9 / 35
9:似たものネーミングセンス
しおりを挟む「聞いたぞ、イアン?お前、あのセルゲイ氏の使い魔の依頼を受けたらしいな?」
「……」
「お前は森に引きこもってるから知らないんだろうが、とんでもない相手の依頼を受けたな?セルゲイ氏は俺達テイマーの間じゃ、問題貴族の一人だ」
「……」
「金払いは悪い、性格も悪い。そして、何かにつけて依頼内容にいちゃもんを付け、無理難題を要求してくる事で有名だからな」
「……」
「一匹狼を気取って一人行動ばかりしてるから、こういう情報も共有出来ないんだ。悪い事は言わない。今からでもセルゲイ氏との契約は取りやめた方がいい。時間の無駄だぞ」
いや、俺にとってはこの時間が一番無駄なのだが。
と、喉まで出かかった言葉をグッと引っ込める。ここで無駄に返事をすると更に面倒な事になるのは、これまでの経験で立証済だ。沈黙は金である。
「まさか、そこに居るのがセルゲイ氏から預かった狼か?」
「……」
「ふうん。なんだ、普通だな」
あぁ、うるさい。だからシーザーは嫌いなんだよ!
普通、ここまで無視したら他の人間は諦めて離れて行くってのに。そう、俺がシーザーから完全に背を向けようとした時だった。
「……グル」
「ん?」
シーザーの足元に、真っ黒な艶のある狼の姿があった。この黒狼は初めて見る。長毛種のようで、太陽の光に照らされた毛先がキラキラと輝いていた。年の頃は、くつしたと同じくらいだろうか。凛とした座り姿がとてつもなく美しい。シーザーとは似ても似つかないほど、静かな瞳をしていた。
「……きれいだ」
思わず漏れた声に、シーザーは間髪入れずに自慢げな声を上げた。
「いいだろう?俺の新しいパートナーだ。東洋種の黒狼で、なかなか人に懐かないが、一度主を認めると絶対的な服従を示してくる。腕に自信があれば、一度は手にすべき種類だな」
「……」
聞いてもねぇのに説明をどうも。
俺はシーザーではなく黒狼の方を見ながら、止めどなく空気を揺らす説明を聞き流した。ただ、シーザーには興味は無いが狼の事は気になる。本来であれば、一言も言葉を交わす事なくシーザーに背を向けるつもりだったが、気になって思わず口を開いてしまった。
「……名前は?」
「コイツか?」
「あぁ」
今更お前の名前なんて聞くかよ。
ソロリとシーザーを見やれば、口元に自信満々の笑みを浮かべるシーザーと目があった。うげ、と再び視線を黒狼に戻そうとした時だ。俺は思わず耳を疑った。
「ストローだ」
「……え」
「あぁ、コイツの名前。ストローって言うんだ。良い名前だろ?」
「ストロー……」
なんだ、その名前。
俺は前世の日本でジュースを頼んだ時に必ず突き刺さすアレを想像しながら復唱していた。俺は、アレの先が曲がる方を何度もジュース側に突き刺してしまった思い出がある為、その記憶とセットで妙に苦い響きに聞こえてしまう。
「どうして……ストローなんだ?」
「ストローというのは、極東の言葉で全てを吸い上げる気高き神という意味だ。この子にピッタリだと思ってな」
「……へえ」
まぁ、確かに全てを吸い上げるモノではあるが……。
「っぶ、っく」
「ん、どうしたイアン。ストローがどうかしたか」
「……いや、なんでも。っふ、ふふ」
やめてくれ。そんな凛とした立ち姿でストローって何だよ。笑っちまうだろうが。
それに、シーザーの無駄に女にモテる洗練された顔立ちと、見事な金髪の見た目のせいで、謎の日本語Tシャツを着て悠々と町中を歩く海外勢にしか見えなくなってしまった。笑いを堪えるのが苦しい。
「まったく、変な奴だな。……まぁいい。ちなみに、その子は何て名前なんだ?」
「あ、えっと。くつしただ」
「くつしたぁ?」
俺が笑いの隙間に〝くつした〟と答えた時だ。それまでこれでもかというほど自信満々だったシーザーの表情が、くつしたをまるで可哀想なモノでも見るような目で見下ろした。
「ひどいな。セルゲイ氏は名付けのセンスもないのか」
「……は?」
「もう少しまともな名前を付けてやればいいものを。よく見れば、その子も立派な毛並みと体つきだってのに。可哀想だな。イアン、お前もそう思わないか?」
ストローって名付けたお前にだけは言われたくねぇよ!と、今度こそしっかり言い返そうとした時だった。
「……こっち、みて」
どこからともなく〝声〟が聞こえてきた。
「……ん?なんだ、イアン、何か言ったか?」
「いや、俺はなにも」
「こっち、みて」
「っ!」
いや、これは俺の声じゃない。この、少し高くて寂しそうな声は――。
「……くつした?」
目が合った。そこには不安そうな目でジッと俺を見ているくつしたの姿があった。あれ?俺は今まで何を見ていた。
「おい、イアン。もっとハッキリ喋れよ。聞こえねぇだろ」
「帰る」
「は?……って、おい!イアン!」
俺は後ろから聞こえてくるシーザーの声などまるきり無視し、くつしたのリードを引いてその場を離れた。くつしたは黙って俺の隣を、歩調を合わせて歩く。ここ最近、随分と俺の言う事を聞いてくれるようになった。
「くつした」
「……」
ただ、今は名前を呼んでもいつものようにこちらを見上げてはくれない。
犬の躾は視線を合わせてやる事から始まる。
それなのに、俺は一体何を見ていた?
82
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる