転校から始まる支援強化魔術師の成り上がり

椿紅颯

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第二章

第11話『妹達と勉強会』三連休三日目

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 三連休最終日。
 相変わらず、予定を決めずにこの日を迎えてしまった。濃密な二日間を送ったから、今日ぐらいは惰眠を貪るというのもありかもしれない。
 洗顔に向かおうと、ドアノブに手を掛けた時だった。
 扉を三回叩く音が鳴り、訪問者を知らせに対応するため扉を開くと、

「はーい」
「しーに……っ!」

 そこには、かえで椿つばきがいた。
 不意な対応に言葉を詰まらせ、ビクッと体を跳ね上がらせて全く同じの反応を見せている。

「ビッ、ビックリしました、しのにい」
「こんな朝から珍しいね、どうしたの?」

 その手には筆記用具とノート、宿題の手伝いを懇願しに来たのだろう。

「あ、宿題? すぐ終わりそう?」
「ううん違うの、今日は教えてほしい事があって――」
「そう、つまり勉強会なのです!」
「という感じにお願いしたいんだけど、もしかして今日は何か予定があったりしたかな?」
「――いや、今日は何も予定が入ってないんだよね。だから、その案に乗ることを決めた」
「やったぁ!」
「感謝です!」

 許可が出た途端、遠慮することなく横をズカズカと通過していき、壁に立て掛けてある折り畳み式の黒い机を組み立て始めた。
 早速、荷物を机の上に並べ終えるや、こちらに熱い眼差しを向けてきている。

「はいはい、始めるよ」

 本日の予定は急遽決まり、勉強会が始まった。

「それで、何が知りたいの?」
「――パーティ編成と集団戦闘について!」

 お互いに目線を交わし、笑みを浮かべ声を合わせてそう答えた。

「なるほどね。じゃあ、パーティ編成から。大事なのは、パーティメンバーのクラスと、得意な戦闘スタイルを把握すること。これは、初歩的で疎かにしていまいがちだけど、実はとても大事なんだ」

 この解説に、目線を真っ直ぐ向けて「ほぉほぉ」と相槌を打っている。

「バランスのいい編成だったとしても、反撃、遊撃、突撃とか分かれるよね」
「言われてみればそうだね」
「人それぞれ戦い方は違って当たり前なのです。でも、積極的に確認しようと思ったこともなかったのです」
「だから、バランスのいい編成ばかりに固執してはいけないよ。パーティの種類についてはもう授業でやったかな?」
「うん、戦略、作戦、戦術、戦法、ペアの順で習ったよ」
「四パーティが集まって32人以上から成る戦略パーティ。二・三パーティから成る作戦パーティ。上限8人のフルパーティが戦術パーティ。3・4人の戦法パーティ。2人のペア。と、しっかり記憶してます」

 時期的に習いたてのはずだけど、見事な解答。
 いつもなら得意気に誇り始めるはずだけど、視線を向けたまま反応を窺っている。

「……あ、う、うん。正解だよ」
「「やったーっ!」」

 いつもとは違う真剣さに返答が遅れてしまった。
 その喜びを前面に出した大きなガッツポーズは、とても微笑ましく可愛らしい姿だ。

「それと、今の話とは逆説的なんだけど、実は尖った編成もありなんだ」

 首を傾げて? が沢山浮かんでいるようだ。

「バランスのいい編成は安定性がある。それは、ダンジョン内での長期戦闘を想定するならとても大切なこと。でも、短期戦闘を視野に入れるなら攻撃力重視の編成の方が安定することもあるんだ」
「「ほほ~」」

 双子特有の息の合った同じ反応に関心しそうになったけど、話に具体性を持たせて続ける。

「ダンジョン内の戦闘は時間との勝負ともいえる場合がある。それは、バランスのいい編成であれば、もしもの時は対応できるけど、どうしてもその場その場での戦闘が長引いてしまう可能性がある。その分、尖った編成だと戦闘に時間が掛からないため、モンスターに囲まれる可能性が低くなる。だとすると、安全性は高くなるよね」
「――ちょ、ちょっと待ってしーにい! い、今の内容をノートに書きたい!」
「しのにい、もう一度お願いしてもいいですか!」

 夢中になって話を聴いていたから、慌ててノートに筆を走らせ始めた――。


 ――筆を止めて軽く一息を吐き始めた。それを確認して続きを始める。

「次は集団戦闘。実践的な内容になるんだけど、支援クラスで意識しておいたほうがいいことって何かな?」
「それは簡単すぎない? もちろんわかるよ。パーティ全体の体力管理とバフ管理、そしてヘイトが散らばらないように注意することでしょ?」

 自信満々に答える楓。椿もコクコクと首を縦に振って賛同している。

「そうだね、それはとても重要なことだね。でも、ダンジョンでは少し足りないかもね」
「え? ということは戦闘面以外でってことですか?」
「そうとも言えるけど、そうでもないとも言えるね」

 再び、頭の上に? がいくつも浮かんでそうな、首を傾け疑問を抱いているようだ。

「端的に言うと、視野を広げて戦闘以外にも周囲を払う必要があるってことだね。戦闘中の盾役は、目の前にいる敵のヘイト管理に集中しないといけない。その間は別方面の警戒は難しいよね。それを後衛が補うって感じ」

 話を聞き終えるとノートに視線を戻して筆を走らせ始める――。


 ――書き終えて顔を上げるが、顎に指を当てて口を窄めていた。

「ん~、ん~、書いてみたけどいまいち理解し切れてない感じがすーるー」
「んー、ならこれはどうか。モンスターと対峙する場合、大体の陣形では一直線になりがちなのは気づいているかな?」
「そ、そうなのですか……」
「うん、今までの演習を思い出してみて」
「――あっ! たしかに言われてみればそうなってるかも」
「それで、椿は回復しようと前に出ちゃったり、横にずれたりして狙われちゃうことがあったりするよね?」
「うぅ……本当にその通りなのです……」

 しょんぼりする椿の傍ら、楓は自分のことではなくともノートに記入している。

「今は陣形とかは省略するけど、後衛は戦況全体を常に把握することが大事だと、僕は思うんだ」
「なるほどです。仲間の支援をするにも、自分の立ち位置を冷静に判断がするのが大事ってことですね」
「それをするためには、全体を把握する必要がある……なるほど。しーにいは普段からそういうことを考えてるんだね」
「まあね。こういうのは、図を見ながらのほうが理解しやすいと思うから、これを」

 手描きの図を用いながらの説明を始めた。

「前衛4人、後衛4人の編成。通常だと盾役が2人とも最前線でモンスターのヘイトを持つよね。そして、遊撃の前衛が攻撃しつつ後衛が攻撃を集中、回復やバフを支援役が担う。という戦い方が効率も良く、事故発生率が少ない戦い方だよね。でも、この戦い方は正面からの火力集中型の戦術だから、もしもの状況に対応が遅れてしまうんだ」
「もしもの状況ってなんですか?」
「うん、実戦――即ち、ダンジョンでは常にモンスターが正面から攻めてくるとは限らない。つまり、常に前後左右でモンスターの襲撃を警戒しないといけない」
「なるほど!」
「さっきの話と繋がってくるわけですね。視野を広くですね!」

 食い入るように盤面上に釘付けになって話を聴いている。

「だから、今回の編成では最前線の盾役は交代制にするといい感じになるね。もう1人は後衛付近に配置、ヘイト管理よりカバーを意識した立ち回りを。これによって、もしもの状況が訪れてたとしても速やかに対応可能というわけだね。それに、途中で交代するから休憩にもなる」

 話が終わると、ノートに筆を走らせている。必死に書き記しているのを邪魔するわけにもいかないから、書き終えるのを待とう。
 こうして眺めていると、つい自分の姿を重ねてしまう。僕は誰かと勉学に励んだわけではないけど、この必死にも貪欲に知識を蓄えようとする姿勢を見ればそうせざるおえない。
 時折、手をぷらぷらと振る回数が増えてきた。そろそろ休憩を挟むにはちょうど良さそうかな。

「そろそろ休憩しよっか」
「くぁ~、さんせーい」
「ん~、きゅうけーいです」

 気を張っていたのか床に寝そべり、体を目一杯伸ばしている。

「そういえば週明けにテストでもあるの?」
「ないよー。どうして?」
「だってさ、長期休暇の宿題をやり忘れてた時かテストの前にこうやって来てるじゃん」
「うっっ、バレてる……しのにいは、かなり痛いところを突いて来ますね」

 わかりやすい反応に、こちらの反応が困る。
 椿が寝ころんだまま続けた。

「その通りなのですが、今回はそういうわけじゃないのです」
「そうだよ、しーにい。私達も成長したんだよっ!」
「そっか、じゃあ次のテストからは応援することにするよ」
「あいやそれはダメなのです!」
「そーれーはーだめー!」
「あはは、冗談だよ、冗談」

 年相応というか、まだまだ幼子というか、微笑ましい気持ちに頬が緩んでしまう。

「よし、休憩も挟んだしそろそろ再開しようか」
「「はーい」」

 情報整理ついでに、気になった点について聞くことにした。

「ちょっとした懸念なんだけど、後衛ばかりに知識が偏ってない?」
「もちろん私たちは後衛だし、その知識を熟知するのが一番だよ」
「その通りです。その知識で立ち回りなどに活かして、パーティに貢献するのです」
「うん、それ自体は凄い大事だし大切だね。でも、見落としやすいことがあるんだ。それは、自分と逆の立場について。僕たちだと前衛についてになるね」
「へえ~、それってどんなメリットがあるのですか?」
「例えば、前衛を回復したいとき、自分勝手に回復スキルを使用したとするよ。その結果、ヘイトが自分に向いてしまった――これは、陣形が崩れてしまうかもしれない。でも、盾役のスキルが大体どれくらいで再使用できるかを知っていると、ギリギリを攻めて回復すれば、ヘイト管理に支障は出ない」
「たしかに……なるほど。全部じゃなくてもそれを知っているだけで全然違うね」
「今まではそういう視点で見れていなかったから、ヘイトがばらつく原因になっていたのですね。今思い返してみれば、しのにいも同じ後衛なのに狙われているところを見たことがないのです」
「僕も完璧じゃないから失敗もするけど、その時はしっかりと声を出して連携をとることが大事。そのことも忘れずにね。あ、この本にスキル一覧が載ってるから見る?」
「見る見る!」
「見ます!」

 この食い入る様は、身に覚えがあるからだろう。現に、数日前の演習で同じ失敗をしていた。

 楓と椿は勉強熱心だ。だけど、実践寄りの知識ばかりに偏ってしまい、通常の勉強を疎かにしてテストの度にヒイヒイ言っている。
 熱中しすぎる点は人のことを言えない……かな。変なところが似てしまったの、かな。
 そんな熱々な勉強会は時間を忘れてしまうほどだった。
 気づけば食欲をそそり、空腹を刺激する焦がすような匂いが漂ってきた。晩飯の支度を始まったようだ。
 匂いに反応するように鼻を鳴らし、集中の糸がぷつりと切れた様に全員の手が止まり、

「この匂いはっ!」
「ああ、もうこんな時間なんだね」
「もう手が動きませーん!」
「だね。今日はもう終わりにしようか」
「しーにいのおかげでほらっ、見て見て、こんなに書いちゃった!」
「自分でもびっくりの量なのです」

 満面の笑みを浮かべながら、びっしりと詰められた文字や図を嬉々として見せてきた。見せられたこちらもでも驚いてしまう。

「今日はありがとね!」
「ありがとうございました!」

 気づけば室内は、窓から射す夕日に染められていた。
 後片付けをし終え、勉強会はお開き。
 三連休だからといって、普段の休日と大差はなく、これといって特別なこともなく終わりを迎えた。
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