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第4章:俺の声を聴け!
225:イーサの決意
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「え、ええ?何で転移ゲートにあんなに兵が集まっている?」
俺が満を持して王宮広場の脇にある転移ゲートへと向かうと、そこには大量の兵士達が集まっていた。よく見れば、そこにはマティックやカナニの姿までもがある。何やら非常に難しそうな顔をしているが、何かあったのだろうか。
「……それにしても、アイツらまるで同じポーズで唸っている」
その立ち姿はまるで瓜二つで、これぞ親子と言った様子が垣間見え何やら面白い。
「親子というのは、あぁも似てしまうものなのか。ぶふっ、なんて滑稽なんだ!」
そうやって、マティックとカナニの様子を木の陰から観察していると、すぐにハタと思い至ってしまった。
「まさか、俺が抜け出そうとしているのがバレたのか……?」
そう、俺が背筋をヒヤリとさせた時だった。
「夜中に勝手に転移ゲートを作動させたヤツが居るらしいが、どうやらそれはハーフエルフだって話だ」
「そうなのか?にしても、どうしてクリプラント領内にハーフエルフが居るんだ」
「そんな事俺が知るワケないだろう」
「ったく、とんでもねぇハーフエルフが居たもんだぜ。早いところ見つけだして処刑台に送ってやらねぇとな」
「……」
近くを通りかかった兵士達の話し声に、俺はポケットで大人しくしているあもを撫でた。
「エイダのヤツ……正式な使者なのだから、記録が残るように国境の関所を越えて行けとあれほど言われていたのに」
--------あいあい。了解了解。心配しなさんなって。リーガラントまでの道案内人兼お目通し役は、このエイダにお任せあれ。
調子の良いヤツだとおは思っていたが、こうもアッサリこちら側からの約束を破るとは。まったく困った奴だ。
「でも、なんとなく嫌いにはなれないのは何故だろうな」
理由は分からないが、あぁいう調子の良いヤツは何をしでかすか分からないので、見ていてワクワクする。そういうヤツは、身内に一人くらい居ても構わない。
「いや、そんな事より困ったぞ。なぁ、あも。これでは転移ゲートは使えないが、一体どうすべきだと思う?」
ポケットのあもに語りかける。あもは俺と一緒なのが嬉しいのだろう。ずっと笑っている。そう、笑うだけ。何も話したりしない。サトシが居ればあもはお喋りできるのだが。
サトシさえ居れば。
「……早く、サトシに会いたい」
ポロリと漏れた言葉と共に、俺は無意識のうちに転移ゲートに背を向けていた。使えないモノの前でいくら立ち往生した所で、ここで何かが変わるワケではない。
それに、俺は“待つ”のは飽きたのだ。嫌なのだ。“ゆっくり”“のんびり”は我慢ならない。それが許されるのは、サトシと一緒の時間だけだ。
それ以外は絶対に許されない。そんなモノ国の政だってそうだろう。
「何故、話し合いをする為の場を設ける為の話し合いが要る?そんな事をしたら、その話し合いを決める話し合いが必要になって、その話し合いの為の話し合いが必要になって……あぁっ、まどろっこしい!な、あも。お前もそう思うだろう?」
今回のリーガラントとの会談。
国交の協定を結ぶ為の使者を送るなどせず、最初からトップ同士で話し合えばいいのだ。どちらの国で会談をするだの、国の威信だの、譲歩するだのしだいだの。そんな事をしている間に、時は刻一刻と過ぎていくのに。
--------国同士の話し合いなんですから、当たり前でしょう。旧友との親交を深める場ではないんですよ?イーサ王?
「我が国には時間が無いと言っておきながら、お前達は、国の面子だの、慣例だの。政治の決まりきった段取りばかりを踏もうとする。そして時間を無為に浪費するんだ……」
危機に瀕している我が国に、そんな“悠長”が許されるワケがない。普通では乗り切れない国難を乗り越えるには、“普通の事”をしていてもダメなのだ。
-------イーサ王?そんな事を言って、貴方はサトシから離れたくないだけでしょう。
「そうだ、その通りだ。それの何が悪い?」
いつも“王子”だから“王”だからと我慢ばかりさせて。もうイーサは怒った。
「俺は……私利私欲の“ついで”に国を治めるぞ」
極めて個人的な欲望に国家と国民を巻き込んでやる。国王なんて面倒極まりない職に一生を捧げてやるのだ。そのくらいの旨味がなくては国王などやっていられるワケがない。
「ヴィタリックが賢王というのなら、どうせ次代の俺は大した名声は残せん。アイツを超えるには、賢さだけで立ち向かっては勝てっこない。アイツはズル賢いヤツだからな」
ポケットのあもを撫でながら、俺は耳の奥に響き渡るサトシの声を聴いた。そりゃあもう、片時も忘れた事などない言葉だ。
『ヴィタリック王の声の方が、格好良いよ。お前なんてまだまだだ。自惚れんな』
ヴィタリックめ。死んでからも俺の前で偉そうに立ちはだかってくる。まったく腹の立つヤツだ!
「ヴィタリック、お前が賢王というならイーサはそんなモノ目指さない。私利私欲を尽くして好きな事をしてやる。そうだ、“悪王”としてその名を民衆や世界に轟かせるのだ!」
そして、俺が死んだら絶対に言ってやるのだ。お前の国は、息子の俺がめちゃくちゃにしてやったぞ!と。
「ふむ、それは良いな」
まだまだその予定はないが、そう思うと不思議とこれからの長い俺の治世も“アッという間”な気がしてならなかった。一国を“めちゃくちゃ”にするには一体どれ程の時間を要するだろう。そう思うと、時間が足りないかもしれない。
死ぬ間際、それこそ短命な人間の一生を表す慣用句のように「人生などひと時のお茶の時間程だった」と思えるのではないだろうか。
「……サトシ、お前に俺の方が格好良いと教えてやる」
そう思った時には、俺は地面を蹴っていた。
「っはぁ、っはぁ……!」
一刻も早くサトシに会う方法、それはもう“足”を使うより他ない。それこそ、自身が生まれながらにして持つ、最も原始的で確実な移動手段。それに、己の努力次第で速くも遅くもなる。うん、とても素晴らしい。
俺は王族だ、賢王ヴィタリックの長子にして、この世で最も尊い身を持つエルフである。
腹の底にその自負を据え置きながら、無心で足を動かす。早く、という気持ちがそのまま体内のマナを足へと集中させるかの如く勢いをつかせる。最早周囲の景色など飛ぶように消えて行く。
ただ、あもだけは落ちないようにポケットの奥へと押しやった。外が見えなくてつまらないだろうが、今は我慢して欲しい。落っこちても取りに戻ってやれる余裕はないのだ。
「あははっ!走った方が早いではないかっ!」
なにせ、俺はサトシに会いたくて仕方がないのだから。白み始めた明け方の世界を俺は無心で駆け抜ける。次第に日は高く登り切る事だろう。
「サトシ、サトシ、サトシ……!なぁっ!サトシもイーサに会いたいだろう!」
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