【完結】おいで!! 俺の可愛い神獣様

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
7 / 35

7:ペットと飼い主は似るモノ!

しおりを挟む


 犬にもその子によって様々な性格がある。人間と同じだ。十人十色。いや、十犬十色か。

『くつした、ほら。ここ、すっごい広いぞ。走ろう?』
『くぅん』

 現世で俺が最後に飼った犬。くつした。
 俺の前では悠々とした姿を見せる癖に、ドッグランに行くと途端に俺の傍から離れようとしなかった。

『くつした、ほらっ!』
『くぅ』

 フリスビーを投げてもジッと俺の方を見上げるばかりで、一歩も動こうとしない。しまいには俺の足に頭をピタリとくっつけて俯く始末。

『くつした……』

 ジャーマンシェパードは運動が必須の犬種だ。だから、一日の間に出来るだけ思いっきり走る時間を作ってやりたいのだが。

『くつした、もう帰ろうか?』
『くぅ』

 他の犬が居るドッグランではどうしても犬見知りしてしまう。
 どうやら、くつしたは犬が苦手らしい。でも、俺も人間なのに人間は苦手なので、くつしたの気持ちは分からないでもない。
 俺はくつしたの目の前に膝を付くと、両手でくつしたの顔を挟んでグリグリと撫でてやった。不安そうな、黒い瞳とバチリと目が合う。

『そう、気にするな。くつした。良い子良い子』
『ふぐぅぅ』

 ただ、そんな極度の犬見知りも、成犬になるにつれて少しは改善された。ただ、それでも、家にいる時のようにのびのびとした様子は、結局一度もドッグランでは見られなかった。

『くつした。いつか俺が庭付きの広い家を買ってやるから、それまで元気で待っててくれ』
『わんっ!』

 そんな、いつになるか分からない俺の夢を、くつしたは嬉しそうな顔で笑って聞いてくれた。


◇◆◇


「くつした!行けっ!」
「わふっ!」

 俺は手製のフリスビーを投げると、思いっきり森の中に投げ放った。その瞬間、くつしたが嬉しそうにその後を追う。

「すげぇっ、早いな!くつした!」

 この森は、俺の家の庭だ。とは言っても、俺の所有地でも何でもない。しかし、こんな辺鄙な所、基本誰も寄り付かないので、勝手に俺の庭という事にしている。テイマー仲間からは「なんで、あんな辺鄙な森に住むんだよ」と言われるが、そんなの決まっている。

 人と関わるのが面倒だからだ。……まぁ、別名を人見知りとも言う。

「っう、わ!」

 気が付くと、投げたフリスビーを凄まじい脚力と、跳躍力でひょいと口に咥えるくつしたの姿が視界に映り込んだ。

「おぉぉっ!格好良いぞ、くつした!」
「ふっ、ふっん!」

 くつしたが俺の所にやって来て三カ月近くが過ぎた。まるきり仔狼の姿だったくつしたも、少しずつ体つきが成体に近付いていた。神獣が一体どれほどのサイズまで成長するのかは分からないが、今のところ一般的な狼と大差ない成長速度である。

「っふん、っふん!」
「くつした!いいぞ、速いはや……ん?」

 ただ、体は一般的な大きさなのだが、くつしたの潜在能力は明らかに通常の狼とはワケが違った。

「っふ!っふ!ふんふんふんっ!」
「ちょっ、くつした!待て!おいおいおいっ……ぐほっ!」

 直後、俺の体は後方に勢いよく吹っ飛ばされていた。

「……っぐぅぅ、っう、ぉぉお」
「っはっはっは。取って来た!」

 耳元でくつしたの嬉しそうな声が聞こえる。しかし、俺はそれどころではない。
 成長したくつしたの体と、通常よりも秀でた脚力によりもたらされたスピード。そして、口に咥えた固いフリスビーが、あばらに容赦なく直撃したせいで、俺は悶え苦しむより他なかった。

「~~っう、ぐぅ」
「くつしたは、格好よく、持ってきたぞ!どうだ!」

 あまりの痛みに、言葉なくその場に蹲る俺に対し、くつしたは得意気に尻尾を振りながらペッとフリスビーを目の前に落としてくる。どうやら、痛みに悶え苦しむ俺が、くつしたには喜んでいるように見えるらしい。
 そう、そうなんだよ!そういう生き物なんだよ!

「くつしたは、良い子だろ!見ろ!見ろ!」
「っぁ、あぁ……良い、子だ。くつ、した」
「人間ふぜいには、もったいないな!くつしたは!」

 どんだけ自己肯定感が高いんだよ、コイツは。未だに少しあやしい人語を操りながら尻尾を振るくつしたに、俺は痛む肋骨を撫でながらもう片方の手でくつしたをゆるゆると撫でてやった。
 もう、随分前に手袋は卒業した。

「くつしたは、おやつ、をもらえると思うが?」
「……あいあい。よく、出来ました」
「いいこいいこ、はしないのか?」

 ウエストポーチからおやつの干し肉を探していると、くつしたが期待するようにこちらを見ていた。プライドの高そうな物言いで口にされる「いいこいいこ」という言葉に、俺は思わず噴き出す。
 
「っはは。そうだったな。大切な良い子良い子を忘れてた」
「忘れては、いけないなー」
「ごめんごめん。っよし」

 良い子良い子、というのは両手でくつしたの顔を挟み、ジッと目を見つめながら顔を思いっきり撫でてやる行為だ。くつしたはコレが大のお気に入りなのである。

「良い子良い子――!!」
「うーーーーっ!」

 きっと普段の俺を知る人間なら、完全に引てしまうだろう。いや、俺を知らない人間が見ても「なにあれ」と二度見してくる勢いに違いない。でも、俺の調教の曲げられない信条として「褒める時は全力で」というモノがある。だから、俺の「褒め」は全身全霊だ。
 それに、俺は他人の目なんてどうでも良い。俺にとって大切なのは、いつだって目の前の相手だけだ。

「ほら、おやつだ!」
「はぐっ!」

 三カ月も経つと、くつしたが喋る事に対して違和感は一切なくなっていた。それまでの静かな一人暮らしが嘘のように毎日が賑やかだ。
 それに、躾けの進捗はとても順調。今はハウスも出来るし、お手やお座り、伏せ、追従など基本的な躾もマスターしている。一日三時間は、森の中を好きなだけ駆け回っているお陰か、筋肉も良い具合に成長してきた。
 と、ここまで来たら次にやる事は決まっている。

「なぁ、くつした。ちょっと話があるんだが」
「なんだ。くつしたは、いいこか?」
「……あぁ、良い子だよ」
「どのくらい、いいこか?」

 本題に入りたいのに、くつしたの神様的超絶承認欲求が先に進ませてくれない。どうやら、先ほどの「良い子良い子」では足りなかったらしい。

「このくらーい!良い子良い子―――!」
「うーーーー!」

 その後、数分間。俺はひたすらにくつしたを「良い子良い子」してやった。全力で、全身全霊で、俺の全体力を使って。それなのに、だ。

「っはぁ、っはぁ……あ?」
「くつしたは、いいこか?」
「っぁ、あぁ。……良い子だ」
「いいこか?」
「……」

 ジッとこちらを見てくる期待感を帯びた瞳に、俺は整わない呼吸の中、グッと息を呑んだ。クソ、可愛いな。おい!

「……良い子良い子―――!」
「うーーーー!」

 あぁ、神様相手だと、全力で褒めてやるのも死ぬほど体力が要るらしい。
 こうして、俺が無事にくつしたに「本題」を話せたのは更に十数分後の事だった。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

処理中です...