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第五章
第31話『全冒険者緊急討伐依頼発令!』
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「――いい買い物ができたようでなにより」
「ええ、満足よ」
買い物を終えた俺たちは通路で立ち止まり、フローラが購入した剣と盾を眺める。
半身を覆うことができるカイトシールドは霞んだ灰色の盾は美しい印象とは程遠いものの、どうしても戦闘でつく傷を目立たなくさせてくれるから、判断としては正しいと思う。
剣はレイピアでありながら重さも兼ね備えていて、軽そうな印象からは想像できない一撃を奮うことができるはず。
総じて、フローラが得意とする臨機応変な対応かつ柔軟な身のこなしに見合った武器選択だ。
「騎士団のときを思い出す」
「そうね。やっぱり、頭と全身に染み付いた戦い方が一番やりやすいから」
「思っていた以上に早く終わったから、次はどうするか。衣類が少なかったから、そっちの方を探しに行く?」
「メノウとセリナも必要はないだろうけど、参考になるものが多ければいろんなものに着替えられるのかな」
「そうね。こうして通路を歩くだけでも参考になるわ」
「鎧もドレスもお手のもの。聖力の恩恵は万能」
あまりにも便利な聖力と魔力の話を聞いていると羨ましくもあるが、練習すれば俺もできるということか。
それも驚く要素だが、メノウの様変わり具合には慣れる日が来るのだろうか。
俺と話すときと、俺以外と話すときの差がありすぎて、2つの人格があるんじゃないのかと疑ってしまいそうだ。
「今日って何かの催しものがあったかしら」
フローラの呟きに対し、俺たちは目線を外す。
どこかへ急いでいるかの如く駆ける人が居たり、関係のない素振りで歩いて日常を生きている人が居たり。
これといって変わった様子が見当たらない気もするが、言われてみたら右に向かう人と左に向かう人で違うような?
というか、急いでいる人たちが息を切らして――どちらかと言うと焦っているという方が当てはまっている、そんな感じだ。
「あの人たち、みんな冒険者じゃないかしら」
「たしかに」
装備というか防具こそ着用していないけど、背中や腰に注目してみると武器を携えている。
「じゃあ、みんなが向かっているのはギルドだったりして」
「それあるかも」
「でも、ギルドに急ぐことなんてあるのか? お金をがっぽがっぽ稼げる依頼が舞い込んできたとか? 賞金首が現れたみたいな?」
「その可能性はあるかもだけど、だったら焦りの種類が違うというか顔色が違うと思うの」
それもそうか。
嬉々として表情は明るく、見ているだけでも楽しみが伝わってくるはずだ。
報酬の金額から「どんな豪華な飯を食べよう」「どんな豪遊をしようか」「武具を新調しよう」なんて、そんな感じに。
「どうする? 俺たちも流れに乗ってみる?」
「突発的に発生した金銭的な依頼だったら、もう手遅れな可能性の方が高い。でも、別の可能性だったら、わたしたちも行かなくちゃいけないかも」
「別のって?」
「わたしも初めてだから詳細な説明はできないけど、極稀の稀に緊急討伐依頼が発令される――ことがあるらしいの」
「なんだか、凄い又聞きの噂話みたいな感じになってるなそれ。本当にそんなのがあるのか?」
「わたしも経験したことがないから、正確なことはわからないわよ」
どんだけ不確かな情報を出してきてるんだよ。
曖昧にもほどがある話を信じろと言われても、あまりにも無理がある。
「お、おい本当かよ」
「ああ……俺、最後の挨拶ぐらいしてきても許されるよな」
「こんなことだったら、結婚相手を早く見つけておくべきだった」
どこかへ向かうのを躊躇っている男性2人が、汗を流しながら足を止めてそんな話をしている。
「わ、わたし……怖いよ」
「私も同じよ。でも行かないと」
「一緒に逃げようよ」
「そんなことできるわけないでしょ。全冒険者に緊急依頼が発令されたんだよ」
「で、でも!」
視線を横に逸らすと、そこでは女性2人がそんなやりとりをしている。
「まさか本当のようだ」
「……わたしたちもギルドに向かいましょう」
「2人は大丈夫か?」
「ええ」
「大丈夫です!」
周りの気持ちに敏感な2人が、この状況でどう影響を受けるのかわからないから心配したけど、顔色一つ変えていないし本当に大丈夫なんだろう。
「じゃあ行くか」
「――こりゃあ凄いな」
「そうね」
ギルドに到着したが、中に入ることができない。
というのも、同じ目的で到着した人たちが溢れ返っていて広場から中に進むことができず。
加えるなら門が開いておらず、広場に集めようとする意図を感じる。
まだ何も起きていないから見渡して人数を軽く数えてみると、たぶん100人以上は居るな。
男女入り混じっているし、いろんな武器や防具を装備している人が見て取れる。
話し声も凄い。
それぞれが大きな声を出しているわけではないが、数が数だから嫌でも聞こえてくるし、そのどれもが不安を感じさせるものだ。
集まっている理由が理由だし、さっきの人たちが吐露していた感情と同じ元を抱いている人が多いのだろう。
「――」
そうこうしていると、ギルド正面の大扉がゆっくりと開かれ始める。
辺りの声は止み、焦りと不安が込められた目線は出てくる人へ向けられた。
「皆様、お待たせいたしました。これより【全冒険者緊急討伐依頼発令】を宣言します!」
歓声などなく、薄っすらと聞こえてくるのは唾を飲む音。
少しだけ視界に入るのは、ちらほらと口元を抑える姿。
漂う雰囲気は希望なのではなく、先が見えない絶望。
俺はこの空気を知っている。
いや、フローラも同じく。
「皆様には二手に分かれてもらいます! 迎撃部隊と街中防衛並びに住民避難です!」
二つの選択肢を出され、静寂を保っていた人たちがざわつき始める。
「急を要する選択になりますが、迎撃に向かう人たちは英断を強いることになります」
困惑の声は大きくなり始め、ようやく俺も事の重大さに気が付いた。
この街は今、何かによって侵攻を受けようとしている。
そして『英断を強いる』ということは、要は『街のために戦って死んでくれ』ということだ。
強大さがその言葉になっているのか物量が桁違いなのかはわからないが、つまりはそういうこと。
だからこそ街中の配備まで提示していて、住民のことまで気にかけているわけだ。
逃げられる選択が残されているかは別として。
少なくとも王都方面からは攻められることはないから、あながち王都までどれだけ多くの人が逃げ延びられるかが作戦の終着点となるはず。
「時間はありませんが、即決できないと思います。戦えない私たちが無理強いできることでもありません。ですがどうか、この街を、そして平和に生活している住民にとって最善の選択をしてくれると願います。以上です」
宣言を終えた受付嬢は深々と頭を下げ、両扉を開けたまま中へと戻っていった。
「ええ、満足よ」
買い物を終えた俺たちは通路で立ち止まり、フローラが購入した剣と盾を眺める。
半身を覆うことができるカイトシールドは霞んだ灰色の盾は美しい印象とは程遠いものの、どうしても戦闘でつく傷を目立たなくさせてくれるから、判断としては正しいと思う。
剣はレイピアでありながら重さも兼ね備えていて、軽そうな印象からは想像できない一撃を奮うことができるはず。
総じて、フローラが得意とする臨機応変な対応かつ柔軟な身のこなしに見合った武器選択だ。
「騎士団のときを思い出す」
「そうね。やっぱり、頭と全身に染み付いた戦い方が一番やりやすいから」
「思っていた以上に早く終わったから、次はどうするか。衣類が少なかったから、そっちの方を探しに行く?」
「メノウとセリナも必要はないだろうけど、参考になるものが多ければいろんなものに着替えられるのかな」
「そうね。こうして通路を歩くだけでも参考になるわ」
「鎧もドレスもお手のもの。聖力の恩恵は万能」
あまりにも便利な聖力と魔力の話を聞いていると羨ましくもあるが、練習すれば俺もできるということか。
それも驚く要素だが、メノウの様変わり具合には慣れる日が来るのだろうか。
俺と話すときと、俺以外と話すときの差がありすぎて、2つの人格があるんじゃないのかと疑ってしまいそうだ。
「今日って何かの催しものがあったかしら」
フローラの呟きに対し、俺たちは目線を外す。
どこかへ急いでいるかの如く駆ける人が居たり、関係のない素振りで歩いて日常を生きている人が居たり。
これといって変わった様子が見当たらない気もするが、言われてみたら右に向かう人と左に向かう人で違うような?
というか、急いでいる人たちが息を切らして――どちらかと言うと焦っているという方が当てはまっている、そんな感じだ。
「あの人たち、みんな冒険者じゃないかしら」
「たしかに」
装備というか防具こそ着用していないけど、背中や腰に注目してみると武器を携えている。
「じゃあ、みんなが向かっているのはギルドだったりして」
「それあるかも」
「でも、ギルドに急ぐことなんてあるのか? お金をがっぽがっぽ稼げる依頼が舞い込んできたとか? 賞金首が現れたみたいな?」
「その可能性はあるかもだけど、だったら焦りの種類が違うというか顔色が違うと思うの」
それもそうか。
嬉々として表情は明るく、見ているだけでも楽しみが伝わってくるはずだ。
報酬の金額から「どんな豪華な飯を食べよう」「どんな豪遊をしようか」「武具を新調しよう」なんて、そんな感じに。
「どうする? 俺たちも流れに乗ってみる?」
「突発的に発生した金銭的な依頼だったら、もう手遅れな可能性の方が高い。でも、別の可能性だったら、わたしたちも行かなくちゃいけないかも」
「別のって?」
「わたしも初めてだから詳細な説明はできないけど、極稀の稀に緊急討伐依頼が発令される――ことがあるらしいの」
「なんだか、凄い又聞きの噂話みたいな感じになってるなそれ。本当にそんなのがあるのか?」
「わたしも経験したことがないから、正確なことはわからないわよ」
どんだけ不確かな情報を出してきてるんだよ。
曖昧にもほどがある話を信じろと言われても、あまりにも無理がある。
「お、おい本当かよ」
「ああ……俺、最後の挨拶ぐらいしてきても許されるよな」
「こんなことだったら、結婚相手を早く見つけておくべきだった」
どこかへ向かうのを躊躇っている男性2人が、汗を流しながら足を止めてそんな話をしている。
「わ、わたし……怖いよ」
「私も同じよ。でも行かないと」
「一緒に逃げようよ」
「そんなことできるわけないでしょ。全冒険者に緊急依頼が発令されたんだよ」
「で、でも!」
視線を横に逸らすと、そこでは女性2人がそんなやりとりをしている。
「まさか本当のようだ」
「……わたしたちもギルドに向かいましょう」
「2人は大丈夫か?」
「ええ」
「大丈夫です!」
周りの気持ちに敏感な2人が、この状況でどう影響を受けるのかわからないから心配したけど、顔色一つ変えていないし本当に大丈夫なんだろう。
「じゃあ行くか」
「――こりゃあ凄いな」
「そうね」
ギルドに到着したが、中に入ることができない。
というのも、同じ目的で到着した人たちが溢れ返っていて広場から中に進むことができず。
加えるなら門が開いておらず、広場に集めようとする意図を感じる。
まだ何も起きていないから見渡して人数を軽く数えてみると、たぶん100人以上は居るな。
男女入り混じっているし、いろんな武器や防具を装備している人が見て取れる。
話し声も凄い。
それぞれが大きな声を出しているわけではないが、数が数だから嫌でも聞こえてくるし、そのどれもが不安を感じさせるものだ。
集まっている理由が理由だし、さっきの人たちが吐露していた感情と同じ元を抱いている人が多いのだろう。
「――」
そうこうしていると、ギルド正面の大扉がゆっくりと開かれ始める。
辺りの声は止み、焦りと不安が込められた目線は出てくる人へ向けられた。
「皆様、お待たせいたしました。これより【全冒険者緊急討伐依頼発令】を宣言します!」
歓声などなく、薄っすらと聞こえてくるのは唾を飲む音。
少しだけ視界に入るのは、ちらほらと口元を抑える姿。
漂う雰囲気は希望なのではなく、先が見えない絶望。
俺はこの空気を知っている。
いや、フローラも同じく。
「皆様には二手に分かれてもらいます! 迎撃部隊と街中防衛並びに住民避難です!」
二つの選択肢を出され、静寂を保っていた人たちがざわつき始める。
「急を要する選択になりますが、迎撃に向かう人たちは英断を強いることになります」
困惑の声は大きくなり始め、ようやく俺も事の重大さに気が付いた。
この街は今、何かによって侵攻を受けようとしている。
そして『英断を強いる』ということは、要は『街のために戦って死んでくれ』ということだ。
強大さがその言葉になっているのか物量が桁違いなのかはわからないが、つまりはそういうこと。
だからこそ街中の配備まで提示していて、住民のことまで気にかけているわけだ。
逃げられる選択が残されているかは別として。
少なくとも王都方面からは攻められることはないから、あながち王都までどれだけ多くの人が逃げ延びられるかが作戦の終着点となるはず。
「時間はありませんが、即決できないと思います。戦えない私たちが無理強いできることでもありません。ですがどうか、この街を、そして平和に生活している住民にとって最善の選択をしてくれると願います。以上です」
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