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第10話 明春フェス、開幕
しおりを挟む私と竜胆さんは体育館に着いた。椅子が所狭しと並べられているが、それでも尚、広々とした印象を受ける。早めに来たのでまだ席は全然埋まっていない。さて、どこに座ろうか。
「竜胆さんは、前の席の方が良い派?」
「いや、そんな事ないわ。特に拘りは無いし、小森さんに合わせるわよ?」
「ほんと?じゃあ、彼処とかは?」
私は少し後ろ側の席を指で示す。
意外かもしれないが、私はこういう場で盛り上がるのが少し苦手だ。ライブとかフェスとか好きだし偶に行くけど、弾けたり騒いだりじゃなくて、どちらかというと後ろの方で古参のように佇んでいる類いの女なのだ。
ただ、体育館は広いのであんまり後ろ過ぎると見えない。よって、多分あの辺りが私的ベストポジションのはず!
「えぇ、良いわよ。行きましょう」
「うん!ありがとう!!」
了承が得られたので選んだ席に座った。そして、何となく周囲を見渡していると、ステージ最前列の席に座る人達がペンライトを持っていることに気づく。
…なるほど、ガチ勢か。多分あそこにライブ初心者の私が混ざってたら浮きまくっていただろう。危ない危ない、入学早々にKY認定されるところだった。まさかこんな所に罠が仕掛けられていたとは…。学校って怖い!
「竜胆さんはフェスとかライブとか行くの?」
「いえ、ほとんど経験ないわ。普段あまり音楽とか聞かないから。小森さんは?」
「私もあんまり頻繁に行く方じゃないかな。結構好きなんだけどね」
中学の時に行ったのは、二回だけだ。それも妹に誘われてって感じだったけど。好きなアーティストとかは沢山いるけど、熱中したりとかはしないんだよな…。今の私は竜胆さんに夢中だけどね!
「今度機会があったら二人で行こっか!私の好きな歌手とか教えるし!」
「そうね。新しい趣味になるかもしれないし色々試してみようかしら」
趣味か…。私、全然無いんだよなぁ。でも一人でぼんやりと過ごすのは好きだ。…病んでるのか、私?
「竜胆さんの趣味って何?」
「読書とか、ネットで動画を見たりとかよ」
読書をしている竜胆さん…良いな。お嬢様みたいだ。
勝手なイメージだけど、竜胆さんってサブカルチャー女子って感じがする。なんかもう、雰囲気あるよね。結構マイナーな作品も色々知ってそう…。かっこいい。
「読書はめっちゃ似合うけど、動画見たりってちょっと意外かも。どんなやつ見るの?」
「…ね、猫とか」
竜胆さんは頬を少し赤く染めながらそう言った。
(…っ!!破壊力やばい、半端ない。可愛すぎる!)
普通に心臓が止まりかけた。危険が危なかった~。
竜胆さんの照れ顔はちょっとした兵器と言っても過言ではない程のエネルギーを持っていた。
猫 × 美少女 × 照れ顔 = 可愛いのビックバン
宇宙が始まりそう…(錯乱)
そうやって雑談をしていると、どうやら気づかない間に体育館は生徒で満たされてらしい。周りの席はほとんど埋まり、空間には少しの熱気がこもっていた。
もうすぐ始まるだろう。そんな予想をした丁度その時、体育館の電気が消されて暗くなった。よく見ると窓にはカーテンが閉められているのが分かる。隣に座る竜胆さんの輪郭が朧気にしか分からないほどの暗闇。ただ、その中であってもしっかりと竜胆さんの気配は感じることが出来る。これが愛の力…!
竜胆さんの気配しか感じることが出来ないので、この暗闇の中、二人きりでいる気分だ。
『り、竜胆さん…こんな暗い所で二人きりって、ナニするつもりなの?』
『貴方の好きなアレ、よ』
『あ、アレ…って?』
『そんな誘い受けして…悪い子ね。お仕置してあげる』
あーー!駄目だよ竜胆さん!!ハレンチ過ぎるよ!
私のそんな妄想はステージに光が灯ったことで中断される。…良いところだったのに。
それはともかく、光に照らされたステージ上には学生バンドの姿があった。皆、ダメージジーンズを履いている。…すごくロックだ。
「スカルピンシャーってバンド名で活動してます、よろしく!」
「「「うぉぉぉおおー!!!」」」
え、なんかすごい盛り上がってる。乗り遅れた…!
皆、息合いすぎじゃない?練習してきたん??
「早速だけど、一曲目行くよ!盛り上がっていこー!!!」
「「「いぇーい」」」」
うお~っと…危な。一人だけ違うこと叫ぶ所だった。
まじでコール変わるのなんなん?罠過ぎん?
私の心は折れた…。静かに楽しもう…。
私がそう密かに決心していると、イントロが流れ始めた。どうやら最初は流行アニメの映画主題歌を演奏するらしい。カフェやアパレルショップ、本屋さん等々、色々な場所で流されているのでイントロだけで分かった。
演奏が体育館中に響きわたる。その音はまるで私の心に語りかけてきているようで…。
気づくと、私は思わず聞き入ってしまっていた。
音楽って素晴らしい…!
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