7 / 9
07
しおりを挟む
スポーツカーから降り、深紅の薔薇を手にして我が家の敷地を歩くリチャード君は、映画のワンシーンのような登場の仕方。手にした薔薇の花びらが少しだけ風に乗って、リチャード君の周囲を麗しく散らしていた。
「まさか初デートでリチャード君が、真っ赤なスポーツカーに乗って迎えに来るとは思わなかったわ。昔の貴族でいうところの【白馬に乗って王子様が迎えに来た】シーンくらいのサプライズかしら?」
私もリチャード君も一応は貴族の端くれだけど現代人のため、馬に乗って何処かへ出かけるという風習は持っていない。他の貴族の家庭もかなり現代ナイズされていて、車もスマホも日常に馴染んでいるはず。だから『白馬に乗った王子様が迎えに来る』という表現は、一般的な比喩表現の一つと化していた。
敢えて言うならリチャード君が乗って来たようなスポーツカーが、王子様の象徴的なアイテムだ。
「白馬に乗った王子様ならぬ、赤いスポーツカーに乗った王子様か。男というものは、運転免許を取ったら一生に一度くらいはスポーツカーに乗りたいと願う生き物なんだよ」
「そ、そうなの? 随分とスポーツカーというのは、男性の憧れの象徴なのね」
「とは言え、免許を取ってすぐさまスポーツカーを購入出来るものはごく稀だ。株とFXで自力で購入した努力の結晶が、あの車なんだ。良かったな、婚約者が努力家で……」
内側から解き放たれる自信たっぷりのリチャード君のオーラの正体は、並々ならぬ努力を重ねて株とFXを研究し尽くした強者の自信に他ならないだろう。よく少女小説の挿絵で背景に薔薇の花を背負って王子様が現れるが、そのシーンの再現を天然で行っているリチャード君に私は圧倒されっぱなしだった。
(うわぁ……リチャード君、今日はこの間会った時よりもさらにカッコよくなってる! はうぅ……微笑むと貴公子みたい。はっマズイ、思わず見惚れてしまった)
「アリシアお姉ちゃん。おはよう……ごめん、待たせたかな?」
「ううん、全然平気よ。おはようリチャード君。わっ……この薔薇の花束、私に?」
「記念すべき初デートだからさ、どんな風に僕の真剣な愛を伝えるか考えたんだけど、オーソドックスに花束のプレゼントが良いと思って」
爽やかに微笑むとふと白い歯がキラーンと光って溢れる。っていうか、何だか私とは住む世界がますます違う気がしちゃうけど……大丈夫なのかな?
すると花束を渡すタイミングでちょっと屈んだリチャード君が、蕩けるような甘いトーンで私の耳許でそっと。
「今日は一段と綺麗だよ、アリシア」
と、初めてお姉ちゃん呼びではなく『アリシア』と名前だけで呼ばれて、一気に顔が真っ赤になってしまう。
俯いて照れに照れている私をよそに、リチャード君はお父様と軽く談笑し「では、アリシアさんをお借りします」と、爽やかに私をスポーツカーの助手席まで誘導した。
あっという間に車は発進し、気がつけばデートスポットの海の見える公園へ。
リチャード君が私の助手席のドアを開けると、海特有のカモメの声が外から響いて来て、ハッと我に帰る。
「ん……アリシア、平気? なんだかずっと無言だけど」
「だって、もうっ! リチャード君、からかっているならやめてよね。いきなり、そのアリシアなんて呼び捨てして来て……。びっくりしちゃったでしょ」
「そうでもしないとアリシアは、僕のことずっと弟みたいな扱いで意識してくれないから。今日はきちんとエスコートするからさ、大人の男だって認めてよね……さあ行こう、僕のお姫様!」
スッと差し出されたその大きな手は、とっくに大人の男性のもので。言われなくても私は、リチャード君にメロメロだ。差し出された手に、自分の手をそっと重ねる。
――スポーツカーに乗った王子様は、とても優しく温かな手をしていた。
「まさか初デートでリチャード君が、真っ赤なスポーツカーに乗って迎えに来るとは思わなかったわ。昔の貴族でいうところの【白馬に乗って王子様が迎えに来た】シーンくらいのサプライズかしら?」
私もリチャード君も一応は貴族の端くれだけど現代人のため、馬に乗って何処かへ出かけるという風習は持っていない。他の貴族の家庭もかなり現代ナイズされていて、車もスマホも日常に馴染んでいるはず。だから『白馬に乗った王子様が迎えに来る』という表現は、一般的な比喩表現の一つと化していた。
敢えて言うならリチャード君が乗って来たようなスポーツカーが、王子様の象徴的なアイテムだ。
「白馬に乗った王子様ならぬ、赤いスポーツカーに乗った王子様か。男というものは、運転免許を取ったら一生に一度くらいはスポーツカーに乗りたいと願う生き物なんだよ」
「そ、そうなの? 随分とスポーツカーというのは、男性の憧れの象徴なのね」
「とは言え、免許を取ってすぐさまスポーツカーを購入出来るものはごく稀だ。株とFXで自力で購入した努力の結晶が、あの車なんだ。良かったな、婚約者が努力家で……」
内側から解き放たれる自信たっぷりのリチャード君のオーラの正体は、並々ならぬ努力を重ねて株とFXを研究し尽くした強者の自信に他ならないだろう。よく少女小説の挿絵で背景に薔薇の花を背負って王子様が現れるが、そのシーンの再現を天然で行っているリチャード君に私は圧倒されっぱなしだった。
(うわぁ……リチャード君、今日はこの間会った時よりもさらにカッコよくなってる! はうぅ……微笑むと貴公子みたい。はっマズイ、思わず見惚れてしまった)
「アリシアお姉ちゃん。おはよう……ごめん、待たせたかな?」
「ううん、全然平気よ。おはようリチャード君。わっ……この薔薇の花束、私に?」
「記念すべき初デートだからさ、どんな風に僕の真剣な愛を伝えるか考えたんだけど、オーソドックスに花束のプレゼントが良いと思って」
爽やかに微笑むとふと白い歯がキラーンと光って溢れる。っていうか、何だか私とは住む世界がますます違う気がしちゃうけど……大丈夫なのかな?
すると花束を渡すタイミングでちょっと屈んだリチャード君が、蕩けるような甘いトーンで私の耳許でそっと。
「今日は一段と綺麗だよ、アリシア」
と、初めてお姉ちゃん呼びではなく『アリシア』と名前だけで呼ばれて、一気に顔が真っ赤になってしまう。
俯いて照れに照れている私をよそに、リチャード君はお父様と軽く談笑し「では、アリシアさんをお借りします」と、爽やかに私をスポーツカーの助手席まで誘導した。
あっという間に車は発進し、気がつけばデートスポットの海の見える公園へ。
リチャード君が私の助手席のドアを開けると、海特有のカモメの声が外から響いて来て、ハッと我に帰る。
「ん……アリシア、平気? なんだかずっと無言だけど」
「だって、もうっ! リチャード君、からかっているならやめてよね。いきなり、そのアリシアなんて呼び捨てして来て……。びっくりしちゃったでしょ」
「そうでもしないとアリシアは、僕のことずっと弟みたいな扱いで意識してくれないから。今日はきちんとエスコートするからさ、大人の男だって認めてよね……さあ行こう、僕のお姫様!」
スッと差し出されたその大きな手は、とっくに大人の男性のもので。言われなくても私は、リチャード君にメロメロだ。差し出された手に、自分の手をそっと重ねる。
――スポーツカーに乗った王子様は、とても優しく温かな手をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。
ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。
ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる