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第1章
勇者の事情
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パブの喧騒の中で勇者一行は、魔王城へ赴く最後の準備をしていた。
「やっぱりビールに限るな」
健康的な褐色の肌をしたエリナが、酒焼けのようなハスキー声で、メニューを見ずに注文を決める。エリナはチームの中で随一の力を誇り、その恵まれた体格から敵を豪快に葬る、戦闘狂として活躍をしている。
「あんまり飲みすぎるなよ。一応これから魔王城に行くんだから」
剣士のシンジが一応を強調して、高い声で言った。シンジは十八歳という若さで、このチームをリーダーとしてまとめ上げている。
「心配するな。このくらいじゃ酔わないし、むしろ酔ってるくらいのが力が出て丁度良い」
「まぁ、何でもいいけどな」
パブの店員が、注文した飲み物をテーブルに並べていく。絶妙に泡立った金に輝くビール。見るだけで清涼感を与える炭酸水。酸味漂う珈琲は、その香りだけで目が冷める。そして、普通の水とお茶。全て揃ったところで、シンジは長く伸びた茶髪を掻き上げて、乾杯の音頭をとった。
「乾杯!」
五人の声が入り混じり、喧騒に消えていく。
「じゃあ僕も景気づけに一杯飲もうかな」
盗人のケンスケが最初に注文した炭酸を飲み干して言う。
ケンスケはメンバーの中で二番目に年長の二十四歳であった。しかし、年齢に似合わず中学生と変わらない身長で、円な瞳は子供のようである。
「お前は酒に弱いんだからだめだ。ただでさえ面倒なのに、酔うとさらに面倒だしな」
エリナが豪快に酒を煽りながら茶々を入れる。
「わかったよ。炭酸で我慢するよ。その代わり魔王倒したら、僕とデートしてよ」
「嫌だね」
「じゃあアヤカちゃん」
「やだ」
チーム最年少で魔法使いのアヤカが、ケンスケを蔑むような目で見て、短く答える。アヤカはリーダーシンジの二つ下の妹である。緑のローブに身を包まれていて、室内外を問わずフードをすっぽりと被っている。
「なんだよつれないなぁ」
ケンスケが諦めて炭酸を追加注文したところで、一向は沈黙に包まれる。
少しの間、各々それぞれの注文したドリンクと向かい合っていた。
「そろそろ出発しなくて大丈夫でしょうか」
チーム最年長の薬師アヤマロが、ゆっくりと一語一語選ぶように切り出した。他のメンバー四人の平均年齢が二十歳なのに対して、アヤマロは四十歳のおじさんである。ぽっちゃりとした体躯に、顔を覆わんばかりの濃い髭が、怪しさを出している。しかし年長者ゆえにチームを客観視する心強さと安心感があり、メンバーからは信頼を受けていた。学校に行くことさえできなかったシンジとアヤカに、こっそりと勉強などを教えていたのもアヤマロであった。
「そうだな、ぼちぼち出発しようか」
場を仕切り直すようにシンジが言った。
「ちゃっちゃと行って、記録更新しようぜ」
エリナが最後の一滴まで酒を飲み干して言う。
「今回も記録更新できそうだな。このペースだと十分は固いな」
出発の身支度を整えながらシンジが言う。一行は倣って準備をし始める。
「そう言えば、今まで聞いてなかったけど、なんでそんなにRTAに拘ってるんだ」
ケンスケが聞く。
「母親に復讐をするためだ。今流行りのRTAを極めれば、お金も稼げるし、知名度も上がる。そうすれば、母親も俺たちの存在に気付くだろうし、お金があればこっちから探すこともできる。見つけたら、捨てた理由を問いただしてやる」
「捨てたって本当なのか?」
「俺とアヤカを捨てたのは間違いない。俺たちを預かった親戚が言ってたからな」
シンジは昔を思い出して、眉を潜めた。
「その所為で、俺たちは学校も行けず、粗末な食事でこき使われたり、殴られたりと散々酷い目に遭ってきたんだ。俺たちを直接苦しめた親戚も、捨てた母親も絶対に許さない」
「でも、何か事情があったのかも」
アヤカが一語ずつ区切るように、か細い声で言う。
「理由があろうが、捨てて良いことにはなならない」
「そう、かもしれないけど」
「どちらにせよ、見つけて聞き出せばわかることだ」
シンジが最後に言ったことを皮切りに、準備を終えた一行は席を立ち上がりパブの出口に向かって行った。
「やっぱりビールに限るな」
健康的な褐色の肌をしたエリナが、酒焼けのようなハスキー声で、メニューを見ずに注文を決める。エリナはチームの中で随一の力を誇り、その恵まれた体格から敵を豪快に葬る、戦闘狂として活躍をしている。
「あんまり飲みすぎるなよ。一応これから魔王城に行くんだから」
剣士のシンジが一応を強調して、高い声で言った。シンジは十八歳という若さで、このチームをリーダーとしてまとめ上げている。
「心配するな。このくらいじゃ酔わないし、むしろ酔ってるくらいのが力が出て丁度良い」
「まぁ、何でもいいけどな」
パブの店員が、注文した飲み物をテーブルに並べていく。絶妙に泡立った金に輝くビール。見るだけで清涼感を与える炭酸水。酸味漂う珈琲は、その香りだけで目が冷める。そして、普通の水とお茶。全て揃ったところで、シンジは長く伸びた茶髪を掻き上げて、乾杯の音頭をとった。
「乾杯!」
五人の声が入り混じり、喧騒に消えていく。
「じゃあ僕も景気づけに一杯飲もうかな」
盗人のケンスケが最初に注文した炭酸を飲み干して言う。
ケンスケはメンバーの中で二番目に年長の二十四歳であった。しかし、年齢に似合わず中学生と変わらない身長で、円な瞳は子供のようである。
「お前は酒に弱いんだからだめだ。ただでさえ面倒なのに、酔うとさらに面倒だしな」
エリナが豪快に酒を煽りながら茶々を入れる。
「わかったよ。炭酸で我慢するよ。その代わり魔王倒したら、僕とデートしてよ」
「嫌だね」
「じゃあアヤカちゃん」
「やだ」
チーム最年少で魔法使いのアヤカが、ケンスケを蔑むような目で見て、短く答える。アヤカはリーダーシンジの二つ下の妹である。緑のローブに身を包まれていて、室内外を問わずフードをすっぽりと被っている。
「なんだよつれないなぁ」
ケンスケが諦めて炭酸を追加注文したところで、一向は沈黙に包まれる。
少しの間、各々それぞれの注文したドリンクと向かい合っていた。
「そろそろ出発しなくて大丈夫でしょうか」
チーム最年長の薬師アヤマロが、ゆっくりと一語一語選ぶように切り出した。他のメンバー四人の平均年齢が二十歳なのに対して、アヤマロは四十歳のおじさんである。ぽっちゃりとした体躯に、顔を覆わんばかりの濃い髭が、怪しさを出している。しかし年長者ゆえにチームを客観視する心強さと安心感があり、メンバーからは信頼を受けていた。学校に行くことさえできなかったシンジとアヤカに、こっそりと勉強などを教えていたのもアヤマロであった。
「そうだな、ぼちぼち出発しようか」
場を仕切り直すようにシンジが言った。
「ちゃっちゃと行って、記録更新しようぜ」
エリナが最後の一滴まで酒を飲み干して言う。
「今回も記録更新できそうだな。このペースだと十分は固いな」
出発の身支度を整えながらシンジが言う。一行は倣って準備をし始める。
「そう言えば、今まで聞いてなかったけど、なんでそんなにRTAに拘ってるんだ」
ケンスケが聞く。
「母親に復讐をするためだ。今流行りのRTAを極めれば、お金も稼げるし、知名度も上がる。そうすれば、母親も俺たちの存在に気付くだろうし、お金があればこっちから探すこともできる。見つけたら、捨てた理由を問いただしてやる」
「捨てたって本当なのか?」
「俺とアヤカを捨てたのは間違いない。俺たちを預かった親戚が言ってたからな」
シンジは昔を思い出して、眉を潜めた。
「その所為で、俺たちは学校も行けず、粗末な食事でこき使われたり、殴られたりと散々酷い目に遭ってきたんだ。俺たちを直接苦しめた親戚も、捨てた母親も絶対に許さない」
「でも、何か事情があったのかも」
アヤカが一語ずつ区切るように、か細い声で言う。
「理由があろうが、捨てて良いことにはなならない」
「そう、かもしれないけど」
「どちらにせよ、見つけて聞き出せばわかることだ」
シンジが最後に言ったことを皮切りに、準備を終えた一行は席を立ち上がりパブの出口に向かって行った。
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