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第二章
第15話『運命的な再会――でも、関係性はリセット』
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「なんだかこうして話すと恥ずかしいね」
「でもこれが当たり前だったんだ」
「うん、そうだね」
互いに切り株へ腰を下ろしているも、どこか恥ずかしく目線が微妙に合わず。
なんせ、互いの関係性はハッキリと認識しているのに、生活していた明確な記憶はない。
言ってしまえば、ほとんど初対面なのだから。
「よく見たら、こっちの世界でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだねっ」
「なんだよそれ、なんか心外だな」
「えーっ、だってほら、そのあ・ほ・毛」
「こ、これは寝ぐせだって!」
「ほらっ、お兄ちゃんはいっつもそうやって言い訳してたじゃん」
「お、おう……たしかにな」
小さく控えめに笑う姿は、夢の中で観た――いや、前世の知っている姿だった。
自分の前だけでは飛び切り甘えん坊で、小動物を彷彿させる愛嬌がある。
今の白銀の髪とはかなりかけ離れている髪色ではあるが、以前の顔が重なって見えた。
変わっているようで変わっていない。
そこにはしっかりと、アルクス――いや、守が知っている恵海が居た。
「しかもお兄ちゃん、生まれ変わっても黒髪なの?」
「それが何か悪い? てか、そっちが変わり過ぎって話でしょ」
「ふっふーん、綺麗でしょこの銀髪。すっごくお気に入りなんだ~」
ルイヴィスの謎に勝ち誇っている姿は、アルクスの眉をピクつかせる。
「あっ、そうだ。お兄ちゃんはこっちではなんて名前なの?」
「アルクス・コーゼンハイムがこっちでの名前」
「へぇ~! じゃあ、アルって呼んでいいよね!」
「普通、初対面の相手にあだ名呼びってどうかと思うぞ」
「じゃあ、私達なら問題ないね。だって初対面じゃないし!」
「はぁ……こっちでは初対面だろ。まあ、別にいいけど」
「私は、ルイヴィス――」
と、途中まで言いかけ、ルイヴィスは言葉を途中で辞めた。
――いけない。例えお兄ちゃんといえども、私の身分を曝け出すようなことはできない。もしもそんなことをすれば、お兄ちゃんが混乱しちゃう。それに、変な事に巻き込んじゃうかもしれないから。
「ん? どうかしたのか?」
「ルイヴィス・ヴァール。これが私の名前」
「へえ、あだ名呼びできない感じか。ちょっと残念だな」
「何それひっどーい! 変なあだ名付けようとしないでちゃんと呼んでよね」
そしてルイヴィスは、偽名だと勘ぐられないよう補足を加える。
「一応言っておくけど、私と同じ銀髪で同じ名前の人が帝国の皇女様にいるけど、その人は全くの別人だから。似てる所が多くて色々迷惑してるの。お父さんとお母さんにはちゃんとお説教したんだから」
「へぇ、大変な思いをしてきたんだな。確かになぁ、自分と共通点が多い人がお偉いさんだと苦労する事もあるよな。皇女様という人を見た事がないからわからないんだけど」
「うんうん、色々と大変だったんだからっ! そうなの? 皇女様や皇子様は全員で七人いるんだけど、誰も知らないの?」
「そうだね、誰一人として見たことない」
――……帝国に住んでいて、そんなことがあるの? でも、この村にも私を知っている人はいなかった。――いや、知ってる人はいないと踏んで来ているから、それはそうなのだけど。私を知っている人がいたとしても、まさかこんなところにいるなんて思いもしない、か。
「それより、今は苦労した生活をしていない? 大丈夫?」
「え? うん、全然大丈夫だよ。どうして?」
「いや、その服……どちらかというとお尋ね者みたいな服装に見えるから……」
「あっ、これは友達から借りてるの。普段はちゃんとした服を着てるから安心して」
メイドへの注文として身分や性別を容易に悟られないような服を頼んでいた。
一番隠さないといけない髪を背中まで伸ばしていれば、元も子もないと思うが。
それが、まさかこんなところで心配されることになろうとは、ルイヴィスもさすがに予想だにしていなかった。
「そっか。ちゃんと生活できてるんだね。安心したよ」
――良かった。僕の家族みたいな事になっていなくて。僕みたいな悲しい思いをしてなくて、本当に良かった……。
アルクスは顔に出さず安心するも、ルイヴィスから当然のように質問を返される。
「じゃあお兄ちゃんは今どこに住んでるの? 最初からこの村に住んでるの?」
「あ……その――」
「その?」
――まずい。僕のあんな過去を伝えるわけにはいかない。もしも伝えてしまえば、確実に心配されるに決まっている。
「そう、両親とは長い間会ってないんだけど、今は親戚の人と一緒に暮らしてるんだ。ここからずっと森の奥に行ったところで生活してるよ」
「へぇ~! なんか、ちょっとだけわかった気がする」
「何が?」
「ここの村の人達、凄く人柄が良い人ばかりだったから。みんなから信頼されているところを見て、やっぱり変わらないんだなって」
「……え?」
「あー、実はずっと尾行してたんだよね。だから、みんなを手助けしてたり、みんなから笑顔を向けられたり、小さい子を守ってあげたり。全部見てたんだよ」
ルイヴィスは、憧れていた兄の存在を思い出しつつも、もう一つの感情も思い出し始める。
――そうだ……思い出した。私、お兄ちゃんが好きだったんだ。――兄としてではなく、一人の男性として。
前の世界では、実の兄妹が恋愛するというのはご法度として世間に広まっていた。
だから、自分の感情に気づきつつも、自分の気持ちを必死に漏れ出さないように暮らしていた。
だがルイヴィスは頭の回転が速く、気が付いてしまう。
この世界であれば元は実の兄妹だったとしても、今は完全に血が繋がっていない。
ならば、この気持ちを隠す必要はないという事だ。
自らは優れた策士だ、と自負し始め、急に謎の自信が満ち溢れようとするのだが……ルイヴィスは恋愛の『れ』の字すら知らない。
もちろん兄一筋だったため、元の世界でも他の男性と付き合った事が一度たりともなかった。
「感極まって、お兄ちゃんって言ってたけど、私達の関係は変わっちゃったんだよね。だから……さ、関係性もリセットだよね」
「というと?」
「ほら、良い方は悪いかもだけど、私達はもう兄妹じゃない。でしょ?」
「たしかに」
「じゃあ、ここから新しい関係性を構築した方が良いと思うの」
「それはそうかも。でも、ここまで話しておいてどうするって言うの?」
「まずは名前の呼び方から! 私は、もう妹じゃない。だから、ルイヴィスって呼んで。そして、私はアルって呼ぶから」
「うん、そうだね?」
『それはつい先ほど話した内容だから、特に確認する必要はないよね?』と、アルクスは疑問に思うも、話の流れを止めないために心の中で留める。
「それにしても、なんか調子崩れちゃうんだよね。アルの前って自分を『俺』って言ってたのに、今は『僕』って言ってるのがなんか、こう……」
――でも、こうして関係をリセットして面と向かうと、ちょっと恥ずかしくなって来ちゃった。どうしよう……。
「でも、今の僕が今の僕だから。それだけは変えられないよ」
「確かにそうね。あっ、そうだ。アルって今何歳なの?」
「十六だよ」
「えーっ! まさかの同い年ー! やったー!」
「え?」
「あ、いや。あー……そう、前は年が離れていたし。今も離れていたら敬語とか必要かなって思ってたの。それ以上でもそれ以下でもないと言うか、深い意味はないよ。ええそうよ、そうなのよ」
と、今まで普通に話していた口調からは想像もつかないぐらいの早口で、ルイヴィスはまくし立てた。
そんな息も吸わずに話すものだから、喋り終わった後、ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ、と息を荒げている。
アルクスは若干その奇妙な光景に、若干引いてしまう。
「そ、そうなんだ。確かにそうだね。じゃあ、これからよろしくねルイヴィス」
アルクスは立ち上がり、ルイヴィスの元まで歩み寄って手を差し出す。
ルイヴィスも立ち上がり、その手を握って二人は握手を交わした。
「そろそろ、宿を見つけに行くから今日はここでお別れね」
「もしよかったら家に来てもいいよ?」
「いや、そこまでお世話になるわけにはいかないよ」
「そっか。僕もほぼ毎日のようにあの村には行くから、明日も会えそうだね」
「そうなんだ! うん、じゃあまた明日!」
「また明日」
奇跡的な出会いは、偶然か必然か。
こうして世界を越え、時間をも超え、離れ離れになっていた兄妹はこうして再会を果たしたのだった。
「でもこれが当たり前だったんだ」
「うん、そうだね」
互いに切り株へ腰を下ろしているも、どこか恥ずかしく目線が微妙に合わず。
なんせ、互いの関係性はハッキリと認識しているのに、生活していた明確な記憶はない。
言ってしまえば、ほとんど初対面なのだから。
「よく見たら、こっちの世界でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだねっ」
「なんだよそれ、なんか心外だな」
「えーっ、だってほら、そのあ・ほ・毛」
「こ、これは寝ぐせだって!」
「ほらっ、お兄ちゃんはいっつもそうやって言い訳してたじゃん」
「お、おう……たしかにな」
小さく控えめに笑う姿は、夢の中で観た――いや、前世の知っている姿だった。
自分の前だけでは飛び切り甘えん坊で、小動物を彷彿させる愛嬌がある。
今の白銀の髪とはかなりかけ離れている髪色ではあるが、以前の顔が重なって見えた。
変わっているようで変わっていない。
そこにはしっかりと、アルクス――いや、守が知っている恵海が居た。
「しかもお兄ちゃん、生まれ変わっても黒髪なの?」
「それが何か悪い? てか、そっちが変わり過ぎって話でしょ」
「ふっふーん、綺麗でしょこの銀髪。すっごくお気に入りなんだ~」
ルイヴィスの謎に勝ち誇っている姿は、アルクスの眉をピクつかせる。
「あっ、そうだ。お兄ちゃんはこっちではなんて名前なの?」
「アルクス・コーゼンハイムがこっちでの名前」
「へぇ~! じゃあ、アルって呼んでいいよね!」
「普通、初対面の相手にあだ名呼びってどうかと思うぞ」
「じゃあ、私達なら問題ないね。だって初対面じゃないし!」
「はぁ……こっちでは初対面だろ。まあ、別にいいけど」
「私は、ルイヴィス――」
と、途中まで言いかけ、ルイヴィスは言葉を途中で辞めた。
――いけない。例えお兄ちゃんといえども、私の身分を曝け出すようなことはできない。もしもそんなことをすれば、お兄ちゃんが混乱しちゃう。それに、変な事に巻き込んじゃうかもしれないから。
「ん? どうかしたのか?」
「ルイヴィス・ヴァール。これが私の名前」
「へえ、あだ名呼びできない感じか。ちょっと残念だな」
「何それひっどーい! 変なあだ名付けようとしないでちゃんと呼んでよね」
そしてルイヴィスは、偽名だと勘ぐられないよう補足を加える。
「一応言っておくけど、私と同じ銀髪で同じ名前の人が帝国の皇女様にいるけど、その人は全くの別人だから。似てる所が多くて色々迷惑してるの。お父さんとお母さんにはちゃんとお説教したんだから」
「へぇ、大変な思いをしてきたんだな。確かになぁ、自分と共通点が多い人がお偉いさんだと苦労する事もあるよな。皇女様という人を見た事がないからわからないんだけど」
「うんうん、色々と大変だったんだからっ! そうなの? 皇女様や皇子様は全員で七人いるんだけど、誰も知らないの?」
「そうだね、誰一人として見たことない」
――……帝国に住んでいて、そんなことがあるの? でも、この村にも私を知っている人はいなかった。――いや、知ってる人はいないと踏んで来ているから、それはそうなのだけど。私を知っている人がいたとしても、まさかこんなところにいるなんて思いもしない、か。
「それより、今は苦労した生活をしていない? 大丈夫?」
「え? うん、全然大丈夫だよ。どうして?」
「いや、その服……どちらかというとお尋ね者みたいな服装に見えるから……」
「あっ、これは友達から借りてるの。普段はちゃんとした服を着てるから安心して」
メイドへの注文として身分や性別を容易に悟られないような服を頼んでいた。
一番隠さないといけない髪を背中まで伸ばしていれば、元も子もないと思うが。
それが、まさかこんなところで心配されることになろうとは、ルイヴィスもさすがに予想だにしていなかった。
「そっか。ちゃんと生活できてるんだね。安心したよ」
――良かった。僕の家族みたいな事になっていなくて。僕みたいな悲しい思いをしてなくて、本当に良かった……。
アルクスは顔に出さず安心するも、ルイヴィスから当然のように質問を返される。
「じゃあお兄ちゃんは今どこに住んでるの? 最初からこの村に住んでるの?」
「あ……その――」
「その?」
――まずい。僕のあんな過去を伝えるわけにはいかない。もしも伝えてしまえば、確実に心配されるに決まっている。
「そう、両親とは長い間会ってないんだけど、今は親戚の人と一緒に暮らしてるんだ。ここからずっと森の奥に行ったところで生活してるよ」
「へぇ~! なんか、ちょっとだけわかった気がする」
「何が?」
「ここの村の人達、凄く人柄が良い人ばかりだったから。みんなから信頼されているところを見て、やっぱり変わらないんだなって」
「……え?」
「あー、実はずっと尾行してたんだよね。だから、みんなを手助けしてたり、みんなから笑顔を向けられたり、小さい子を守ってあげたり。全部見てたんだよ」
ルイヴィスは、憧れていた兄の存在を思い出しつつも、もう一つの感情も思い出し始める。
――そうだ……思い出した。私、お兄ちゃんが好きだったんだ。――兄としてではなく、一人の男性として。
前の世界では、実の兄妹が恋愛するというのはご法度として世間に広まっていた。
だから、自分の感情に気づきつつも、自分の気持ちを必死に漏れ出さないように暮らしていた。
だがルイヴィスは頭の回転が速く、気が付いてしまう。
この世界であれば元は実の兄妹だったとしても、今は完全に血が繋がっていない。
ならば、この気持ちを隠す必要はないという事だ。
自らは優れた策士だ、と自負し始め、急に謎の自信が満ち溢れようとするのだが……ルイヴィスは恋愛の『れ』の字すら知らない。
もちろん兄一筋だったため、元の世界でも他の男性と付き合った事が一度たりともなかった。
「感極まって、お兄ちゃんって言ってたけど、私達の関係は変わっちゃったんだよね。だから……さ、関係性もリセットだよね」
「というと?」
「ほら、良い方は悪いかもだけど、私達はもう兄妹じゃない。でしょ?」
「たしかに」
「じゃあ、ここから新しい関係性を構築した方が良いと思うの」
「それはそうかも。でも、ここまで話しておいてどうするって言うの?」
「まずは名前の呼び方から! 私は、もう妹じゃない。だから、ルイヴィスって呼んで。そして、私はアルって呼ぶから」
「うん、そうだね?」
『それはつい先ほど話した内容だから、特に確認する必要はないよね?』と、アルクスは疑問に思うも、話の流れを止めないために心の中で留める。
「それにしても、なんか調子崩れちゃうんだよね。アルの前って自分を『俺』って言ってたのに、今は『僕』って言ってるのがなんか、こう……」
――でも、こうして関係をリセットして面と向かうと、ちょっと恥ずかしくなって来ちゃった。どうしよう……。
「でも、今の僕が今の僕だから。それだけは変えられないよ」
「確かにそうね。あっ、そうだ。アルって今何歳なの?」
「十六だよ」
「えーっ! まさかの同い年ー! やったー!」
「え?」
「あ、いや。あー……そう、前は年が離れていたし。今も離れていたら敬語とか必要かなって思ってたの。それ以上でもそれ以下でもないと言うか、深い意味はないよ。ええそうよ、そうなのよ」
と、今まで普通に話していた口調からは想像もつかないぐらいの早口で、ルイヴィスはまくし立てた。
そんな息も吸わずに話すものだから、喋り終わった後、ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ、と息を荒げている。
アルクスは若干その奇妙な光景に、若干引いてしまう。
「そ、そうなんだ。確かにそうだね。じゃあ、これからよろしくねルイヴィス」
アルクスは立ち上がり、ルイヴィスの元まで歩み寄って手を差し出す。
ルイヴィスも立ち上がり、その手を握って二人は握手を交わした。
「そろそろ、宿を見つけに行くから今日はここでお別れね」
「もしよかったら家に来てもいいよ?」
「いや、そこまでお世話になるわけにはいかないよ」
「そっか。僕もほぼ毎日のようにあの村には行くから、明日も会えそうだね」
「そうなんだ! うん、じゃあまた明日!」
「また明日」
奇跡的な出会いは、偶然か必然か。
こうして世界を越え、時間をも超え、離れ離れになっていた兄妹はこうして再会を果たしたのだった。
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