蝶、燃ゆ(千年放浪記-本編5下)

しらき

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あらすじ・Swallowtails-Blue

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あらすじ
理科研究特別地区(通称理研特区)生態研究科の高校生、一文路直也はちょっとした失敗で人間に寄生する寄生虫を生み出してしまった。その人工生命体は次々と数を増やし、寄生された人々は暴れだしたり、非常識なほどの衝動買いを始めたり、はたまた何もしなくなったりと各々の本性を顕にした。生態研究科本部は戒厳令を出し、世間はまさにカオスとなった。一方高校生にして本部の研究者である杉谷瑞希は寄生虫への対抗策を考えるが突如入水自殺をしてしまう。やがて騒ぎは収まり一文路は世間の非難に耐えきれず姿を消す。
…お話の前置きはこんな感じだ。ここからが本編。永遠を生きる旅人、白城が見たこの地の人々の顔である。



Swallowtails-Blue
 件の寄生虫騒ぎはいつの間にか収まった。とはいえまだ街中には寄生虫がうようよしていることは確かであり人々はその脅威に怯えながら過ごしている。
 「いたいた、あなたが白城さんですか。」
「そうだが、生態研究科付属高等学校に俺の知り合いはもういないはずだ。一体誰が何の用なのだ?」
「中等部から進級した一年の、えっと確か名は…あったあった、“青条真琴”という生徒からお手紙が。」
「セイジョウ マコト…?聞いたこともない名前だ。一応受け取っておくが。」
「俺も中等部から上がった新一年なんですけど噂によるとそいつ、全然中学に来ていなかったとか。」
「不登校児ねぇ…、こりゃあ面倒だな。」
「一応手紙だけでも読んでやって下さいよ、届けた俺の苦労も報われない。」
「わかってるよ。俺を探すのもかなりの手間だったろう、お疲れさん。」
その男子生徒を見送り、それから俺は青条真琴からの手紙に手をつけることにした。

 ―はじめまして、高等部1年の青条です。単刀直入に言います、生態研究科3号分館地下にある無菌室にまで来てください。そこで話をしたいです。噂に聞くところによるとあなたは例の寄生虫の影響を受けていないとのことでその件などについて詳しくお聞きしたいところです。

青条真琴

 「…そりゃあ俺は人間のようであって人間じゃないからなぁ。今回の件だって俺自身の免疫が強く設定され過ぎているってだけだし。手っ取り早いのが彼も俺と同体質にすることだが…そもそもいきなり他人を不老不死の体質にするなんてとんでもテロが許されるはずも無ければ必ず当たりが引けるわけでもないし…。」
窓から外を眺めた。あの不気味な生物はピーク時と比べればまばらではあるが浮遊している。あれが何らかの過程を経て人間に寄生するわけだ…。
 ふと一つの考えが浮かんだ。むしろ何故今までこの方法を思いつかなかったのだろう。俺は窓を開けおもむろにその浮遊物体に火の玉をぶつけてみた。すると案の定それは一瞬のうちに灰になった。その様を見ていた他のやつに対しては当たるか当たらないかギリギリのところを狙って玉を投げてみた。すると火の玉を危険物と察知したのかやつらは回避行動をとった。製作者曰くあの生き物は互いに高度な情報のやり取りができるそうだ。ならば火が危険物であるという情報はあっという間にそのネットワークを通して伝わるだろう。そもそもやつらは熱に弱い生物のようだ。ならばこんな時こそ火を操ることができるという俺のサブ能力は役に立つ。
 「待たせたな、青条。…と言ってもこの部屋に入るまでに10分近くかかるのもどうかと思うぞ。」
「はじめまして、白城先輩。仕方ないじゃないですか、人間以外のあらゆる生物を入室させないためにはここまでやらなきゃ。」
「警戒し過ぎだろう…。そもそもこんな場所に1年近くもいたら外に出られなくなるんじゃないか。」
「人間をやめるよりはマシですよ。」
「ここで籠りきりも充分人間やめている気がするが…。まあいい。で、俺を呼んだということは外に出たくなったのか?」
「いえ、何故あなたが寄生虫の影響を受けていないのかが気になっていただけです。外なんて…どうせ…。」
「…お前からの手紙を受け取った後、普通の人間があの寄生虫の影響を受けなくなる手段を考え、見つけたには見つけたんだ。だがそれを伝授するには一つ条件があるな。」
「条件、ですか。いえ、何でも仰って下さい!俺はまだ人間でいたい!」
「外に出ろ。」
「えっ?」
「外に出て現実を見るんだ。お前の先生が、友達がどうなっているかは知らない。だがどうであれその現実を受け入れろ。」
「…。」
「そもそも俺は普通の人間と比べて免疫が強めに作られている。そういう存在だ。だがヴァッフェルから来たホルニッセのように自身の精神力でやつらの影響を防いでいる者もいる。お前の心が弱ければもしかしたらこの予防策は無駄かもしれないしな。」
青条はしばらく考えていたがしっかりと俺を見てこう言った。
「…わかりました。もう逃げません。」
「…そうか、よし。じゃあ具体的な方法だが端的に言うとお前には火を纏ってもらおう。」
「えっ、火をですか!?無理ですよそんなの!」
「まあ落ち着け。魔術、妖術が当たり前の若市で生まれた俺には火を操る能力がある。ここが俺の天才的なところなんだが火の形態や火力の微調整が可能なんだ。つまり薄い膜上の、外側にだけ熱を放つ火をお前に纏わせればそれがガードとなるわけだ。」
「そんなことが出来るんですか…。」
「あの寄生虫が熱を嫌がるというのも実証済みだ。バリアを張る、といった形になるが。」
「それって水に濡れたりとかしても大丈夫なんですか?」
「そこは問題無いのだが流石にこのバリアも永遠にもつわけではない。なるべく俺と行動してもらうことにはなるな…。」
「別にいいですよ、それくらい。1人でいるよりは心強いでしょうし。」
「そうか、じゃあどうする?やるんだな?」
「はい、お願いします。」
とは言ったものの実際生きた人間に対して無害な炎を纏わせたことなどない。だがここに来るまでに練習は重ねた。なんとかなるはずだ―
 「…終わったんですかね…?」
「一応な。生活に支障がないように生物にしか反応しないようにはしておいた。」
「どんだけ融通が利くんですか…。」
「だが、今最大の問題点に気付いた。」
「えっ、なんですか…?」
「いや、生物に対してこのバリアが発動するってことは…つまり…」
「…まさか俺誰かと握手すらできない!?」
「…そういうことになりますね…。」
「危なかった、今上手くいったと聞いて握手のひとつでもしそうでした。」
「いや、俺は大丈夫だから。」
「あっ、そっか。そうですよね。」
「さあ、外に出る覚悟はできたか?」
「はい。…この扉をくぐるのも久々だな。」
 覚悟を決めたのか青条真琴の背中は堂々としていた。だが外の惨状、そして誰とも触れられない孤独に彼はいつまで耐えることができるだろうか。
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