6 / 7
変わっていくもの
新たな芽
しおりを挟む
若槻がここを去ってからもそれなりには月城音楽ホールに賑わいがあった。街はずれに立地するとは言え景色は良く空気も澄んでいるので行楽地、観光地としては人気であった。
「それにしてもここの人は流動的だ。」
「…そうだね。演奏家もそれ以外も入れ替わりが激しい。長くても同じ人が住み続けるのは5年くらいじゃないか、…君以外は。」
「私が物好きだと言いたいなら見当違いですよ。月城音楽ホールができる前から剣崎家の実家はここにあったのですからね。」
「だとしても別の場所に移ることくらいあるだろう。君が長男だからという理由なんかで代々住んできた地に留まるとも思えない。そうでしょう、勇?」
「フフフ、随分貴方も私のことがわかってきましたね。まあ長い付き合いですし。私は単純にここが気に入っているから留まっているというだけですよ。人の出入りが激しいということはその分たくさんの人間を観察できるわけですし。」
「なんだか君の方が人ならざるものみたいな発言をしているね。」
「そうですかね。私はどこからどう見たって…」
「あ、志都さん!バイオリン教えて!」
「え、また?いいけど…」
「…そこで何故私の方を見るのですか。いやはや自分の子どもが音楽の道に興味を示してくれたことは嬉しいですよ?でも私の専門はピアノですからね…」
「志都さんはピアノよりバイオリンの方がかっこいいと思うよね?見た目もスマートだし、音も綺麗じゃん!」
「あはは、僕はどっちも好きだよ…」
「ほら、志都さんじゃなくて他の奏者の人に教えてもらってきなさい。」
「ちぇ…」
「…何故かあいつ志都さんのこと気に入っているようで。」
「それはありがたいけど、あの子は何故バイオリンにこだわるんだい?」
「うちに置いてあった若槻さんのレコードを聴かせたらハマってしまって…」
「なるほど…。そこは君に似たのかもね。」
「うーん、どうなんだろう。」
親子か…僕には一生わからないものだがこうして次の世代を観察できるのは悪くない。とは言えやはり永遠などないと思い知らされる。いくら遺伝子を受け継いでいるからと言って、いくら似たような部分があるからと言って、やはりオリジナルではないのだ。その程度のことでショックを受けるから僕は同族たちに人間と関わらない方がいいと助言されるのだろう。…まあそれを無視したわけだが。
「それにしてもここの人は流動的だ。」
「…そうだね。演奏家もそれ以外も入れ替わりが激しい。長くても同じ人が住み続けるのは5年くらいじゃないか、…君以外は。」
「私が物好きだと言いたいなら見当違いですよ。月城音楽ホールができる前から剣崎家の実家はここにあったのですからね。」
「だとしても別の場所に移ることくらいあるだろう。君が長男だからという理由なんかで代々住んできた地に留まるとも思えない。そうでしょう、勇?」
「フフフ、随分貴方も私のことがわかってきましたね。まあ長い付き合いですし。私は単純にここが気に入っているから留まっているというだけですよ。人の出入りが激しいということはその分たくさんの人間を観察できるわけですし。」
「なんだか君の方が人ならざるものみたいな発言をしているね。」
「そうですかね。私はどこからどう見たって…」
「あ、志都さん!バイオリン教えて!」
「え、また?いいけど…」
「…そこで何故私の方を見るのですか。いやはや自分の子どもが音楽の道に興味を示してくれたことは嬉しいですよ?でも私の専門はピアノですからね…」
「志都さんはピアノよりバイオリンの方がかっこいいと思うよね?見た目もスマートだし、音も綺麗じゃん!」
「あはは、僕はどっちも好きだよ…」
「ほら、志都さんじゃなくて他の奏者の人に教えてもらってきなさい。」
「ちぇ…」
「…何故かあいつ志都さんのこと気に入っているようで。」
「それはありがたいけど、あの子は何故バイオリンにこだわるんだい?」
「うちに置いてあった若槻さんのレコードを聴かせたらハマってしまって…」
「なるほど…。そこは君に似たのかもね。」
「うーん、どうなんだろう。」
親子か…僕には一生わからないものだがこうして次の世代を観察できるのは悪くない。とは言えやはり永遠などないと思い知らされる。いくら遺伝子を受け継いでいるからと言って、いくら似たような部分があるからと言って、やはりオリジナルではないのだ。その程度のことでショックを受けるから僕は同族たちに人間と関わらない方がいいと助言されるのだろう。…まあそれを無視したわけだが。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる