222 / 284
第4章:俺の声を聴け!
202:サトシの不安
しおりを挟むカナニ様、俺は全然大丈夫な気がしません。
「エイダ。本当にお前に任せて大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫、大丈夫!さっきジェロームに伝書鳩を飛ばしといたから。そのうち『いつ会う?』って連絡が来るさ」
「……はぁ」
俺は深い溜息を吐くカナニ様を前に、その吐息の色っぽさに耳をそばだてた。どうやったら呼吸だけの演技だけで、あんなに生っぽさが表せるんだ?全然分からん。
「何をそんなに心配してんだよ!こっちにはサトシが居るからな!向こうも会わないワケにはいかないだろ?」
「それはそうだが……」
「そこで上手くサトシがジェロームに首脳会談の約束を取り付けてくれるって!なー?サ・ト・シ?」
俺がカナニ様の溜息の色っぽさに耳を奪われていると、突然エイダが俺の肩を叩いてきた。やっぱりエイダの俺に向けてくるその手の強さには、痛みを伴う。分かってはいたが、俺は完全にエイダに嫌われているようだ。
「え、いや。そこは、エイダ……お前が」
「はぁ?俺はハーフエルフだし。どっちにもつかねーよ?ただお前とジェロームを会わせてやるだけー」
「……」
あとは知らーん!と真っ赤な髪の毛をフワリと靡かせるエイダに、俺はチラとカナニ様とその隣に座るマティックを見た。いや、さすがに一国の元帥に会う役割が俺一人というのは荷が重過ぎるだろう!
「仕方ないか」
「え!?」
「そうですね。そうするしかないでしょう」
「え!?」
なになに!この宰相親子!どうしたんだ!さすがに、首脳会談の約束を取り付ける使者が俺だけって……いやいやいや!待って待って!
「無謀じゃないですか!?」
「他に適任が居ない」
「そうですね」
「じゃあ、せめてカナニ様かマティックが付いて来て……」
「使者として遣わされるのに、私達は適任ではない。あまり此方側ばかりへりくだっては、国の威信に関わる。今後の力関係にも大きく禍根を残しかねん」
「それに、あまり数を遣るとリーガラント側も警戒します」
「そうだな、それに……」
それに、と。カナニ様はエイダの方へチラと視線をやった。
うん、呼吸の間の取り方が絶妙だ。さすが中里さん。そんな事ばかり頭の片隅で考えてしまう俺は、もう完全に話し合いに集中出来ていなかった。
いいだろ、現実逃避くらい。好きにさせてくれよ。
「エイダからの情報が正しいのであれば、リーガラントが抱える問題はウチと同じだ。そうなんだろ?エイダ」
「そうそ。アッチも相当、文明発展のために何やかんやと土地やら何やら掘り起こしてるからな。もうスッカラカンみたいだぜ?発展と継続には、ともかくエネルギーを使う。それはお前らのマナだけじゃないってこった」
エイダは皆が席に座る中、落ち着きなく部屋の中を好き勝手に歩き回る。それに対し、俺の向かい側の席に座る要人達が三者三様の表情を示した。
「なによ。リーガラントの挙兵はただの強がりというワケね!やっぱり人間はいつだって私達エルフが怖いのよ!これは今後の国政の議論を打ち直す必要があるわね。ね?ポルカ?そう思わない?」
「ポルカには難しい事はよくわかりませんが……。私はこの世はソラナの言う通りだと思っているわ」
「かわいい子ね、ポルカ。部屋でうんと可愛がってあげる」
「ありがとう、ソラナ」
可愛すぎる。声も顔も最高過ぎて堪らない。
ただ、またネックレスで火傷したらイヤなので、俺はソッと目を伏せた。しかし、いつ聞いてもこの声は可愛過ぎだ。推せる。
「父上、やはりリーガラント側も同じ病を抱えていましたね」
「そうだな。ただ、向こうは民主国家だ。国民の機運が戦争へと傾いているとなると……なかなか条件交渉も難しかろう」
「他国の内情を、此方側が余り鑑みても仕方がないでしょう」
「マティック、鑑みた上での行動が重要なのだ。政とは自国の影響の及ぼす範囲の輪が大きい。その境界線を見誤るな」
「……心得ました」
もうコッチの親子は何を言っているんだかサッパリだ。
ただ、声だけ聞いていると完全に闇の組織感が凄い。しかし、この二人の声がセットで聞けるというのは中々豪華極まりないので、意味は分からないが声だけはしっかり耳に入れておこう。
いつか俺もラスボス役が回って来るかもしれないし、なんて。
「……」
その中で、俺と話した直後から再び口を閉ざしたイーサが、何やらぼんやりとした目で俺の方を見ていた。そう、さっきからずっとだ。ずーっと俺の事を見ている。
「……イーサ?」
思わずイーサの名を呼んだ。何か不安な事でもあるのか?と。口にしてハッとした。それはまるで、俺が金弥を呼ぶ時の声色そのものだった。
「俺は、考えたのだが」
「うん」
黙っていたイーサが囁くように口を開く。
それに対し、それまでザワザワと好き勝手喋っていた他の四人が、一斉にイーサへと目を向けた。囁き声すらハッキリと耳に残る。これは金弥の声で、俺が常に羨ましいと思っていた部分だ。
やっぱり今も羨ましい。良い声だ。
「俺が一緒にサトシに付いて行くというのはどうだ?」
その瞬間、場の空気がピタリと固まった。
41
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれ同盟
kouta
BL
落ちこぼれ三人組はチートでした。
魔法学園で次々と起こる事件を正体隠した王子様や普通の高校生や精霊王の息子が解決するお話。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる