17 / 23
Négociation
2
しおりを挟む
「烏丸さん、聞きましたわ。…その、私もあのことを知った時には大変ショックを受けましたが…あれは本当にあなたが…?」
「そうだって話ならそうなんだよ。」
「ですが…」
「てめぇだって内心俺のことを汚らわしいものだと思ってんだろ。仲間だったから、とかそんな情けはいらねぇし、そういう気遣いが一番不快だ。」
「…」
「よかったじゃないか、問題児を追い出せたんだぜ?クソ親父も教会も欲に塗れた俗物なんか後継ぎに相応しくないと思ってたんだろ?俺も国からの加護以外興味なかったしな。」
確かに心の中で彼のことを異端視していたかもしれない。彼が仕切るようになってから利益を得るような活動も増え教えに反するのではと内心冷や冷やしたこともあった。でもそれは貧しい教会の状況を良くしようと思ってのことだと、何だかんだ言いながらも彼は実家を愛しているのだと思っていた。Piece Noire社の数々の汚職、聖職者特権の悪用、そして”ロン”の新興宗教…。紳士的で頼もしい若き神父、烏丸エリックは嘘の顔だったのだ。
「じゃ、俺は私物を取りに来ただけだ。あまりお喋りに付き合ってると仕事場に戻れなくなりそうだからそろそろ消えるぜ。」
「待って!逃げるつもりなの!?もう誰もあなたを守ってはくれない。これ以上何もできないわ!あなたは詰んでいるのよ!」
「いや、まだ俺にはやることがある。それまではくれぐれも邪魔しないでくれよ。」
「あっ…」
行ってしまった。後ろ盾も失って様々な悪事も暴かれて、それでも悔い改めることなく一体何をするつもりなのだろう。真っ直ぐ、正しい道を歩んできた私にはわからない。今も昔も邪悪なものは滅するべきもの、避けるべきものと思っているけれどきっと社会というものは綺麗なものの話だけしていては理解できないのだろう。闇を退けるためには強い光を用いるだけでなく、闇の本質について知らなければならない。
烏丸さんの件で気付いたことがあった。私は今まで無意識に綺麗なもの、真っ当なものばかりを選択していた。例えばこんな裏路地などには極力近付かないようにしていた。しかし本来はこのような日陰の部分にこそ救うべきものがあるはずなのだ。ホルニッセ王子の件についても街の大通りよりむしろこのような治安の悪いところで聞き込みをした方が案外情報が手に入るかもしれない。そうは言ってもあちらこちらに散らばるゴミや漂う不潔な臭い、浮浪者、一歩歩けば暴漢が出てくるかもしれないという恐怖、やはりできることなら避けたいと思うのが自然なことだろう。
「ちょっとあんた、普通の人間がこんなところうろつくもんじゃない…」
「あら、心配ありがとう。」
「…!」
どうしたのだろう、私に声をかけてきた少年はこちらが返事をすると固まってしまった。
「…見つけた…俺の女神さま…」
「?何か言いました?」
「えっ、あ、いや…」
「そうだ、せっかくだからあなたにも聞きたいわ。ホルニッセ王子の失踪について何か御存じでしょうか?」
「えっ、な、なんで…」
動揺されたのは初めてだ。大抵は申し訳なさそうに知らないと答えるか、あからさまに嫌そうな顔で忙しいと断ってくるかのどちらかが多いのだけれど。もしかして彼は何か知っているのかしら。
「あんた、ホルニッセ…王子の知り合いか?それとも国の捜索隊か?」
「いえ、そんな大層なものではないですわ。私はただのシスターです。人々の話を聞いているうちにホルニッセ王子の安否が気になってしまって…」
「…」
…驚いているのかしら。確かにこんなところに聖職者がいるとは思わないだろう。
「…あなたは美しいうえに行動力もあるんだな…。それに比べて俺は何をしているのだろう…」
「…?」
「理想の人に出会えたんだ…あのわがまま女を裏切って消し炭にされてもいいや。…シスターさん、実は俺…」
「そうだって話ならそうなんだよ。」
「ですが…」
「てめぇだって内心俺のことを汚らわしいものだと思ってんだろ。仲間だったから、とかそんな情けはいらねぇし、そういう気遣いが一番不快だ。」
「…」
「よかったじゃないか、問題児を追い出せたんだぜ?クソ親父も教会も欲に塗れた俗物なんか後継ぎに相応しくないと思ってたんだろ?俺も国からの加護以外興味なかったしな。」
確かに心の中で彼のことを異端視していたかもしれない。彼が仕切るようになってから利益を得るような活動も増え教えに反するのではと内心冷や冷やしたこともあった。でもそれは貧しい教会の状況を良くしようと思ってのことだと、何だかんだ言いながらも彼は実家を愛しているのだと思っていた。Piece Noire社の数々の汚職、聖職者特権の悪用、そして”ロン”の新興宗教…。紳士的で頼もしい若き神父、烏丸エリックは嘘の顔だったのだ。
「じゃ、俺は私物を取りに来ただけだ。あまりお喋りに付き合ってると仕事場に戻れなくなりそうだからそろそろ消えるぜ。」
「待って!逃げるつもりなの!?もう誰もあなたを守ってはくれない。これ以上何もできないわ!あなたは詰んでいるのよ!」
「いや、まだ俺にはやることがある。それまではくれぐれも邪魔しないでくれよ。」
「あっ…」
行ってしまった。後ろ盾も失って様々な悪事も暴かれて、それでも悔い改めることなく一体何をするつもりなのだろう。真っ直ぐ、正しい道を歩んできた私にはわからない。今も昔も邪悪なものは滅するべきもの、避けるべきものと思っているけれどきっと社会というものは綺麗なものの話だけしていては理解できないのだろう。闇を退けるためには強い光を用いるだけでなく、闇の本質について知らなければならない。
烏丸さんの件で気付いたことがあった。私は今まで無意識に綺麗なもの、真っ当なものばかりを選択していた。例えばこんな裏路地などには極力近付かないようにしていた。しかし本来はこのような日陰の部分にこそ救うべきものがあるはずなのだ。ホルニッセ王子の件についても街の大通りよりむしろこのような治安の悪いところで聞き込みをした方が案外情報が手に入るかもしれない。そうは言ってもあちらこちらに散らばるゴミや漂う不潔な臭い、浮浪者、一歩歩けば暴漢が出てくるかもしれないという恐怖、やはりできることなら避けたいと思うのが自然なことだろう。
「ちょっとあんた、普通の人間がこんなところうろつくもんじゃない…」
「あら、心配ありがとう。」
「…!」
どうしたのだろう、私に声をかけてきた少年はこちらが返事をすると固まってしまった。
「…見つけた…俺の女神さま…」
「?何か言いました?」
「えっ、あ、いや…」
「そうだ、せっかくだからあなたにも聞きたいわ。ホルニッセ王子の失踪について何か御存じでしょうか?」
「えっ、な、なんで…」
動揺されたのは初めてだ。大抵は申し訳なさそうに知らないと答えるか、あからさまに嫌そうな顔で忙しいと断ってくるかのどちらかが多いのだけれど。もしかして彼は何か知っているのかしら。
「あんた、ホルニッセ…王子の知り合いか?それとも国の捜索隊か?」
「いえ、そんな大層なものではないですわ。私はただのシスターです。人々の話を聞いているうちにホルニッセ王子の安否が気になってしまって…」
「…」
…驚いているのかしら。確かにこんなところに聖職者がいるとは思わないだろう。
「…あなたは美しいうえに行動力もあるんだな…。それに比べて俺は何をしているのだろう…」
「…?」
「理想の人に出会えたんだ…あのわがまま女を裏切って消し炭にされてもいいや。…シスターさん、実は俺…」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる