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起-妖と人間
繕う者たち
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「…そう言ってまだその子を欺いているのね。」
「欺くなんて人聞き悪いな。あいつが勝手に俺のことを人間だと思い込んでるんだよ。別にわざわざ訂正する必要もないだろ。」
「嘘をついて接触しているなんてその子が可哀想じゃない?」
「嘘はついてないぜ?俺は半分人間だからな。」
「あんたの場合完全にこっち寄りよ。それに発明の件も自分で作ったって言えばいいのに、知り合いの妖怪って誰?もしかして私の可愛い左近ちゃんのこと?」
「…まあそういうことにしておいてくれ。」
「別にあんたが左近ちゃんと仲良くすること自体はいいわ。あの子も楽しそうだし。でも左近ちゃんを隠れ蓑として利用しているなら…」
「すまんって!反省してるからその拳はしまってくれ!」
このシスコンオカマ野郎…尾之郷右近は俺と同じく人間好きな妖怪だ。こいつは俺とは違って自身が妖怪であることをむしろ積極的にアピールしているが、何故か女装をしており女として扱わないとキレる。あと妹の左近に危害を加えようとしてもキレる。
「大体お前ら妖狐と違って俺は自身が妖怪であることを信じさせる根拠があまりないんだよ。力を使うべきではないだろうし…」
「まあそうねぇ。その点私は可愛い耳と尻尾で手軽に妖怪アピールができるからラッキーだわ♪」
「知ってんぞ、積極的な女狐に食われるって半泣きで逃げる人間が多いって噂。お前の場合どっちの意味の捕食もありえそうだけどな。」
「あんた死ぬほど失礼ね!当然知ってると思うけど私たちが人間を食らうなんて人間が勝手に言っているだけ。私は最近人間の甘味にハマっているんだから。」
「それには同意だな。羊羹や餡蜜なんかは冷えてて良い。あとはツァハリアスの一族が住んでいた方から来たゼリーやアイスクリームなんかも美味いな。」
「最近は洋菓子もかなり普及しているものねぇ。」
「って別に俺たちは菓子の話をしに来たわけではないだろ。そろそろ本題に入りたいが…さすがに茶店で話すことではないな、場所を変えるか。」
「そうねぇ~。と言っても他に適した場所、あったかしら?」
「んなもん、お前んちでいいだろ。」
「やだ、ちょっとあんた、また私の左近ちゃんにちょっかいかける気?」
「ちげーよ!大体俺はあんなちんちくりんよりもっとオトナなねーちゃんの方が好みだ!」
「あら、聞き捨てならないセリフねぇ?左近ちゃんより愛らしい生き物がいるとでも言うのかしら~?」
「…俺はどうすりゃいいんだ…」
街の外れ、森の奥に尾之郷兄妹の住処がある。日頃人間社会に入り込み、人間のルールに従い、人間と同じものを食べ、自身を妖狐だと明かしても冗談だろうと笑い飛ばされることもあるような右近も、生活の根幹である住居だけは妖怪の方に合わせているのは意外と言うべきか、割り切っていると言うべきか。いや、単に人からも同族からも逃れて生きようとする左近に配慮しているというだけかもしれない。
「左近ちゃ~ん、お姉ちゃんが帰ったわよ~」
「…お前相変わらず妹の前だとキモいな」
「…なんですって?」
「…おかえりお姉ちゃん…誰かと一緒なの?」
「よ、また来たぜ」
「あ、新井…。」
「…にしてもお前、中身を知っている左近にも”お姉ちゃん”なんて呼ばせてるのかよ。」
「いいじゃない。それにこれは左近ちゃんのためでもあるのよ。」
「あ?どういうこった、そりゃ。」
「…それは私から説明する。別にそういうつもりはなかったけど、どうやら私の身なりは少年のように見えるらしい。」
「…まあ、そうだな。街の書店とかにそういう地味なナリの学生がうじゃうじゃいるぜ。」
「は?左近ちゃんが地味ですって?」
「お姉ちゃんはちょっと黙ってて。…で、これはむしろ好都合だと右近が逆に女のふりをし始めた。」
「はあ。お前ら男女逆転の双子って感じだもんなー…。だが好都合とはどういうことだ?」
「私が左近ちゃんの身代わりになれるってことよ!」
「…びっくりした…。身代わり?どうしてだ?」
「敵はまず可憐な女の子を狙うでしょ?もちろん左近ちゃんは超絶プリティエンジェルだけど、一応私も同じ顔だからお化粧して可愛い服着ればどこからどうみても可憐な乙女でしょ?」
「…そういうことにしておくか。だが、そもそもその理屈がおかしいような気もする。俺がその敵だったら男の方をさっさと殺して残った女を持ち帰るがなぁ…」
「え、新井いやらしい…」
「おい、左近引くな!例えだよ、例え!確かに攫われやすいのは女かもしれないが、本ばっかり読んでて弱っちそうな男なんて結局格好の餌食じゃないか!」
「大丈夫よ、そんな輩は私が消し飛ばすから♡」
「じゃあ最初からお前が女装する必要は皆無だよ!」
「はあ…なんで本当の理由を話さないんだか。」
「ん?なんか言ったか?」
「いや…。それより新井はなんでここに来たの?また発明品で遊びに?」
俺の影響で科学にハマった左近。冷静に見えるが期待が隠しきれていないな、外に出る時は帽子で隠している耳がここではぴこぴこと動くのがよく見える。
「すまないが、そうじゃないんだ。」
「そういえば新井、あんた外じゃできないような話をしたいとか言ってたわね。」
「えっ、なら私は席を外した方が…?」
「いや、左近も聞いてくれ。…多少は関係があるだろうから。」
「なになに?左近ちゃんにも聞かせるって…私へのプロポーズならお断りよ。」
「んなわけあるか!…お前が茶化したせいで言い出しにくくなったが、もっと真面目な話題だよ。」
「真面目な?」
「普段から人間と接している右近ならじきに気付くかもしれないが最近様子がおかしい人間をちらほらと見かける。」
「様子がおかしい人間?私のところのお客さんはいつも通りよ~?」
「茶屋も服屋も情報は入りやすいだろう?何か聞いてないか?」
「今のところは…」
「待って、私人間には詳しくないけど、様子がおかしいってどういうこと?」
「まだ暴徒化はしていないが、何者かの目的のために動かされているようなやつがいるんだ。」
「…御影石桜花かしら。」
「ご名答。」
「御影石って確か人間を操る力を持つ上級妖怪だよね?私みたいな引きこもりの落ちこぼれでも知っているレベルの…」
「その御影石が動いているということは…」
「ああ、近々大きな戦か虐殺が起こるだろう。あれは好戦的な妖怪だからな。」
「しかも人間を使い、自分の手は汚さない最低な輩だわ。わかった、私も街の人間たちにいつも以上に目を配るわ。」
「ああ、そうしてくれると助かる。」
実際右近のネットワークと勘の鋭さはかなりのものだ。それに人妖混ざった俺とは異なり純粋な妖怪で人間に対して友好的という珍しい存在でもある。数少ない同志で、人間を守ることに協力してくれる点では本当にありがたい。俺が定期的に尋ねている野宮千晴も妖怪に理解のある人間だが、あいつを危険なことに巻き込みたくはない。…右近が言っていた通り、力もネットワークも俺は妖怪側だから。
「欺くなんて人聞き悪いな。あいつが勝手に俺のことを人間だと思い込んでるんだよ。別にわざわざ訂正する必要もないだろ。」
「嘘をついて接触しているなんてその子が可哀想じゃない?」
「嘘はついてないぜ?俺は半分人間だからな。」
「あんたの場合完全にこっち寄りよ。それに発明の件も自分で作ったって言えばいいのに、知り合いの妖怪って誰?もしかして私の可愛い左近ちゃんのこと?」
「…まあそういうことにしておいてくれ。」
「別にあんたが左近ちゃんと仲良くすること自体はいいわ。あの子も楽しそうだし。でも左近ちゃんを隠れ蓑として利用しているなら…」
「すまんって!反省してるからその拳はしまってくれ!」
このシスコンオカマ野郎…尾之郷右近は俺と同じく人間好きな妖怪だ。こいつは俺とは違って自身が妖怪であることをむしろ積極的にアピールしているが、何故か女装をしており女として扱わないとキレる。あと妹の左近に危害を加えようとしてもキレる。
「大体お前ら妖狐と違って俺は自身が妖怪であることを信じさせる根拠があまりないんだよ。力を使うべきではないだろうし…」
「まあそうねぇ。その点私は可愛い耳と尻尾で手軽に妖怪アピールができるからラッキーだわ♪」
「知ってんぞ、積極的な女狐に食われるって半泣きで逃げる人間が多いって噂。お前の場合どっちの意味の捕食もありえそうだけどな。」
「あんた死ぬほど失礼ね!当然知ってると思うけど私たちが人間を食らうなんて人間が勝手に言っているだけ。私は最近人間の甘味にハマっているんだから。」
「それには同意だな。羊羹や餡蜜なんかは冷えてて良い。あとはツァハリアスの一族が住んでいた方から来たゼリーやアイスクリームなんかも美味いな。」
「最近は洋菓子もかなり普及しているものねぇ。」
「って別に俺たちは菓子の話をしに来たわけではないだろ。そろそろ本題に入りたいが…さすがに茶店で話すことではないな、場所を変えるか。」
「そうねぇ~。と言っても他に適した場所、あったかしら?」
「んなもん、お前んちでいいだろ。」
「やだ、ちょっとあんた、また私の左近ちゃんにちょっかいかける気?」
「ちげーよ!大体俺はあんなちんちくりんよりもっとオトナなねーちゃんの方が好みだ!」
「あら、聞き捨てならないセリフねぇ?左近ちゃんより愛らしい生き物がいるとでも言うのかしら~?」
「…俺はどうすりゃいいんだ…」
街の外れ、森の奥に尾之郷兄妹の住処がある。日頃人間社会に入り込み、人間のルールに従い、人間と同じものを食べ、自身を妖狐だと明かしても冗談だろうと笑い飛ばされることもあるような右近も、生活の根幹である住居だけは妖怪の方に合わせているのは意外と言うべきか、割り切っていると言うべきか。いや、単に人からも同族からも逃れて生きようとする左近に配慮しているというだけかもしれない。
「左近ちゃ~ん、お姉ちゃんが帰ったわよ~」
「…お前相変わらず妹の前だとキモいな」
「…なんですって?」
「…おかえりお姉ちゃん…誰かと一緒なの?」
「よ、また来たぜ」
「あ、新井…。」
「…にしてもお前、中身を知っている左近にも”お姉ちゃん”なんて呼ばせてるのかよ。」
「いいじゃない。それにこれは左近ちゃんのためでもあるのよ。」
「あ?どういうこった、そりゃ。」
「…それは私から説明する。別にそういうつもりはなかったけど、どうやら私の身なりは少年のように見えるらしい。」
「…まあ、そうだな。街の書店とかにそういう地味なナリの学生がうじゃうじゃいるぜ。」
「は?左近ちゃんが地味ですって?」
「お姉ちゃんはちょっと黙ってて。…で、これはむしろ好都合だと右近が逆に女のふりをし始めた。」
「はあ。お前ら男女逆転の双子って感じだもんなー…。だが好都合とはどういうことだ?」
「私が左近ちゃんの身代わりになれるってことよ!」
「…びっくりした…。身代わり?どうしてだ?」
「敵はまず可憐な女の子を狙うでしょ?もちろん左近ちゃんは超絶プリティエンジェルだけど、一応私も同じ顔だからお化粧して可愛い服着ればどこからどうみても可憐な乙女でしょ?」
「…そういうことにしておくか。だが、そもそもその理屈がおかしいような気もする。俺がその敵だったら男の方をさっさと殺して残った女を持ち帰るがなぁ…」
「え、新井いやらしい…」
「おい、左近引くな!例えだよ、例え!確かに攫われやすいのは女かもしれないが、本ばっかり読んでて弱っちそうな男なんて結局格好の餌食じゃないか!」
「大丈夫よ、そんな輩は私が消し飛ばすから♡」
「じゃあ最初からお前が女装する必要は皆無だよ!」
「はあ…なんで本当の理由を話さないんだか。」
「ん?なんか言ったか?」
「いや…。それより新井はなんでここに来たの?また発明品で遊びに?」
俺の影響で科学にハマった左近。冷静に見えるが期待が隠しきれていないな、外に出る時は帽子で隠している耳がここではぴこぴこと動くのがよく見える。
「すまないが、そうじゃないんだ。」
「そういえば新井、あんた外じゃできないような話をしたいとか言ってたわね。」
「えっ、なら私は席を外した方が…?」
「いや、左近も聞いてくれ。…多少は関係があるだろうから。」
「なになに?左近ちゃんにも聞かせるって…私へのプロポーズならお断りよ。」
「んなわけあるか!…お前が茶化したせいで言い出しにくくなったが、もっと真面目な話題だよ。」
「真面目な?」
「普段から人間と接している右近ならじきに気付くかもしれないが最近様子がおかしい人間をちらほらと見かける。」
「様子がおかしい人間?私のところのお客さんはいつも通りよ~?」
「茶屋も服屋も情報は入りやすいだろう?何か聞いてないか?」
「今のところは…」
「待って、私人間には詳しくないけど、様子がおかしいってどういうこと?」
「まだ暴徒化はしていないが、何者かの目的のために動かされているようなやつがいるんだ。」
「…御影石桜花かしら。」
「ご名答。」
「御影石って確か人間を操る力を持つ上級妖怪だよね?私みたいな引きこもりの落ちこぼれでも知っているレベルの…」
「その御影石が動いているということは…」
「ああ、近々大きな戦か虐殺が起こるだろう。あれは好戦的な妖怪だからな。」
「しかも人間を使い、自分の手は汚さない最低な輩だわ。わかった、私も街の人間たちにいつも以上に目を配るわ。」
「ああ、そうしてくれると助かる。」
実際右近のネットワークと勘の鋭さはかなりのものだ。それに人妖混ざった俺とは異なり純粋な妖怪で人間に対して友好的という珍しい存在でもある。数少ない同志で、人間を守ることに協力してくれる点では本当にありがたい。俺が定期的に尋ねている野宮千晴も妖怪に理解のある人間だが、あいつを危険なことに巻き込みたくはない。…右近が言っていた通り、力もネットワークも俺は妖怪側だから。
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