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起-妖と人間
時に焦がれる男
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最愛の妻に先立たれてから早5年…。我が子もとっくに独り立ちをし、残された俺はただひたすらに老いと死への恐怖に苛まれていた。次は俺の番だ。ああいやだ、輝かしいあの日に戻りたい。何もかもがあったあの時へ…!しかしそのストレスがまたさらに頭髪を白くし、肌の色をくすませ、自身の姿を醜い老人のものへと変えていく。
様々な薬品を試したこともどうやら逆効果だったらしい。大体そこらに売っている若返りをうたったサプリメントなどロクな成分が入っていない。だが50を過ぎてから突貫で学んだ薬学や錬金術など大した役にも立たず信用できる自作の秘薬なども作れずにいた。
「そうだ、志都なら…」
咄嗟に古い友のことが頭に浮かんだが、すぐに考えるのを止めた。与えられることが嫌で彼のもとから去ったのに今更自分の都合のために頼ろうなんて…。
若葉の優しい緑と咲き誇る桜の儚げで美しいピンク、世界が色付きだした春の日に不釣り合いな鋭い北風が吹くとき、ここに素敵なお客様が訪れる。僕に世界を教えてくれる渡り鳥。厳しい冬を乗り越えた僕へのご褒美。と言ってもそのお客様はまさに先日去っていったばかりの冬そのもののような存在なのだが…
「おいっす、俺は定期便だからな、今年も来たぜ」
「定期便と自称するなら契約を変更することも可能なのかい?例えば春と秋、年2回にするとか…」
「いやあ、すまんな。新井郵便は春のみの営業だ。」
「それは残念。ほら、上がって。飲み物はどうする?今日なんかは春なのに肌寒いから温かい紅茶にするかい?」
「いや、いつも通りアイスティーで頼むぜ。ただいまー…じゃなかった、おじゃましまーす」
毎年彼がここに来る日は春とは思えないほど寒い日なのに何故かいつもこのようにアイスティーを指定する。これを冬の化身と言わずして何と言えば良いのだろう。人柄とかはむしろ夏の日差しのように暖かい…いや暑いのに…。
「それで…今回はどこへ行ったんだい?」
「うーん、修行がメインだったから面白いところにはあまり…。あ、そうだ若市の近くにある割と新しい国の影響で最近科学ブームが起きてるんだ。」
「なんだ、科学だったらある程度の知識は書物で知っているよ。」
「そう言うなって。ほらこれを見ろ、知り合いの妖怪が作った発明品だ。」
「君に妖怪の知り合いがいるのは知っているけどまさか妖怪の発明家とも交流があるなんて。」
「ははは…、まあ俺のネットワークは相当のものだからな。」
「へぇ、やっぱ新井はすごいや。ところでこれはポットかい…?」
「おうよ。だがこれは温めるためのポットではない。冷やすためのポットだ!」
「冷やすためのポット…?」
「これを使えば1秒でキンキンに冷えたアイスティーが作れるんだ。科学と妖力のコラボがなせる業だな。」
「僕へのお土産というより君のための発明品だと思うんだけど…」
「そ、そうとも言うな。ただこいつのすごいところは切り替えスイッチを押すと氷菓も作れるんだぜ。」
「えっ!?それは本当かい?氷菓を作るのは難しいのに…」
「すごいだろー、やっぱこれは人と妖怪が共存する若市だからこそのテクノロジーだな!」
「なんで発明した本人でもないのに、新井が誇らしげにしてるの」
「い、いや、改めて友人の才能に惚れ惚れしていたというか…」
「でも確かにすごいね。こんな面白いもの実際に旅をしている新井だから発見できるわけだし…。」
「…野宮、お前だって街までくらいなら…」
「…どうだろう。体力面でも不安だけど、それより人が多いところは僕にとっては良くない。」
「免疫の関係で、か。だとしたら月城が栄えているのも都合が悪いんじゃないか?」
「そんなことはないよ。僕が生まれる前は本当に何もない場所だったらしいじゃないか。街に出なくてもある程度の物や情報が得られるのは月城音楽ホールができたおかげさ。」
「ま、確かにそれもそうか。俺は芸術には興味がないからよくわからんが、その月城音楽ホールってのは噂によると神が建てたんだろ?」
「僕も半信半疑だけどね。でももしその話が本当ならどこかで神様に会っているかもしれないのか。…どんな人?なんだろ。」
「まあ月城にだって案外妖怪とかは人に紛れてウロウロしているもんだし、神だってそんな貴重な存在じゃないだろ。」
「ええー、そんなことないよ!というかそもそも僕一度も妖怪とかに会ったことないよ!?」
「あいつらだって人間社会では人間に扮してるんだよ。もしそういうのに会いたいならもう少し外に出た時に周りの人間を注意深く観察することだな。」
「おお…やっぱりプロの言うことは違うね…」
「そ、そうか?まあ俺は色んなやつと交流があるからな!」
様々な薬品を試したこともどうやら逆効果だったらしい。大体そこらに売っている若返りをうたったサプリメントなどロクな成分が入っていない。だが50を過ぎてから突貫で学んだ薬学や錬金術など大した役にも立たず信用できる自作の秘薬なども作れずにいた。
「そうだ、志都なら…」
咄嗟に古い友のことが頭に浮かんだが、すぐに考えるのを止めた。与えられることが嫌で彼のもとから去ったのに今更自分の都合のために頼ろうなんて…。
若葉の優しい緑と咲き誇る桜の儚げで美しいピンク、世界が色付きだした春の日に不釣り合いな鋭い北風が吹くとき、ここに素敵なお客様が訪れる。僕に世界を教えてくれる渡り鳥。厳しい冬を乗り越えた僕へのご褒美。と言ってもそのお客様はまさに先日去っていったばかりの冬そのもののような存在なのだが…
「おいっす、俺は定期便だからな、今年も来たぜ」
「定期便と自称するなら契約を変更することも可能なのかい?例えば春と秋、年2回にするとか…」
「いやあ、すまんな。新井郵便は春のみの営業だ。」
「それは残念。ほら、上がって。飲み物はどうする?今日なんかは春なのに肌寒いから温かい紅茶にするかい?」
「いや、いつも通りアイスティーで頼むぜ。ただいまー…じゃなかった、おじゃましまーす」
毎年彼がここに来る日は春とは思えないほど寒い日なのに何故かいつもこのようにアイスティーを指定する。これを冬の化身と言わずして何と言えば良いのだろう。人柄とかはむしろ夏の日差しのように暖かい…いや暑いのに…。
「それで…今回はどこへ行ったんだい?」
「うーん、修行がメインだったから面白いところにはあまり…。あ、そうだ若市の近くにある割と新しい国の影響で最近科学ブームが起きてるんだ。」
「なんだ、科学だったらある程度の知識は書物で知っているよ。」
「そう言うなって。ほらこれを見ろ、知り合いの妖怪が作った発明品だ。」
「君に妖怪の知り合いがいるのは知っているけどまさか妖怪の発明家とも交流があるなんて。」
「ははは…、まあ俺のネットワークは相当のものだからな。」
「へぇ、やっぱ新井はすごいや。ところでこれはポットかい…?」
「おうよ。だがこれは温めるためのポットではない。冷やすためのポットだ!」
「冷やすためのポット…?」
「これを使えば1秒でキンキンに冷えたアイスティーが作れるんだ。科学と妖力のコラボがなせる業だな。」
「僕へのお土産というより君のための発明品だと思うんだけど…」
「そ、そうとも言うな。ただこいつのすごいところは切り替えスイッチを押すと氷菓も作れるんだぜ。」
「えっ!?それは本当かい?氷菓を作るのは難しいのに…」
「すごいだろー、やっぱこれは人と妖怪が共存する若市だからこそのテクノロジーだな!」
「なんで発明した本人でもないのに、新井が誇らしげにしてるの」
「い、いや、改めて友人の才能に惚れ惚れしていたというか…」
「でも確かにすごいね。こんな面白いもの実際に旅をしている新井だから発見できるわけだし…。」
「…野宮、お前だって街までくらいなら…」
「…どうだろう。体力面でも不安だけど、それより人が多いところは僕にとっては良くない。」
「免疫の関係で、か。だとしたら月城が栄えているのも都合が悪いんじゃないか?」
「そんなことはないよ。僕が生まれる前は本当に何もない場所だったらしいじゃないか。街に出なくてもある程度の物や情報が得られるのは月城音楽ホールができたおかげさ。」
「ま、確かにそれもそうか。俺は芸術には興味がないからよくわからんが、その月城音楽ホールってのは噂によると神が建てたんだろ?」
「僕も半信半疑だけどね。でももしその話が本当ならどこかで神様に会っているかもしれないのか。…どんな人?なんだろ。」
「まあ月城にだって案外妖怪とかは人に紛れてウロウロしているもんだし、神だってそんな貴重な存在じゃないだろ。」
「ええー、そんなことないよ!というかそもそも僕一度も妖怪とかに会ったことないよ!?」
「あいつらだって人間社会では人間に扮してるんだよ。もしそういうのに会いたいならもう少し外に出た時に周りの人間を注意深く観察することだな。」
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