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2:あなたの知らない「投稿サイト」の世界
しおりを挟む俺は帰宅してすぐ、スマホで彼の名前を検索した。
【余生 小説】
余生という名前のせいか、最初は純文学の本の情報ばかりが表示された。
それでも、「ネットで小説がたくさん掲載されているところ」というマスターのヒントのおかげで、わりとすぐに目的のサイトへ辿り着くことができた。
小説投稿サイト【ツク・ヨム】
「創る・読む」と日本神話に登場する「月読」をかけたサイト名。そのせいか、一部界隈では別名「ムーン」とも呼ばれているらしい。
「へぇ、こんなサイトがあるんだ……」
俺にとっての「読書」は爺ちゃんの家や図書館で本を借りて読むのが日常だったせいか、Web小説というのは新しい世界だった。
どうやらここは、誰でも小説を自由に投稿でき、読者は無料で全作品を読めるらしい。作品の評価やブックマーク数でランキングが決まり、上位に入れば出版社の目に止まり書籍化されることもある、と。
「うわぁ!これ、全部タダで読んでいいの!?」
よく本屋で見かける有名タイトルも、まさかのこのサイト出身だった事を知り「マジか……」と思わず声が漏れた。そんな興奮の中、俺の目に〝ある名前〟が目に飛び込んできた。
「あ、コレ。作者のところに〝余生〟って書いてある」
あのマスターが言っていた名前だ。
その名前は、投稿サイトの一番目立つ場所に、大きく表示されていた。
————
1位
誰が勇者を壊したか知らんけど、修理は俺が担当らしい
~パーティ全滅エンド回避の先に待つ地獄の駄犬生活~
作者:余生
————
「これ、どんな話なんだろ?」
クセの強い長いタイトルに、俺はとりあえず一話だけと思いページを捲った——
しかし、それが運の尽きだった。
「や、や、ヤバイ……!なんだ、これっ!面白過ぎる。先が気になりすぎる!」
一話、また一話と読み進める手が止まらず、気づけば夜が明けていた。
そして、そこからはもう完全に〝沼〟だった。
「余生先生の他の作品は……あった!」
俺は、狂ったように彼の小説を読み漁った。
連載、短編、長編、異世界、現代、ファンタジーなどなど……。多数のジャンルでランキング一位に「余生」の名前があり、探すのに手間取る事はなかった。
「もう、やば……。こんな展開、反則じゃないですか……!余生先生!」
興奮しすぎて、語彙は完全に喪失した。心臓は仕事のし過ぎで過労死寸前。
新参読者の俺ですらこうなのだから、他の読者の熱狂ぶりは言うまでもない。作品の感想欄には、毎日何百もの感想が飛び交っていた。「天才」「神」「一生ついていきます」――そんな言葉のオンパレード。
気がつけば俺も、更新通知をチェックするのが日課になっていた。新作が出れば即ブックマーク。書籍化された作品は、迷わずポチっていた。
「余生先生……すごいすごいすごいッ!」
しかも、読むだけじゃ飽き足らず自分も作品も書きたくなって、夜な夜なノートにこっそり書き殴ったりもした。余生先生の文章に漂う空気感、セリフ回し、そして物語の切れ味。すべてが最高過ぎて、真似したくてたまらなかった。
そんなワケで、受験生のくせにWeb小説ばかり読んでた俺は——
————
京明大学 E判定
————
「っひ!」
大学入試まで、あとたった三ヶ月。宮沢直樹、絶体絶命の大ピンチ。
このままじゃまずい。
爺ちゃんも通った憧れの京明に行きたい。
あの喫茶店に、もう一度行きたい。
あの場所で、バイトしたい。それに、なにより——。
(余生先生に、直接、小説の感想を伝えたい!)
その一心で、俺は勉強した。
そして、その決意から三ヶ月後。
◇◆◇
「やった――っ!!」
結果は、見事合格——と、言いたいところだが、実際に「見事」だったかどうかは甚だ疑問だ。
なにせ、「補欠合格」だったのだ。辞退者が出たらしく、翌日、持ち上がりで合格の連絡を受けたのだ。
「よ、よがっだぁ。ごれ゛でッ……余生先生の新作が読める……!」
「余生……?お前、人生もこれからってヤツが何言ってんだ?受かって頭がおかしくなったのか?」
「ぢ、がうぅぅぅっ!」
まるで見当違いなことを言う爺ちゃんに、嬉し泣きしながら抱きついたあの瞬間を、今でもはっきりと覚えている。
正直、京明に受かりたかったのか、我慢していた余生先生の新作を読みたかったのか、自分でもわからない。でも、動機が何であれ、受かってしまえばこっちのもんだ。
そして、四月。
俺は、ついに憧れの京明大学の門を、その足で、堂々とくぐることとなった。
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