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幕間2
03
しおりを挟む叶わない淡い恋と分かっていてもイザベルに惹かれていたロマリオにとって、ほんの少しの光明にも見える婚約解消の噂。けれどその理由が、ティエールに他の女性がいたなどの典型的なものではなく、血族婚による遺伝子的な理由とは想像しなかった。
(まさか異種属であるはずの二人に、共通のご先祖様がいるなんて。けれどもし、本当に二人の婚約が解消となれば、自分にもイザベルさんに想いを伝えるチャンスが……? だが……イザベルさんが哀しむのは、自分も辛い……)
なんと言ってもイザベルは人間から精霊にその身を移し替えた精霊候補、ティエールは精霊界のエリート一族とも言える菩提樹の精霊。異種族であるはずの二人が、実のところ共通の先祖を持っているとは予測しない事態である。
一瞬だけ自分にチャンスが廻ってくる希望を見て喜んだものの、人の良いロマリオはイザベルが悲しむ姿を想像して胸が痛んだ。それに二人が血族結婚に該当すると言っても、最低でもいとこ以上親等の離れた血縁のはずである。何がどれくらい引っかかるのか不明瞭だったため、取り敢えずは上官に詳しい事情を訊いてみることに。
「その……具体的には、イザベルさんとティエール様の婚姻のどのような部分が、引っ掛かりとなるのでしょう? 確かに、血縁婚には遺伝子上の弊害が起こる可能性もあるとされていますが。それはあくまでも、かなり近しい親等レベルの話に過ぎませんよね」
近親婚をタブーとする国は多く、倫理観や遺伝子の構造上の問題から法律を定めているケースが殆どだ。精霊界は地上とは法律的なルールが異なるものの、兄妹間の婚姻は倫理的な観点からタブーとされている。だがロマリオがここで指している血縁婚は、はとこ婚などのある程度は親等が離れている結婚についてである。
「まぁ地上でも血縁婚を許可している国は幾つかあるし、四親等から婚姻出来るとする国もある。その一方で、八親等まで婚姻を禁止とする国もあるが。イザベルさんとティエール様の問題点は、そこではないのだよ」
はるか東の和の国では、四親等婚を認めているという特徴があり、島国という特徴からか世界の中でも血縁婚の割合が多かった時期があった。だが、同じ東の地域であっても大陸に属する国々では、いとこ・はとこよりも遠い八親等まで婚姻が禁止されているのが現状だ。複雑な手続きを踏まなければ他国へと移住が難しい和国と、その気になれば同じ大陸の他所の国へ嫁いだり移住しやすかった大陸国との違いと言えるだろう。
しかし、今回の問題点は【いとこ・はとこ婚の是非】よりもさらに奥深い事情が秘められていた。
「ふむ……では、やはり人間と精霊という種族違いが問題となっているのでしょうか? あれっ……けど、ティエール様も人間の血を引いていることになるはずで……?」
「……そういう訳だよ、ロマリオ。彼らを縛る因果は一つではなく。様々な理由が複雑に絡み合っているのさ。まずは、手元の資料に目を通してくれ」
促されるままに、ロマリオは自らの手に握られている書類を追っていく。
『今から数百年前、地上より精霊神オリヴァードに嫁ぐため、死を見ずに魂の状態で精霊候補となった娘あり。彼女の名はレイチェルといい、双子の妹ララベルと共に精霊に寄り添う巫女の役割を果たしていた』
イザベル・カエラートの先祖に関する記述はレイチェルとララベルという双子の姉妹についてだ。おそらくティエールの先祖がレイチェル、イザベルの先祖がララベルである。
「双子の姉妹……ですか。つまり、ティエールさんとイザベルさんは双子の遺伝子をそれぞれ受け継いだ特別な親族……」
「ああ、そして問題となる点は……二人の遺伝子が合わせることで、強化される部分が【人間としての遺伝子】だということだ」
精霊界を導く役割を背負う精霊神の子供が、人間としての遺伝子を強く持つ。それは菩提樹の一族が次第に神ではなくなり、地上に降りてしまう可能性を示唆していた。
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