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第二章
第14話『運命の再会』
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アルクスは体に違和感がないかを確認しながら歩いていた。
先ほど少女を助けた一件を思い出していて、中々に無茶があったと反省している。
あの時、周りに人が居たから良かったものの、もしも誰もいなかったらあのまま生き埋めになっていた可能性もあったのだから。
――でも、あの子を見捨てるぐらいだったら、手が届くのに助けられないのなら……。
だとしたら、アルクスは一生後悔していただろう。
彼の信念は、誰かを守るために力を使う事。
ならば助けないという選択肢はない。
全身を動かし、違和感がない事を確認し終える頃には村と外の境界線まで来ていた。
「そういえば、帰ったらまずは皿洗いをしないといけないなぁ。どうせ、ミシッダさんはやらないだろうし」
いつもならトレーニング後、家事を行っているのだが、今日はいつもと違う流れで過ごしている。
そして、今の今まで考えた事がなかった点に気が付く。
――あれ、そういえばミシッダさんって結構な時間を家にいるのに、どうやってお金を稼いでいるんだろう……?
本当に今更である。
逆に、数年間一緒に住んでいて一度も考えていなかったのが不思議なぐらいだ。
――帰ったらそれとなく訊いてみようかな。
そう心に決めながら歩いては、既に村の匂いも届かない場所まで来ていた。
ここからは森の奥へと続く道だけなため、街中で起きたようなことはほぼ起きない。
人目を気にせずに鼻歌でも歌い始めようかと思っていた時だった。
「あの……すみません」
「……はい?」
聞き馴染みのない声に振り向く。
「あ、ここから先は危ないですよ。道に迷ってしまったのですね。大丈夫です、ここから真っ直ぐ歩けば村に辿り着きますので」
「いえ、そうではないのです」
「あっ、もしかして僕が何か落とし物か忘れ物をしてしまって、それを届けに来てくれたんですね! ありがとうございます」
「いえっ! そうでもなく!」
アルクスは考える。
この目の前にいる銀髪の美少女はどのような理由があって声を掛けてきたのか。
姿を見るのは初めてだし、会話をするのも初めて。
――この人は一体どういう理由で……?
ルイヴィスは考える。
散々尾行した挙句、自らの勘を頼りに意を決して声を掛けた。
そこまでは良かったものの、実行した今、冷や汗をかきながら非常に困っている。
――あれ……これ、何を話したらいいの? 貴方は夢に出てきていた憧れの存在です! って? いやいやいや、そんな戯言を初対面の人に言われたら『こいつ頭おかしいだろ』って思われちゃう。絶対に!
アルクスにとっては不可解な状況。
ルイヴィスにとっては困惑する状況。
どちらも誰かに助けを求めたい状況となってしまっている。
「き、今日の天気は気持ち良いですね」
「そ、そうですね」
――話題、話題がない。いっそのこと、ナンパでもしちゃったほうが可能性はあるんじゃ!
――この人の考えが読めない。もしかして、この人は直接言えないだけで、遠回しに助けを求めているという可能性があるんじゃ……?
どちらの思考もとんでもない筋違いな角度に行ってしまっているのだが、ルイヴィスの一言に状況が変わる。
「そ、そうです。夢、です」
「夢ですか……?」
「はい、私は夢であなたと会ったことがあるのです」
「もしかして、予知夢的なやつだったり……?」
「え、ええ、そうです!」
――夢は誰でも見る。その中で、予知夢のようなものを見る時もある。それは理解できる。夢の中で誰か、に……会って……あれ……?
話を理解しようとした時だった。
アルクスの右目から、一粒の涙が零れ落ちる。
「えっ……?」
その光景にルイヴィスは驚く。
「あれ、なんでですかね。急にごめんなさい」
「いえ……」
咄嗟の出来事だったが、自分の事ながらに理解できないまま左腕で涙を拭う。
「もしかして、貴方も夢を見るのですか? 同じ夢を繰り返し」
「はい、そうです……え? なぜそれを」
「実は、先ほどああ言いましたが私もそうなのです。もしよろしければ、聞かせていただけませんか……?」
「構いませんけど……でも、ここで立ち話も疲れちゃいますので、近くに座れる場所まで行きませんか?」
「そうですね。では先導をお願いします」
アルクスは歩きながら、自分のまさかの発言に驚いていた。
今まで、誰かに夢の事を話すのは抵抗があった。
そのため、ミシッダとマーリエット以外に話をした事はない。
しかしなぜか今、夢の内容を話すと了承した時、目の前の少女に対して心の抵抗がなかった。
ルイヴィスはアルクスの後ろを歩きながら自分の発言に驚いていた。
今まで、夢を配下に話した事はあるが、詳細な内容は騎士のリイネ以外には打ち明けていない。
それが、先ほどはすんなりと初対面の相手に話そうとしてしまっていたのだ。
何一つ抵抗を感じず、なんなら積極的に。
目的地にたどり着くまでそう時間は掛からなかった。
マーリエットと初めて会った日、休憩するために使った切り株がある場所。
「ここです。では、そちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
ルイヴィスが腰を下ろしたのを確認し、アルクスは口を開いた。
「僕は毎日のように夢を見ます。そこでは、僕に妹がいて毎日のように仲良く過ごしていました。その妹を僕は守っていました。泣かせないように、笑顔でいられるように。――でも、最後は決まって悲惨な結末を迎えるんです。……死、という一番避けたい終わりに」
「……」
「守れなかった。守ると決めたのに。――一番守りたい妹を守れずに死んでしまう。悔やんでも悔やみきれない、そんな夢です」
「……」
「えっ!? どうしたんですか!」
ルイヴィスが両目から涙を流していたのをアルクスは瞬時に気が付く。
「ご、ごめんなさい。――私も、このまま話してもいいですか」
「……はい」
「私も夢を毎日のように見ます。そこでは、私には兄がいて仲良く過ごしていました。その兄は、私にとって英雄であり救世主なんです。私が辛い時、悲しい時、挫けそうな時、必ず助けてくれるんです。傍に居なくても、心の中でずっと支えてくれていました」
「……」
「ですがそんなある日、私は決めたんです。いつまでもこのままじゃいけない、兄に助けてもらい続けるだけじゃダメだって。そして、行動してみたんです。――でも、最後は悲惨な結末を迎えるんです。私を守ってくれた兄が目の前で死んでしまうんです」
「……」
アルクスの瞳からも意図せず涙が零れ始める。
「その後、私も死んでしまうんです。――でも、私は幸せでした。胸を張って言えるぐらい幸せな人生でした。最後に愛する人の腕の中で逝けるなんて、これ以上ないぐらいの幸せでした。だから、私は悔いていません」
二人は既に気づいていた。
夢の中の人物が誰で、目の前に居るのがその相手なのだと。
「――……私を守ってくれてありがとう、お兄ちゃん」
「そうだったんだ……そうだったんだね……」
ルイヴィスはアルクスに抱き着いた。
アルクスもそれを拒もうとせず、ただ優しく抱きしめる。
今に至るまで、毎日のように夢にうなされ苦しめられてきた。
解放される事のないその枷は、心に重くのしかかり、きつく締めあげてきた。
だが――今、やっと解放されたように感じる。
自分のやってきた、思ってきた事が間違いではなかった。
そう感じられるだけで、心が救われたのだ。
ルイヴィスもまた、やっとその呪縛から解放された。
頼るだけ頼り、憧れ、焦がれ、好いた相手に再び会う事ができ、最後に伝えられなかった言葉を伝えられた。
たったそれだけのことが、ルイヴィスにとってどれだけ救いになったのか計れない。
「やっと会えた……やっと、やっと……」
「また会えたんだね……また、また……」
二人は溢れる涙をそのままに、優しく抱き合い、再開を噛み締めたのだった――。
先ほど少女を助けた一件を思い出していて、中々に無茶があったと反省している。
あの時、周りに人が居たから良かったものの、もしも誰もいなかったらあのまま生き埋めになっていた可能性もあったのだから。
――でも、あの子を見捨てるぐらいだったら、手が届くのに助けられないのなら……。
だとしたら、アルクスは一生後悔していただろう。
彼の信念は、誰かを守るために力を使う事。
ならば助けないという選択肢はない。
全身を動かし、違和感がない事を確認し終える頃には村と外の境界線まで来ていた。
「そういえば、帰ったらまずは皿洗いをしないといけないなぁ。どうせ、ミシッダさんはやらないだろうし」
いつもならトレーニング後、家事を行っているのだが、今日はいつもと違う流れで過ごしている。
そして、今の今まで考えた事がなかった点に気が付く。
――あれ、そういえばミシッダさんって結構な時間を家にいるのに、どうやってお金を稼いでいるんだろう……?
本当に今更である。
逆に、数年間一緒に住んでいて一度も考えていなかったのが不思議なぐらいだ。
――帰ったらそれとなく訊いてみようかな。
そう心に決めながら歩いては、既に村の匂いも届かない場所まで来ていた。
ここからは森の奥へと続く道だけなため、街中で起きたようなことはほぼ起きない。
人目を気にせずに鼻歌でも歌い始めようかと思っていた時だった。
「あの……すみません」
「……はい?」
聞き馴染みのない声に振り向く。
「あ、ここから先は危ないですよ。道に迷ってしまったのですね。大丈夫です、ここから真っ直ぐ歩けば村に辿り着きますので」
「いえ、そうではないのです」
「あっ、もしかして僕が何か落とし物か忘れ物をしてしまって、それを届けに来てくれたんですね! ありがとうございます」
「いえっ! そうでもなく!」
アルクスは考える。
この目の前にいる銀髪の美少女はどのような理由があって声を掛けてきたのか。
姿を見るのは初めてだし、会話をするのも初めて。
――この人は一体どういう理由で……?
ルイヴィスは考える。
散々尾行した挙句、自らの勘を頼りに意を決して声を掛けた。
そこまでは良かったものの、実行した今、冷や汗をかきながら非常に困っている。
――あれ……これ、何を話したらいいの? 貴方は夢に出てきていた憧れの存在です! って? いやいやいや、そんな戯言を初対面の人に言われたら『こいつ頭おかしいだろ』って思われちゃう。絶対に!
アルクスにとっては不可解な状況。
ルイヴィスにとっては困惑する状況。
どちらも誰かに助けを求めたい状況となってしまっている。
「き、今日の天気は気持ち良いですね」
「そ、そうですね」
――話題、話題がない。いっそのこと、ナンパでもしちゃったほうが可能性はあるんじゃ!
――この人の考えが読めない。もしかして、この人は直接言えないだけで、遠回しに助けを求めているという可能性があるんじゃ……?
どちらの思考もとんでもない筋違いな角度に行ってしまっているのだが、ルイヴィスの一言に状況が変わる。
「そ、そうです。夢、です」
「夢ですか……?」
「はい、私は夢であなたと会ったことがあるのです」
「もしかして、予知夢的なやつだったり……?」
「え、ええ、そうです!」
――夢は誰でも見る。その中で、予知夢のようなものを見る時もある。それは理解できる。夢の中で誰か、に……会って……あれ……?
話を理解しようとした時だった。
アルクスの右目から、一粒の涙が零れ落ちる。
「えっ……?」
その光景にルイヴィスは驚く。
「あれ、なんでですかね。急にごめんなさい」
「いえ……」
咄嗟の出来事だったが、自分の事ながらに理解できないまま左腕で涙を拭う。
「もしかして、貴方も夢を見るのですか? 同じ夢を繰り返し」
「はい、そうです……え? なぜそれを」
「実は、先ほどああ言いましたが私もそうなのです。もしよろしければ、聞かせていただけませんか……?」
「構いませんけど……でも、ここで立ち話も疲れちゃいますので、近くに座れる場所まで行きませんか?」
「そうですね。では先導をお願いします」
アルクスは歩きながら、自分のまさかの発言に驚いていた。
今まで、誰かに夢の事を話すのは抵抗があった。
そのため、ミシッダとマーリエット以外に話をした事はない。
しかしなぜか今、夢の内容を話すと了承した時、目の前の少女に対して心の抵抗がなかった。
ルイヴィスはアルクスの後ろを歩きながら自分の発言に驚いていた。
今まで、夢を配下に話した事はあるが、詳細な内容は騎士のリイネ以外には打ち明けていない。
それが、先ほどはすんなりと初対面の相手に話そうとしてしまっていたのだ。
何一つ抵抗を感じず、なんなら積極的に。
目的地にたどり着くまでそう時間は掛からなかった。
マーリエットと初めて会った日、休憩するために使った切り株がある場所。
「ここです。では、そちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
ルイヴィスが腰を下ろしたのを確認し、アルクスは口を開いた。
「僕は毎日のように夢を見ます。そこでは、僕に妹がいて毎日のように仲良く過ごしていました。その妹を僕は守っていました。泣かせないように、笑顔でいられるように。――でも、最後は決まって悲惨な結末を迎えるんです。……死、という一番避けたい終わりに」
「……」
「守れなかった。守ると決めたのに。――一番守りたい妹を守れずに死んでしまう。悔やんでも悔やみきれない、そんな夢です」
「……」
「えっ!? どうしたんですか!」
ルイヴィスが両目から涙を流していたのをアルクスは瞬時に気が付く。
「ご、ごめんなさい。――私も、このまま話してもいいですか」
「……はい」
「私も夢を毎日のように見ます。そこでは、私には兄がいて仲良く過ごしていました。その兄は、私にとって英雄であり救世主なんです。私が辛い時、悲しい時、挫けそうな時、必ず助けてくれるんです。傍に居なくても、心の中でずっと支えてくれていました」
「……」
「ですがそんなある日、私は決めたんです。いつまでもこのままじゃいけない、兄に助けてもらい続けるだけじゃダメだって。そして、行動してみたんです。――でも、最後は悲惨な結末を迎えるんです。私を守ってくれた兄が目の前で死んでしまうんです」
「……」
アルクスの瞳からも意図せず涙が零れ始める。
「その後、私も死んでしまうんです。――でも、私は幸せでした。胸を張って言えるぐらい幸せな人生でした。最後に愛する人の腕の中で逝けるなんて、これ以上ないぐらいの幸せでした。だから、私は悔いていません」
二人は既に気づいていた。
夢の中の人物が誰で、目の前に居るのがその相手なのだと。
「――……私を守ってくれてありがとう、お兄ちゃん」
「そうだったんだ……そうだったんだね……」
ルイヴィスはアルクスに抱き着いた。
アルクスもそれを拒もうとせず、ただ優しく抱きしめる。
今に至るまで、毎日のように夢にうなされ苦しめられてきた。
解放される事のないその枷は、心に重くのしかかり、きつく締めあげてきた。
だが――今、やっと解放されたように感じる。
自分のやってきた、思ってきた事が間違いではなかった。
そう感じられるだけで、心が救われたのだ。
ルイヴィスもまた、やっとその呪縛から解放された。
頼るだけ頼り、憧れ、焦がれ、好いた相手に再び会う事ができ、最後に伝えられなかった言葉を伝えられた。
たったそれだけのことが、ルイヴィスにとってどれだけ救いになったのか計れない。
「やっと会えた……やっと、やっと……」
「また会えたんだね……また、また……」
二人は溢れる涙をそのままに、優しく抱き合い、再開を噛み締めたのだった――。
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