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第二章

第6話『アイドルと配信者の両立?』

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「そういえば、探索者ってどういうところが目標なの?」
「まあやっぱり、金策をしつつどこまで行けるかとか、ボス攻略とかだよね。探索者たるもの、ロマンを追い求めなくっちゃ」
「え、そういうセリフって、男の人が言うんじゃないの?」

 お昼休み――ご飯が終わった後、教室でふとそんな話が始まった。

「そういえば、ランクが上がると固定給なんかも出るんだっけ?」
「そうそう。しかも、所得税なんてなしの」
「ほうほうそれは興味深いですな」
「まあその分、危険度はかなり高いけどね」
「だよねぇ。だから私は絶対になろうとは思えない」

 それは本当にそう。

 私も最初はそう思っていたけど、そうも言っていられないと思ったから探索者になった。
 当然、事務所からは止められ……というより、タッチの差で探索者になったのが先だったから、物凄く肩を落された。
 上の人からは探索者としての活動はほどほどに、と言われたけどその意味は危険だから行くな、という意味。

 だから、私が今も尚探索者として活動をしているのを知っている人は少ない。

「現実味のない現実の話は置いておいて」

 美姫はブレザーのポケットからスマホを取り出す。

「配信者とか動画投稿者っていう人達を観てみない?」
「え? あー……言われてみれば、あんまり観たことがないかも」
「忙しいからそれは仕方がないよ。意図としては、面白い人を見つけて楽しむって言うのもあるんだけど、何かに活かせたりするんじゃないかなって思ってね」
「お~」

 素直に感心した。

 言われてみればそうだ。
 自分は自分のために、と意気込んで日々頑張っているけど、今やっていることの先を考えたことがなかった。

 これはもしや新しい発見があるのでは。

「でも私は言い出しっぺなんだけど、どんな動画とかが参考になるのかな」
「やっぱり歌とかダンス関連?」
「うーん、どうなのかな。美夜って、誰か凄いなって思った人を真似したいと思う?」
「どうかな~。先輩とかのパフォーマンスはやっぱり凄いなって思うし憧れる。でも、その人になりたいわけじゃないから、真似はしないかな」
「だよね。そうだと思った」
「だからたぶん、自分と似てるやつとかはあんまり観ない方がいいんじゃないかなって思うんだけど、じゃあ何を観るかって話だよね」
「逆に、美姫はどんな動画を観たりするの?」

 美姫はスマホを操作し、画面をみせてくれた。

「これが私の視聴履歴」
「ほぉ~、これはこれは――かわいい」
「でしょ。超超超癒されるのよ。可愛すぎてずーっと観ていられるのよ」

 画面に表示されている小さい枠に表示されているのは動物系。
 タイトルには、『我が家の日常』や『本日の癒し』などなどが並んでいる。

「動物から、かわいいを学ぶ?」
「それはそれでどうなの」

 私達は眉毛を上下させたり、「うーん」と唸って考えた。

「ゲーム実況とかってどうかな」
「ほうほう、それはどういうやつなの?」
「あ、ちなみになんだけど、ゲームっていうのをやったことはある?」
「一応、スマホでブロックを積み上げるやつならやったことがあるよ」
「あちゃー」

 美姫は左手で頭を抑え始める。

 え? ゲームってみんなは普通にやったりするものなの?

「お姉さん。たぶん、物凄く世界が広がると思うよ」
「そうなの?」
「うん。ゲームっていうのは、家庭用ゲーム機……テレビに映してやったり、パソコンでやったり、スマホやタブレットでやったりするんだけどね。ブロックを積み重ねるだけなんて比べ物にならないぐらい沢山の種類があるんだよ」
「ほえ~」
「ちなみに、自分の体を動かしてやるのもあるよ。ダンスとかトレーニングとか」
「なにそれ凄い」

 ふと、単純な疑問を訊いてみる。

「そういう業界って、生配信とかってあるの?」
「あるよ」
「ちなみにどれぐらいの……人気な人とかって同時視聴者数ってどんな感じ?」
「どうかな~。私は熱心に配信を観にいくってことはしないけど……少し前に偶然見かけたのは、同接40000人とかだったかな」
「よ、よんまん!?」

 あまりにも衝撃的すぎて、つい声が大きくなってしまった。
 マズいと思って口を右手で隠しながら周りにチラッと視線を送ると、周りのみんなと目が合ってしまう。
 だけど上手い言い訳が思いつかないから、作り笑いで頭を軽く下げた。

「私の10000倍なんだけど……」
「気が利かなくてごめん」
「い、いいの。気にしないで。でも凄いね」
「そうだね。私は基本的に配信系を観ないからなんとも言えないんだけど、ゲーム配信者でもいろいろなタイプがいるからね。雑談したり、散歩したり。中には、ゲーム世界がそのまま広がっているダンジョンに行きたいとかで、探索者試験を合格した人が居るって聞いたことがあるよ」
「うわ、その執念は凄い」
「でもぶっちゃけ、毎日ゲームとかしているような人がダンジョンに行ったらかなり危ないんじゃないかな。素人の私がどうこう言える立場じゃないけど」
「そうだね……遊び感覚で行くと、かなり危ないと思う」
「だよね~」

 とは言いつつも、つい最近のことを思い出す。
 私も誰かに対して、油断していたら危険だ、なんて忠告できる立場ではない。

 痛みを思い出す。
 あの男の人を助けるためとはいえ、大怪我を負ったのは私だ。
 油断していたわけではないけど、自分の実力不足をこの身で思い知った。

「まあそんな感じで配信者でもいろんな人が居るから、まずは検索してみよ」

 美姫はすぐにタッタッとスマホをタップスワイプする。

「私、かなり検索するの下手だ。こういう時ってどういう単語を入れればいいんだろう」
「お昼休みもそんなに時間がないし、今の時間で視聴者数が多い人でいいんじゃない?」
「それだ――とりあえずこの人で」

 同時接続数9000人。

 さっきの人数を聴くとちょっと驚きに欠けるけど、平日のお昼でこの人数はかなり凄いと思う。

 配信内容は、顔を出した状態でご飯片手に雑談配信。

 考察するに、こういう配信に観に来る来る人達は、元々この人のファンなんだと思う。

 偏見かもしれないけど、この男性にギャップを感じてしまった。
 察するに男料理をした後なんだと思う。
 お皿に盛られた……というより、ご飯の上にできた料理を乗せていった料理をトークしながら頬張っている。
 なんてない日常なのかもしれないけど、配信者は楽しそうだし、コメント欄もなんだか楽しそう。

「ちょっとこの人のご飯、凄すぎ」
「だね」
「なんでこんなに沢山の人が観てるんだろう。私はあんまりわからないや。どう? 美夜的にはなにか収獲あった?」
「この人の配信をもっと観てみないと結論は出せないけど……ギャップ、とかかな」
「ほほう?」
「上手く説明できないんだけど」
「あれかな。普段はゴリゴリに上手いゲームプレイを配信上でやって、そうじゃない今はちょっとかわいい一面が観られている。ってこと?」
「たぶんそんな感じだと思う」
「ほほ~。ギャップ萌えってやつだね。じゃあ美夜に置き換えると、普段は今のまま清楚系美少女だけど、かっこよく戦う姿とか? まさかそんなことはできないだろうから、難しそうだね」
「そうだね。そんなことをしたら、もしかしたら誰も観てくれなくなっちゃうかも」
「それ、一番やばいね。じゃあギャップ萌え作戦は厳しいかぁ」

 この後、別の配信者さんを観てみたけどあまり収獲を得られなかった。

 普段は観ていないというのも原因としてありそうだから、どこかで時間を作ってみようかな。

 配信者かぁ。
 事務所との相談が必要だし、難しいかもしれないけど……でもちょっと、面白そうかも。
 いつかできる日がくるのかな。
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