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第二章

第17話『どこの施設もデカすぎんだろ』

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 食の誘惑から解放された俺達は、装備類の店が並ぶ場所に足を運んでいた。

「それじゃあ少しだけ別れて見回ってみるか」

 ここら辺一帯は、装備類の店が連なって通路を形成している。
 想像以上に店の数があり、全員で全部の店舗を回っていてはあっという間に日が暮れてしまう。

 ということで俺は一人、防具店に足を運んでいるのだが実に様々な防具が置かれている。
 店内に珍しい装飾はないが、飾っていないところになぜか好感を抱く。
 しかし驚いたのは、それらの値段だ。

 様々な防具があるのは想定済みだが、値段が良心的になっている。
 安い物は、先ほどの食べ物と同じだが高い物だとしても、500Gなのだ。

 偶然この店がこういう値段設定なのかもしれないが、もしかすると、この街はいわゆる一般市民と駆け出し冒険者が集うような場所なのではないか?
 巨大な都市にしか見えないというのに正直驚く。

 ゲームをしていた時は、街の中なんてほとんど見渡したことがなかった。
 最初こそは、好奇心に誘われてみんなで街の中を歩き回ったりしたが、それ以降は狩場と街を行き来するぐらいだったし。

 この棚に並ぶ装備達を見て今更ながらに思う。
 ゲームとしか思えない異世界だが、現実世界のような一面もある。
 何が悪いってわけではないが、こういう時って、俺達は何かしらの陰謀に巻き込まれたり厄災に立ち向かったり試練を与えられる、というのが普通ではないのか?

 まあ、未だ駆け出しの身であるし、危険なことが起きないに越したことはないが。

「おぉ」

 俺はお試しで一番手前にあった籠手を手に取り、感触を確かめる。
 明らかに鉄で加工された物にしか見えないが、思っていた以上に軽い。
 想像ではごつい石ぐらいだったんだが。

 こういうのに触れると、この世界で使われている技術というのに興味が湧いてくる。
 自分の目で見て、自分の肌で感じ、自分で実践したいと思ってしまう。
 ゲーマーの性ってやつか。

 俺はつい楽しくなってしまい、店中の装備に触れてはコンコンコツコツと音を確かめたり、裏返したりして微細なところまで鑑賞してしまった。
 途中、店内は俺だけになって店主からの視線を物凄く感じたが、文句を言われないのであれば大丈夫なのだろうと信じ、店内をこれでもかと闊歩し続ける。

「カナトさん、そろそろ行きましょうか」

 俺は急に視界外から声をかけられたものだから、体をビクッと跳ね上がらせる。
 当然、手に持っていた兜を落としそうになるも、宙に浮いた兜を落とすまいと必死に抱き寄せた。

「わかりました、行きましょうか」

 声の主はアルマだとすぐにわかり、そっと兜を元にあった位置へと戻す。
 俺が兜を宙に上げた際、店主は「あ、ちょーっ」と声を大きくしていたため、商品は無事ですよと示す意味を込めて。

 ここまでいろいろと見ておいて買い物しないのは気が引けてしまう。
 即決できなかった俺が悪いけど、装備の必要性について決めあぐねてしまったからでもある。
 退店する際、謝罪の意味も込めて店主に向かい「ありがとうございました」の言葉と、深く頭を下げた。



 日が暮れてしまう前に、ということで泊まる宿に連れてきてもらったんだが……。

「でっかすぎんだろ……」
「どうかなさいましたか?」
「あいや、なんでもないです」

 危ない。
 施設があまりにも大きかったため、つい感想が漏れ出てしまった。
 外観が豪勢な造りになっているかというとそうではなく、今までに見てきていた通りの木造だが、その大きさが普通ではない。
 どこと変わらずの二階建てではあるが、宿というには横幅が広く、宿というには奥行きがどこまで続いているのか想像ができないからだ。
 どちらかというと旅館……いやホテル……いや大衆浴場より少し大きい、まるで小さい頃によく足を運んだデパートとかそんな感じ。
 もしかしたらもう少しいい感じの例えがあるかもしれないけれど、今の俺にはこんな感じでしか言い表せることができない。



「どこの施設もデカすぎんだろ」
「確かにやばいね」

 俺とケイヤは割り振られた二人部屋に入り、備え付けの椅子に腰掛けて向かい合っている。

「宿泊プランがあって、一泊だけでも500Gだっていうのに、連泊の日数が増えるにつれて5Gずつ安くなって、超長期滞在になると一日100Gまで値下がるってお得すぎんだろ」
「上京して生活するにはもってこいな場所っていうことだね。どちらかというと宿というより、寮みたいな感じでもありそう」
「素泊まりでも安いし、あの二人が気を利かせてくれたってことなんだろうな」
「さっきの食事で所持金が減っていたからありがたいよね」

 大事なことを忘れていた。
 みんなの所持金は一人2000Gで、さっきの食事と宿代で残り1000Gちょっとのはず。

「これ、あの三人の冒険者から譲り受けたんだ」
「なるほど、喋っているのを傍らで見ていた通りに、感じの良い人達だったってわけだね」
「ほんと、律儀っていうか、俺達子供相手だっていうのに礼儀なんて払っちゃって。俺達も見習わなきゃな」
「だね」
「ということで、一人当たり1000Gの特別給付ってことになるぞ」

 こういうところは現実的だよな、と思いつつ麻袋みたいな袋からお金を取り出して手渡す。

「とりあえずここからは自由時間になるが、夕暮れまでにはここへ戻ってこよう」
「晩御飯はここで出してもらえるみたいだしね。これからの予定は、やっぱり?」
「ああそうだ。いよいよ冒険者登録に行くとするか。まあ、意気込むほどのことじゃないがな」
「だね。ゲームの時はチュートリアルの流れでいろいろと回想やらなんやらの最後に、冒険者ギルドに行って登録するだけだったからね」
「うわ、めっちゃ懐かしいこと言うじゃん。複数キャラを作る時にも見られたが、俺は全部スキップしてたから完全に忘れてたわ」
「それが普通なんじゃないかな。全部見ているのは、相当な物好きとか世界観に入り込みたい人ぐらいだし」

 まあゲームの楽しみ方って人それぞれだしな。

「さて、お金の分配とかもあるし、行くか」

 部屋に置いてあるものには何一つ触らず、俺達は部屋を後にした。

 冒険者登録はとりあえず簡単に済ませることはできるだろうし、考えなきゃいけないのはお金がかかるかどうかぐらいか。
 まあそこまで深く考えずとも、別にいいか。

 だって、ただの冒険者登録だしな。
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