外伝‐剣崎雄の世界論

しらき

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2043年の頁「生きる歴史との出会い」

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 あれから俺は更築の郊外にある新井さんの別荘で暮らし、都会の常識を吸収していった。俺の実家がある月城が改めて辺境地だと分かる程度には更築の技術は進んでいたが、若市の近くにある理科研究特別地区とか言う場所と比べるとそれでも数世紀は遅れているらしい。理科研究特別地区、通称理研特区のことは書物で知ったが、どうやら新井さんも行ったことは無いらしい。「俺のような人外は解剖されてしまう」と新井さんは言っていた。
「さてと、そろそろお前さんも色々なことがわかってきただろ。」
思えばこの半年近くで様々なことを知った。先にも述べたように都会の技術に触れ、月城以外の場所での生活も体験した。それに加えて新井さんとの会話は日々歴史の授業であった。ここに初めて来た時にも少し聞いたが、人と妖怪との軋轢や神という存在について。実はここにある新井さんの別荘もとある創造神に造らせたものらしい。色々な知識を得た中、新井さんについては謎が深まるばかりだった。
「確かに色々なことが学べて楽しかったけど、新井さんの目的はなに?若槻の頼み通り俺を外に連れ出すってだけなら数泊して月城に帰ったっていいのに…。それにこんなに色々と教えてくれる必要もないでしょ。」
「…やはり無償の愛を知らないのは嘆かわしいことだな。とはいえ、確かにお前さんに秘密にしていたことがある。」
「ゴクリ…」
「いや、そんな身構えなくていいぞ。会わせたいやつがいてな。」
「会わせたいやつ…?」
「ああ。ちょっと訳ありだが悪いやつじゃないぞ。半年間お前さんの様子を見てそいつに会わせるべきか否かを考えていたんだ。それにちょっとした歴史の知識が必要になるかもしれないしな…。」
歴史の知識が必要?相手は歴史家か何かだろうか。
「で、そいつはどこにいるの?」
「たぶん更築のどこかにいると思う。ちょちょいと探してくるから明日は留守番していてくれ。」
「ちょちょいとって…」
「まあ大方いる場所の目星はついているから明後日くらいには会える。」
「だからさっきお菓子を買っていたんだね!」
「いや、これは俺たちの分だ。あいつは物を食わない。」
「えー、甘いもの嫌いなのかな。美味しいのに。」
菓子を食べない人間と言えば若槻を思い出した。あいつは頭が固いから食べながら会話をするのは行儀が悪いと言ってお茶菓子に手を付けないのだ。俺だけ食べているのも気分が良くないので俺はあいつとのお茶が嫌いだ。新井さんが会わせようとしているのがそんな厳格で窮屈な人物だったらどうしよう。
「それでどんな人なの?」
「俺や若槻と違って本物だ。本物の“ 長生き”だよ。」
「本物の長生き?妖怪かな。何歳なの?」
「いや、今はまだ俺より若いけどいずれ俺の年齢を超える日がくるはずだ。」
「どういうこと?」
「そいつは不老不死だ。」
「不老不死!?そんなのがいるの!?世界ってすげー!」
不老不死か…。寿命がないならそれこそ世界の全てを記録することが現実味を帯びてくるじゃないか。なんて羨ましい!
「ま、楽しみにしてろ。…ついでにうちを綺麗にしておいてくれるとありがたいがな。」
「うん!新井さん掃除が下手だもんね。俺に任せて!」

 そして掃除をしながら新井さんの帰りを待つこと半日(思ったより帰りが早かった!)。
「さて、着いたぞ。おーい、連れてきたぞ。」
「…。」
新井さんの隣にいたのは俺と同じくらいの年齢に見える少年だった。
「へー、新井さんの知り合いだって言うから酒好きなおじさんか偏屈な学者だと思ってたけど、俺と同じくらいの子どもだったなんて!俺は剣崎雄!君は?」
「…白城。」
「へー、白城って言うのか!不老不死だって聞いたけどマジ!?もしかして成長が止まってるの!?」
「…なあ、師匠。子どもって生き物はこんなに騒がしいものなのか。」
「言っただろ、好奇心旺盛なやつだって。お前という特殊な存在はこいつにとって最高の取材対象だからな。」
「取材はもうこりごりなんだけどな…。」
少年のような見た目に騙されたがこいつも俺より長く生きている”大人”なのであった。子どものような大人である新井さんとは対照的だ。だがその外見で俺のことを子ども扱いしてきたことには腹が立った。
「取材ってほどかしこまったものじゃないよ!俺はただ不老不死ってどんなものなのか知りたいだけ!」
「そんなの知ったって面白くもなんともないぞ。」
「…。」
俺が何を言っても否定的な言葉ばかり…。永遠に人生を謳歌する特権を持っているのに、俺にはないものを持っているのに、何故そんなにつまらなさそうにしているのだろう。
「師匠、俺はこんなのの“ おもり”をしなきゃならんのか。」
「はっはっは、元気でいいだろ。」
「いや、そう思うならあんたが相手をすればいいだろうに…」
「いやー、そうはいかないのだ。」
「なんでだよ。」
「あれ?ということは新井さんはここでお別れ?」
「まあそうなるな。」
「えっ!なんで!?」
「俺はまだやることがあるからな。大丈夫、白城は不老不死だし戦闘能力も高い。護衛としては優秀だ。」
「…そういえばそんな話だったな。いいのか少年、俺といても楽しくないぞ。」
新井さんとここでお別れなのは残念だ。古いものも新しいものも知っている新井さんからならもっと色んな知識を引き出せたかもしれないのに。
「うーん、でも白城と旅をすれば必然的に不老不死について何かわかるかもしれないな。よし、面白い話をしてくれるなら特別に俺の付き人にしてやろう!」
「は?なんで…」
「いいな、いいな!ほら、お前さんそういうの得意だろ。剣崎、良かったな、是非お供にしてくださいだってよ!」
「ちょっと、師匠…」
不服そうな白城を置き去りに勝手に話を進めていく新井さんが俺に耳打ちをした。
「頼む、何もかもに絶望している不老不死に世界の素晴らしさを教えてやってくれ。」

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