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精霊候補編2
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精霊界で過ごす二日目の朝。
窓の向こうから聞こえてきた小鳥の鳴き声で、自然と眠りから目覚めたイザベル。
「ふぁあっ。よく寝たわ……まるで、新しく生まれ変わったように身体が楽になってる」
軽やかにベッドから身体を起こすと、驚くほど背中が軽くなっていて、自分の肉体の変化を体感する。
(不思議だわ……人間だった頃は、前日の疲れや眠気が体内に残っているのが当たり前だったのに、こんなに身体が全快するなんて。これが精霊の肉体というものなのかしら?)
洗顔や歯磨きを済ませて自室の鏡台の前で身支度を開始。職務用の清楚なワンピース型ローブに着替えて、金髪をハーフアップに結い、身嗜み程度の薄化粧を施す。仕事用の手帳と万年筆、小さな財布をウエストポーチにしまい、荷物用のカバンを別に用意して準備完了。
すぐに出掛けられる状態でリビングへと向かうと、既に婚約者のティエールが軽い朝食を準備してくれていた。
「おはようイザベル、調子は良さそうだね。良かった……思っていたよりも、精霊としての肉体への変化の波長が良いみたいだ」
「おはようティエール。自分でもびっくりするくらい、魂と肉体が馴染んでいるみたい。今日は初めての仕事の準備で手間取っちゃったけど、明日からは私も朝食の準備を手伝うわ」
「ふふっそれは有難いね。今日は、たんぽぽコーヒー、野菜のスープとガレット、山羊のチーズの朝食だよ。さあ食べよう!」
ミントの香りがするお手拭きまで用意してくれて、細やかな気遣いが嬉しい限り。
男性にしては甲斐甲斐しく世話好きなティエールは、イザベルの慣れない精霊としての生活をサポートしてくれる頼もしい存在だ。特にイザベルの住む人間界の国では、夫婦とはいえ男性が自ら料理を率先して行う者は少ないため、とても新鮮な暮らしに感じられた。
「そういえば今日は、長老様の邸宅でお目付役の小妖精と顔合わせするのよね。しばらく、ティエールと二人っきりの暮らしではなくなっちゃうんだわ」
ふとイザベルはこの幸せな時間が、今日の朝食で一旦区切りがつくことに気付いてしまう。まるで新婚生活のような心地よさについ緩みがちだが、これから精霊になるための試験を受けなくてはいけない。
お目付役の小妖精が付いてしまったら、この甘い二人きりの空間はしばらくお預けである。
「一応婚約中とはいえ、まだイザベルの魂は人間の状態から脱却しきっていないから。万が一、僕とイザベルが間違いを起こして男女の一線を越えないように、監視役が付くのさ」
「いっ一線って、もうっティエールったら、朝から恥ずかしいわ! 私はただ単に、二人っきりじゃなくなるから寂しいなぁ……なんて、思っただけよ」
「あはは。ごめん、ごめん」
昨日、窮地に陥ったイザベルを連れ出してくれた時の『精霊神』としての重厚な雰囲気とは違い、『年相応の若者』らしいティエール。神としての表情や仕草ではない、等身大の異性としての彼にイザベルはドキドキしっぱなしだ。
時折イザベルをからかったり、けれどいざという時は優しいティエールは、幼い頃の初恋の彼そのもの。
食事が済み玄関まで向かいそろそろ外出というところで、ティエールが足をピタリと止めてイザベルにひとこと忠告をする。
「どうしたの、ティエール?」
「ねぇイザベル。この家を出たら聖霊候補試験が終わるまでの数日間、僕はキミの上司として、精霊神として接しなければいけない。幼馴染みのティエール君は封印して、神としてキミを指導していく……覚悟は出来ているかい?」
ティエールは先ほどまでの柔らかな物腰とは違い、自分を律するように厳しくそして人間を見据える精霊神の眼差しとなっていた。この家を出たら、この扉を開けたら……二人の関係は規律の元で制限されたものになる。
「ええ……分かっているわ、ティエール。私もあなたに甘え過ぎず、きちんと神になるために努力する」
「……良い返事だ。じゃあ、幼馴染みとしての思い出として……出掛ける前の口付けを」
「……えっ? ティエール……あっ。んっ」
精霊入りするまでの間は、一線を越えてはならないという決まりから、てっきり唇を重ねることさえ禁じられていると思っていたが。どうやらそれはイザベルの勝手な思い違いのようであり、彼女の疑問はそのままティエールの熱い口付けに飲み込まれた。
そして宣言通りティエールは、その日からしばらくイザベルの上司として、優しくも厳しく指導を行うことになったのである。
窓の向こうから聞こえてきた小鳥の鳴き声で、自然と眠りから目覚めたイザベル。
「ふぁあっ。よく寝たわ……まるで、新しく生まれ変わったように身体が楽になってる」
軽やかにベッドから身体を起こすと、驚くほど背中が軽くなっていて、自分の肉体の変化を体感する。
(不思議だわ……人間だった頃は、前日の疲れや眠気が体内に残っているのが当たり前だったのに、こんなに身体が全快するなんて。これが精霊の肉体というものなのかしら?)
洗顔や歯磨きを済ませて自室の鏡台の前で身支度を開始。職務用の清楚なワンピース型ローブに着替えて、金髪をハーフアップに結い、身嗜み程度の薄化粧を施す。仕事用の手帳と万年筆、小さな財布をウエストポーチにしまい、荷物用のカバンを別に用意して準備完了。
すぐに出掛けられる状態でリビングへと向かうと、既に婚約者のティエールが軽い朝食を準備してくれていた。
「おはようイザベル、調子は良さそうだね。良かった……思っていたよりも、精霊としての肉体への変化の波長が良いみたいだ」
「おはようティエール。自分でもびっくりするくらい、魂と肉体が馴染んでいるみたい。今日は初めての仕事の準備で手間取っちゃったけど、明日からは私も朝食の準備を手伝うわ」
「ふふっそれは有難いね。今日は、たんぽぽコーヒー、野菜のスープとガレット、山羊のチーズの朝食だよ。さあ食べよう!」
ミントの香りがするお手拭きまで用意してくれて、細やかな気遣いが嬉しい限り。
男性にしては甲斐甲斐しく世話好きなティエールは、イザベルの慣れない精霊としての生活をサポートしてくれる頼もしい存在だ。特にイザベルの住む人間界の国では、夫婦とはいえ男性が自ら料理を率先して行う者は少ないため、とても新鮮な暮らしに感じられた。
「そういえば今日は、長老様の邸宅でお目付役の小妖精と顔合わせするのよね。しばらく、ティエールと二人っきりの暮らしではなくなっちゃうんだわ」
ふとイザベルはこの幸せな時間が、今日の朝食で一旦区切りがつくことに気付いてしまう。まるで新婚生活のような心地よさについ緩みがちだが、これから精霊になるための試験を受けなくてはいけない。
お目付役の小妖精が付いてしまったら、この甘い二人きりの空間はしばらくお預けである。
「一応婚約中とはいえ、まだイザベルの魂は人間の状態から脱却しきっていないから。万が一、僕とイザベルが間違いを起こして男女の一線を越えないように、監視役が付くのさ」
「いっ一線って、もうっティエールったら、朝から恥ずかしいわ! 私はただ単に、二人っきりじゃなくなるから寂しいなぁ……なんて、思っただけよ」
「あはは。ごめん、ごめん」
昨日、窮地に陥ったイザベルを連れ出してくれた時の『精霊神』としての重厚な雰囲気とは違い、『年相応の若者』らしいティエール。神としての表情や仕草ではない、等身大の異性としての彼にイザベルはドキドキしっぱなしだ。
時折イザベルをからかったり、けれどいざという時は優しいティエールは、幼い頃の初恋の彼そのもの。
食事が済み玄関まで向かいそろそろ外出というところで、ティエールが足をピタリと止めてイザベルにひとこと忠告をする。
「どうしたの、ティエール?」
「ねぇイザベル。この家を出たら聖霊候補試験が終わるまでの数日間、僕はキミの上司として、精霊神として接しなければいけない。幼馴染みのティエール君は封印して、神としてキミを指導していく……覚悟は出来ているかい?」
ティエールは先ほどまでの柔らかな物腰とは違い、自分を律するように厳しくそして人間を見据える精霊神の眼差しとなっていた。この家を出たら、この扉を開けたら……二人の関係は規律の元で制限されたものになる。
「ええ……分かっているわ、ティエール。私もあなたに甘え過ぎず、きちんと神になるために努力する」
「……良い返事だ。じゃあ、幼馴染みとしての思い出として……出掛ける前の口付けを」
「……えっ? ティエール……あっ。んっ」
精霊入りするまでの間は、一線を越えてはならないという決まりから、てっきり唇を重ねることさえ禁じられていると思っていたが。どうやらそれはイザベルの勝手な思い違いのようであり、彼女の疑問はそのままティエールの熱い口付けに飲み込まれた。
そして宣言通りティエールは、その日からしばらくイザベルの上司として、優しくも厳しく指導を行うことになったのである。
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