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第四章

第26話『演習授業での衝撃と閃き』

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 実技授業。演習場に移動した僕たち3組は、まず初めにグループ決めとのこと。ペアで組むようにと伝達された。
 いつものように、桐吾とうごとペアを組んで準備運動を始めようとしたところ、海原かいはら先生が僕たちの方へ指示を飛ばしてきた。

「あーそうだそうだ、志信しのぶくんたちのところは、3人でやってくださいねー」

 嫌な予感がした……というか、薄々気づいていた。
 それは――。

「と、いうことで、よっろしくー!」
「う、うん。よろしくね」

 予感は的中した。
 その声の方に振り向くと、既に結月ゆづきは目の前にいた。
 ニッコニコにハニカミながら右手を小さく振っている。
 その笑顔は、他の人がみれば『無邪気に笑う天使』と言えそうな絵ではあるけど、僕にとっては『悪魔の微笑み』にしか見えない。

 転校挨拶時の「いろいろと教えてあげてくださいね」という言葉の意味がわかっていた気がする。
 差し詰め、「転校生同士だからいろいろと親近感も湧くだろうし、足りないところは補い合ってください」と言いたいのだろう。先生に「薄情な人だ」、と言葉をぶつけてもいいと思ってしまった。

「そういえば、こっちは桐吾とうご。同じ席の住人だよ」
「おー、そうだったんだねっ。初めまして、転校生の――いや、そんなの言わなくてもわかるかっ、桐吾くんよろしくね~」
「う、うん。月刀げっとうさんよろしく、ね」

 若干歯切れの悪い挨拶をしている桐吾をみて、心のなかで「ああ、もしかして桐吾も気圧されてるな」と呟いた。
 再び向けられる複数の槍のような視線を感じつつも、先生の説明が始まった。

「今回の授業は、今一度基礎に戻ってやっていこうと思います。ずばり、連携力強化です。仲間の戦い方を把握することを第一に、スキルや仲間の位置などを考えた練習というわけです」

 やはり今までとは違い、みんなの反応は統一されている。
 真剣な表情で話しを聞き、私語の一つも聞こえない。
 まるで人が変わったかのような変貌ぶりだけど、逆を返せば、これが本来の姿といえるのかも知れない。

 授業のテーマも非常にわかりやすく、準備運動を終え各自練習が始まった。

「そういえば、げー……結月ゆづきはどんな感じの戦闘スタイルなの?」
「うーん、なんていえばいいのかなー」

 顎に人差し指を当てて上を向いて考えていると、なにかを閃いたように桐吾に視線を送る。

「あっ、いいこと思いついちゃったっ。ねえねえ、桐吾くん私とちょっと模擬戦しようよ」
「え? どうしてそうなるの?」
「だってだって、戦闘スタイルを知りたいんでしょ? だったら、一番わかりやすいのは、やっぱり戦うことじゃない?」

 たしかに、言ってることは理に適っている。
 目には目を歯には歯を、ではないけど、言葉で聞くより実際に目で見たほうが理解しやすい……けど。
 桐吾はそれでいいのか……?

 不安に思って、桐吾に目線を向けると、

「うん、僕はそれで大丈夫だよ。たぶん月刀げっとうさんは今後、志信のパーティに入ると思うんだ。だったら隣に立つ者としては、剣を交えてみて、実際に肌で感じたほうががいいと思う」
「お、桐吾くんわかってるじゃーんっ。じゃあ、よろしくーっ」

 とんとん拍子で話が進んでいくなか、完全に置いてけぼりになっているけど、当人たちがそれでいいのなら止めることもない。
 2人は既に剣を構えて、若干の距離をおいている。
 まさに、スタートの合図待ち――。

「じゃあいくよ。よーい、始め!」

 まず初めにアクションを起こしたのは、桐吾。
 一歩踏み出して床を蹴り出し、剣を上段に構えて勢いよく合間を詰める。

 初戦の初撃――回避するためにバックステップをして距離を取り、着地を狙って反撃といったところか。
 状況的にはそれが妥当であり、最善策だろう。

 だが――。

「っ!」

 僕は、声にならない驚きをしてしまった。
 結月は、僕の予想とは全く別の行動にでた。
 剣で弾くでもなく、ジャンプするでもなく――避けた。
 勢いよく接近する真っ直ぐな一撃を、左肩を後方へずらして体の向きを変えた……それだけだ。

 そして接ぐ桐吾の二撃目、振り下ろした剣先を返して斜め一線の一撃。
 今度こそ大きく回避するに違いない。でなければ避けれない――。

「……」

 僕の予想はことごとく外れた。
 今度は、体を極限まで折り畳むように目線は外さずしゃがみこんだ。
 桐吾も、それ以上の追撃は危険と判断したようで、バックステップで距離をとった。とろうとした。
 でも、そこが狙い目だったかのように、結月が低い姿勢から勢いよく床を蹴って合間を詰めた。

 それからの攻防はまさに目から鱗だった。
 桐吾は距離を保つような空間把握を活かしたスタイル。
 それに対して結月は、距離を離さず、距離を詰める。鬼気迫るような接近戦スタイル。
 両極端な2人の戦いは、飽きをまったく感じさせない。
 このまま決着が着くまでみていたいところだけど……。

「そこまでっ!」

 僕の合図に2人の剣はピタリと止まり終了。
 
「2人ともご苦労様。とてもすごかった、物凄く参考になったよありがとう」
「月刀さん、ありがとう。僕も勉強になったよ」
「こちらこそーっ、桐吾くんすごいね! 私の攻撃が捌かれちゃったよ。――あれ? 志信、参考になったってどういうこと?」
「ん? 特に深い意味はないけど」
「えー! なになに、きーにーなーるー! どういうこと? ねえねえ、教えてよー!」

 ものすごい勢いで詰められて、身を引いていると先生からの終了の合図が聞こえてきた。
 それからは、ずっとジト目で僕のことをみてくる結月。
 ひたすらにその目線を浴びながら、これからの残りの時間を過ごした。
 そんな冷や汗が出そうな状況を気にしないようにしたら、今日一日の授業は終わりを迎えて、やっとそれから解放されることになった。

 ――よし、なんのことが気になっているのかはわからないけど、これから休日だし結月もきっと忘れてくれるだろう。
 そうだ、守結か兄貴に付き合ってもらって、今日思いついたことを実践してみよう。
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