異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯

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第一章

第3話『少女を信じ、女神に祈らず』

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「――ふぅ。これくらい引き離せたら大丈夫だと思います。旅人さん、大丈夫ですか?」
「――ちょ――ちょーっとタンマ。い、息が……」

 銀髪に犬耳を生やした少女は立ち止まり、勇人ゆうとは鉛のように重くなった足を必死に動かしてようやく追いついた。
 追いついたのはいいものの、両膝に手を突いては荒れに荒れた息を「ぜえぇはぁ――ぜえぇはぁ」と、整えるのに必死。目線も上げられず、渇いた茶色い土をただ眺めるのが精一杯である。

「苦しそうなところ申し訳ないのですが、ここはまだ絶対に安全というわけではないので足を止めることはできません。一旦逃げられたというだけなので、苦しいとは思いますが歩いてでも進みましょう」

 耳触りがよく、とても澄んだ張りのある若い声。しかし、緊張感が伝わってくる真剣な声色で少女は話を進める。

 勇人ゆうとにだって、言われていることは理解できる。でも正直な話、座って休憩の一つでも挟みたい。と、提案するべく荒い呼吸のまま顔を歪ませ少し目線を上げると――悲しくも、銀髪の少女は既に足を進め始めていた。
 これは堪らないと唾を飲んで文句の一つでも言ってやろうかと思った――が、少女の言葉を思い出す。
「ここはまだ安全というわけではない」と。その言葉は、先ほどの赤眼と獰猛な牙を見せびらかしていた『獣』を容易に思い浮かび上がらせた。

(あれと再び会わないためには、つくばってでも逃げなくてはならないってわけか……)

 もはや必死に足を進める他ないと悟り、再び生い茂る森の中を進み始めた。



 「あっ……ここまで来られたなら――たぶん、もう安全ですよ旅人さん」

 先ほどの場所から10分ほど進んだ先、先導してた少女が声色明るくそんなことを言い出す。

 緊張感はどこかへ飛んでいってしまったか、と勇人は心の中でツッコミを入れるも、疲労感の感じられない爽やかで可愛らしい笑顔を前には邪推じゃすいだと判断した。
 そんな少女は、スキップをしながら最寄りの倒木へ向かい、腰を下ろし、指を顎に置いて物珍しそうな目線を勇人ゆうとへと向け始める。

 一瞬「なんですかその目は」と口から出そうになるも、あの、憎らしくも神々しく美しい【女神ルミナ】の顔を思い出した。
 ともなれば、自分は完全なる別世界人であり見慣れない服装をしているのだから無理もない。
 そう思い、まずは自己紹介を始めようと口を開こうとしたが、

「あのぉ、座らないのですか?」
「ほぇ……?」

 勇人は口を半開き間抜けな声を漏らし、情けない顔を晒した。きっと、この時の表情は相当に滑稽こっけいだったに違いない。

「ぷっふ、はははっ」

 それを目の当たりにした少女は、無邪気にも満面の笑みを浮かべた。

(か、かわいい――い、いやいやいや!)

 我に返った勇人は、頬を赤く染めて顔を背ける。

 少女に観られないため頑張っているものの、少女からは真っ赤に染まっている耳が丸見えになっていた。

「旅人さんって面白い人なんですねっ」
「そ、そんなんじゃねーし。べべべ別に、恥ずかしがってねーし」
「ふふっ、やっぱり面白い人ですねっ。あ、忘れていました。私はフェリスと言います、よろしくお願いしますねっ」
「お、俺の名前は神乃こうの勇人ゆうと。よろしくな。そうだ、その敬語はやめてくれないかな」
「へ? いいので――いいの? わー、わかったよ。よろしくねユウトっ」

 初対面の相手に対して敵意が微塵も感じられない少女に対し、ユウトは先ほどまでの出来事を率直に問いかけてみた。

「フェリスは、その……怪我とかはしてないか?」
「うんっ、この通り」

 フェリスは臀部だけでバランスをとりながら、器用に半袖短パンからさらけ出している手足を見せびらかす。

「ならよかった。それで、森の中で何をしていたんだ?」
「食料となる木の実を採取していたところだったの」

 こんな危険そうな森にたった一人でか。と、話を掘り下げようとしたが、この状況において同行者の心配をしない辺り本当のことだと察することができた。

「そっか。で、お目当てのものは見つけられたのか?」
「見つけたといえば見つけられたんだけど、さっきの獣に襲われちゃって……まあでも、ここら辺にも食べられる山菜があるから大丈夫、かな」

 と、意味あり気な目線を向けてくるフェリス。その眼差しの意味は容易に察することができた。

「あー、おっけー手伝うよ。んで、どんなやつを探せばいいんだ?」
「そうですね……あっ、これとこれなんかは食べられますね」

 倒木から立ち上がったフェリスは軽く辺りを見渡すと、すぐさまちょんちょんと移動し、しゃがんでそれらを摘み取った。
 摘み取られた山菜は見覚えのあるもので、勇人は驚きを隠すことはできない。

「そ、それはー!? ま、まさか……ミツバとヨモギだったりして。なーんて、そんなものがあるわけ――」
「おぉー大正解! よく知ってるね」
「え、えぇぇぇぇ……マジか。それなら俺でも集められそうだ」
「じゃあ、ぱぱっと集めましょー!」

 ユウトは「元居た世界にあったから、偶然知っていた」というのを言わずに飲み込んだ。

(こんなラフに話をしているけど、自分が別世界の人間とかって軽々しく言っていいものなのか……? こういうのって、知られたら拘束されたりなんだりしちゃわないのか……?)

 と、ユウトは、現実世界で得たアニメなどの知識によって思考を巡らせる。

(そう考えると、俺はこのままフェリスと同行していても大丈夫なのか……? ってか、超いまさらだけど普通に会話できてるの怖っ。で、でも……あんなかわいい子と話をできるのは今の内かもしれないし……)

 危機感を覚える反面――誰もが振り向くであろう超絶美人な【女神ルミナ】の横柄かつ身勝手な性格とは真逆な、人当たりがいいだけではなくとても可愛らしいフェリスを比較して、ついよこしまな考えが過ってしまう。

 そんな忙しく思考を巡らせているユウトであったが――フェリスはせっせと山菜収集しつつも、近辺に置いていた背負い籠をこの場へ持ってきた。

 30分ぐらいの作業時間で、たんまりと山菜を詰め込むことができたので無事終了。ともなれば、後は帰路に就くのみ。
 だが、ユウトはこのままだと強制的にこの過酷な森林で野宿生活になってしまう。と悟り、情けなくも話題を切り出さなくてはならない。

「その、なんていうか。俺は、このままだと――」
「あっ、言い忘れてたけど大丈夫だよ! このまま少し歩いた先に村があるから、一緒に行こっ。それで、私が村長に会わせてあげるー。このままここで話してると日が暮れちゃうから、行こ行こーっ」
「え、そうなの? ありがとう? ――って、あ」

 フェリスは、鼻歌交じりに歩き始めてしまった。

(って、俺はどうしたらいいんだ。あんな無邪気で親切なフェリスの提案を快く受けたい。しかし、それはフェリスだけであって、村とやらに到着しても他の人たちも同じとは限らない)

 ゆっくりと、しかし着実に遠ざかっていくフェリスの背中。

(でも、だからといってあんなヤバい獣が居るこの森で野宿っては、どう考えたってヤバい。絶対に死ぬ。くっ――ええい! お祈りタイムだ!)

 と、意を決したユウトはフェリスに合流すべく小走りで向かい始めた。

(あ、でも――ぜっっっっっっっっっったい、あの女神だけには祈らないけどな!)
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