深海のトキソプラズマ(千年放浪記-本編5上)

しらき

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 この海は電子工学研究科とさほど離れていないところにある。ということはかつて大量の油と鉄の塊が沈んだはずである。だがそんな歴史を忘れられるほど水面は美しい。
「こんにちはー、今日も来たよ!」
誰かの声がする。辺りを見渡しても人影はないのでそれは俺に掛けられたものであろう。
「俺はここの常連ではないのだが…。」
「んん?キミに話しかけたわけじゃないよ。」
「は?でも他に人なんていないじゃないか。」
「これだから一般人は困るね。俺はおさかなさんたちに話しかけたんだよ。」
明らかに向こうの言動の方が非常識なのに何故かこちらが責められている。
「返事はあるのか?」
今までも随分変な奴に会ってきた。正直生き物の声が聞こえる程度なら驚かない。
「あるわけないじゃーん。言葉なんて人間にしか通用しないし不便極まりないね。」
こいつはやばい奴だ。不思議な力は何も持っていないからこそやばいのだ。
「ワンちゃんネコちゃんの言葉を翻訳する機械はあるんだよね。でもおさかなさんとお話ししようと思う人はいないっぽい。」
「理研特区では動物の思想メカニズムも解明されているのか。」
「人間の独りよがりにすぎないかもよー?使ったことないからわかんないけどせいぜいお腹すいたワン~とか遊びたいニャ~とかそんなもんでしょ。そもそも人間以外の生物が人間と同じように思考するかなんてわかっていない。それこそ三大欲求を満たしたいという気持ちと…、警戒心、快不快…、そんな単純なものかもしれない。」
素性もわからない変人はペラペラと話し続ける。人間以外の生物が複雑な思考を持ちえないと考えるなら何故魚に対して話しかけたりなどするのだろう。
「それにしてもキミ、よくもまあ俺の話に付き合ってくれるよね。不思議だね。」
「時間はいくらでもあるからな。」
「ふーん。俺も最近暇でさぁ、ここにおさかなさんの観察に来るんだ。ほら、ここってさ昔軍艦がたくさん沈んだとかでみんなの住処がいっぱいあるんだ。人間が散々荒らした跡地でも彼らはそれを有効活用までしちゃう。すごいよねぇ~。」
散々ここを荒らす原因を作ったのは他でもない“生態”研究科だろう。
「キミとおはなししてたら創作意欲が湧いてきた!偶には誰かと会話するのもいいね。俺はいつもどこかしらの海にいるから良かったらまたおはなししようね!しーゆーあげいん!ずぁいじぇん!」
…勝手に満足して勝手に去っていきやがった。馬鹿と天才は紙一重、というがあの変人は只者ではないように思えた。それとも理研特区の馬鹿はやたら理論的で思考レベルが高いのだろうか。だとしたら彼はワンランク上の変人かもしれない。
「…本当に魚が棲みついている。100年で思い出は遺産になるもんだな。…いやあれは“思い出”と呼ぶには血生臭すぎるか。」
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