14 / 23
Memoire
3
しおりを挟む
…不味いことになった。”ロン”のイメージがいささか宗教的過ぎたか。興味は無いが専門家なのでわかる。この国において既存の宗教がどれほど重要であるかを。いや、一般市民にとってはそこまで大きな存在ではないかもしれない。礼拝やしきたりが日常に染みついているという点では確かに宗教は彼らに影響を及ぼしていると言えるがそれは惰性で信仰心ではないように思える。こういった緊急事態には教会に訪れる人が増えるが、それも彼らが信心深いというよりは教会をお悩み相談室として捉えていると言った方が適切だろう。まあそんな一般人の事情はさておき、我々聖職者同様国も宗教の動きには敏感だ。だが我々と国で少し違うのは向こうは信仰心の薄れについては割と無関心で(俺もそうだ)、新興宗教については疑わしき芽は全て早急に摘んでおきたいというレベルに敏感であることだ。新たなカリスマが登場することに冷や冷やしているなんて案外ヴァッフェル王家は脆弱なんだな。
とにかく腹が立つことにどこかの誰かがロンをメシアだの、教祖だの言いだしたのを皮切りに彼を祀り上げる宗教団体らしきものが出来てしまった。そしてそれはSNSだけでなくアナログ的な噂でも広がり世代も性別も様々な人間が属する組織にまで発展しつつある。もちろん獅子堂倫音本人は全く関与していないし、こんなはずじゃなかったと繰り返し呟いていた。ちなみに今彼は不本意だという顔をしながらもうちのオフィスに匿われている。
「…本当にこれはあなた方の仕業じゃないんですか。」
「まだそんなことを言っているのかね。表から来た君にはわからないかもしれないが、ここでは汚職は許されても新興宗教だけは許されない。新たな神の登場はすなわちクーデターだからね。」
「だとしたら一体誰が何のために…。俺に無断で事を大きくして…そいつも、あんたも、なんなんだよ!俺は何もしていないのに…。そうか、俺は外国人だから…」
「…君を嵌めた人間が言うことでもないが、君がこのような目に遭うのは出自のせいではない。勉強不足なせいだろう。」
「勉強不足?」
「まず相手の情報を十分に知ってから行動をするべきだな。まあ我々については余程上手く調べなければ悪徳企業だって気付けないだろうよ。そして己についてもよく知るべきだ。君はまだ自分が選ばれた理由を理解していないだろう。」
「え、それは俺がここのルールをよく知らない人間で、扱いやすそうだったからじゃないんですか…?」
「うーん、15点だな。そんな頭が空っぽでそこそこ歌が上手い程度のやつ溢れかえるほどいるさ。いいかね、ここは芸術の国。いくら民が音楽に飢えていたとしてもただのガキにあれほど人が群がるなんてことはない。それに別に音楽が聴きたいだけなら聴けるだろ。そのためのテクノロジーだ。」
「確かに…。じゃあ俺に才能があったってことですか?嬉しいような…そうでもないような…」
「まあ極論そうなるだろう。…真相は無い頭を使って考えたまえ。」
「え、あ、ちょっと…!」
つい喋り過ぎてしまった。正直俺はこんなのを相手にしている場合ではない。一手でも誤れば実家と利益、両方を失うことになりかねないのだ。ロンを救世主として祀り上げる者、そしてそれに賛同する者がいたというのはすなわち人々が今の宗教に不満を持っているということだ。第三者に支配権を握られる前にロンをプロデュースしている俺が信者たちを動かすことが出来れば確実に利益にはなる。しかしいくらうちが国家とのパイプを持っているとしてもそれは金だけで成り立っているのではない。ただ金を持っていて国家に忠実な企業や一族などそこら中に転がっている。果たして宗教的立場を捨てた俺が国に贔屓されるかはわからない。そんなリスクを取るくらいなら頃合いを見て獅子堂倫音を切り捨てるべきだろうか…。
とにかく腹が立つことにどこかの誰かがロンをメシアだの、教祖だの言いだしたのを皮切りに彼を祀り上げる宗教団体らしきものが出来てしまった。そしてそれはSNSだけでなくアナログ的な噂でも広がり世代も性別も様々な人間が属する組織にまで発展しつつある。もちろん獅子堂倫音本人は全く関与していないし、こんなはずじゃなかったと繰り返し呟いていた。ちなみに今彼は不本意だという顔をしながらもうちのオフィスに匿われている。
「…本当にこれはあなた方の仕業じゃないんですか。」
「まだそんなことを言っているのかね。表から来た君にはわからないかもしれないが、ここでは汚職は許されても新興宗教だけは許されない。新たな神の登場はすなわちクーデターだからね。」
「だとしたら一体誰が何のために…。俺に無断で事を大きくして…そいつも、あんたも、なんなんだよ!俺は何もしていないのに…。そうか、俺は外国人だから…」
「…君を嵌めた人間が言うことでもないが、君がこのような目に遭うのは出自のせいではない。勉強不足なせいだろう。」
「勉強不足?」
「まず相手の情報を十分に知ってから行動をするべきだな。まあ我々については余程上手く調べなければ悪徳企業だって気付けないだろうよ。そして己についてもよく知るべきだ。君はまだ自分が選ばれた理由を理解していないだろう。」
「え、それは俺がここのルールをよく知らない人間で、扱いやすそうだったからじゃないんですか…?」
「うーん、15点だな。そんな頭が空っぽでそこそこ歌が上手い程度のやつ溢れかえるほどいるさ。いいかね、ここは芸術の国。いくら民が音楽に飢えていたとしてもただのガキにあれほど人が群がるなんてことはない。それに別に音楽が聴きたいだけなら聴けるだろ。そのためのテクノロジーだ。」
「確かに…。じゃあ俺に才能があったってことですか?嬉しいような…そうでもないような…」
「まあ極論そうなるだろう。…真相は無い頭を使って考えたまえ。」
「え、あ、ちょっと…!」
つい喋り過ぎてしまった。正直俺はこんなのを相手にしている場合ではない。一手でも誤れば実家と利益、両方を失うことになりかねないのだ。ロンを救世主として祀り上げる者、そしてそれに賛同する者がいたというのはすなわち人々が今の宗教に不満を持っているということだ。第三者に支配権を握られる前にロンをプロデュースしている俺が信者たちを動かすことが出来れば確実に利益にはなる。しかしいくらうちが国家とのパイプを持っているとしてもそれは金だけで成り立っているのではない。ただ金を持っていて国家に忠実な企業や一族などそこら中に転がっている。果たして宗教的立場を捨てた俺が国に贔屓されるかはわからない。そんなリスクを取るくらいなら頃合いを見て獅子堂倫音を切り捨てるべきだろうか…。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる