Prisoners(千年放浪記-本編4)

しらき

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Indulgentia

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 「あら、エリックさん。探しましたわよ。手が空いているならお手伝いして欲しいのですが…」
「ああ、わかった。それにしても最近やたら人が来るね。」
「それはそうでしょう。わが国のホルニッセ第一王子が行方不明なんてみなさん不安になるに決まっています。私だって…」
「そういえばそんなことがあったな。いや、俺はあまり俗のことには興味がなくてさ。」
「まあ。」
俺とこの女、シスター・カトリーは町はずれの教会で“迷える子羊”たちの話を聞くのが仕事だ。カトリーの言う通り最近この国、ヴァッフェル王国の王族が行方不明になるという事件が起きてから教会に訪れる人の数が一気に増えた。奴らの話を聞くのが仕事だとは言ったが相談や説法は無償で行っているため実質タダ働き。一応訪れる人が増えれば教会で販売しているパンやワインの売り上げも伸びるが、それでも雀の涙。だがこれ以上物販を拡大すれば真面目な信徒たちの反感を買うに違いない。
「あんたは一体誰が王子サマを誘拐したと思う?」
「あら、エリックさんはその噂が本当だと思っていらっしゃるのね。私もよくその話を聞きますわ。」
「その言い方だとシスターは誘拐じゃないと思っているようだな。」
「ホルニッセ様はとても好戦的な方だとお聞きしましたわ。なんでも軍隊の先頭に立って戦われるとか…」
「なんだ、随分とひどいことを考えるんだね。そりゃあお国に対する侮辱じゃないのか?」
「まさか私も本当にそうだとは思っていません…!しかし誘拐と考える方が非現実的ではなくて?」
「確かにあの坊ちゃんはかなり腕がいいらしいからな。だがそれに対する驕りか知らないけどほとんど護衛をつけず城下町をうろうろしていることがしょっちゅうあるらしいからな。」
「エリックさん…俗のことに興味がなかったのでは?」
「興味はないさ。だが職業柄嫌でもそういう話が飛び込んでくるから。」
「ふふ、それもそうですわね。」
「まあ、とにかくああ見えてあの王子はスキだらけだ。王族に恨みがある奴、金が欲しい奴、単に目立ちたい奴…そんな奴らが狙いをつけていても不思議ではない。」
「そんな…。」
「まあ真相はわからないがな。」
真っ白すぎて吐き気がする女を置いて教会へ戻った。“ホルニッセ王子はこの国の光だ。そんなお方が行方をくらますなどこの国は終わりだ…!”、そんなことはない。この国の政治は現国王が行っており、第一王子の役割はせいぜい国軍の指揮。彼には優秀な弟がおり後継者としてはむしろそちらの方が望まれている。“こんな状態じゃしばらく祭りもできやしない!”、王族とはなんて可哀想な存在なんだ、自分自身が愛する国民を苦しめていることも知らずにどこかでのうのうと生きて…あるいは野垂れ死んでいるのか。実にその皮肉は面白い。その身1つで世の中の経済を動かす男、Hornisse=Zacharias。俺が形式上崇めている神というやつもそうだ。偶像の影響力、経済効果は計り知れない。ああ、一歩遅かった。王子を誘拐した何者かのせいで俺も指をくわえて見ている側になってしまったではないか。
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