息子が解決するお話。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる