修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星井ゆの花(星里有乃)

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第一章

04

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「今日の歓迎会は、いわゆる社交界と違い、身分は関係なく参加出来るものです。敢えて言うなら、宮廷の仕事に従事している者やボランティアに参加してくれた皆さま、という括りでしょうか」
「聖女派遣団との交流を祝い、乾杯!」

 歓迎のために用意された立食の席は、ローブ姿の魔法使いや修道女でも参加しやすくカジュアルな雰囲気だ。

「この葡萄ジュースは同じ品種でワインも作ってるんですよ。是非……」
「コクがあって美味しい、ありがとう」

 華やかな社交界とは違った空間をわざわざ用意してくれたのは、爵位を剥奪されたルイーゼへの配慮だろう。そしておそらく、社交界にて男遊びに呆けていた元婚約者を持つマリウス王子への配慮も含まれていた。

(私は自分が追放されて苦しんでいたけど、マリウス王子は婚約者に裏切られて傷ついていたのよね。この歓迎会だって、あまり王族は出席しないようなとてもカジュアルなもの。社交界を彷彿とさせないように、心の傷を抉らないようにしてるんだわ)

 ルイーゼとマリウスは幼馴染みとはいえ、久しぶりの会話は話題を選ぶため、最近の近況を報告し合うことにする。

「それで、修道院ではどのような暮らしを?」
「そうね。基本的に自給自足だから、ミントやハーブ、果物とか食べられる種や苗を育ててるの。うちに実家が寄付してくれて、養鶏場も出来たしこの2年で暮らしやすくなったわ」
「あの辺りの土地をもっと活用して、小麦とかを増やせれば。パンに困らなくなるね。すぐ近くの土地なのに、我が国が改良に手を出せないのはすごく惜しいよ」

 この立食パーティーの軽食を見ても、サンドウィッチやスコーンなど、主食の食材を使用したものが多い。見たところ、メインストリートの貧富の差もあまりなく、痩せ細った子供や物乞いもいない。国全体を通して、穀物の供給がうまく行ってる証拠だろう。

(きっと修道院でも今頃お昼ごはんよね。みんな、ちゃんと食べてるかしら?)


 * * *


 修道院では倹約しながらも、ミントを乗せたプリンデザートが盛り込まれた楽しい食事の真っ最中。

「そろそろ、隣国に着いた頃ね。聖女セシリアとシスターハンナは大丈夫かしら?」
「院長、やはり寂しいですか。あの子が来てから、随分とここは変わりましたものね」
「最初はどんなご令嬢なのかと噂されていたけど、心根の真っ直ぐな良い子だわ。けど、意地の悪い貴族階級ではきっと居心地が悪かったでしょう。可哀想に」

 聖女セシリアことルイーゼ嬢が来るまでは、この修道院ではデザートを昼食とセットにする習慣がなかった。レンズ豆のスープや硬いパンをもらえるだけで有り難く、デザートなんて贅沢だから、という理由だ。
 しかし、ルイーゼ嬢は真の贅沢は無駄遣いであると院長を説得した。

『あの、院長様。この修道院では、食材として使えるのに誰にも食べられないまま旬を越える植物が幾つかあります。土地が余っているのに、ジャガイモなどを栽培しないのも勿体無いわ』
『あら、まさか公爵令嬢ルイーゼ嬢からそんなセリフが出るなんて。貴族は贅沢こそすれど、倹約からは遠い人が多いのに』
『私は、贅沢をするために公爵家に生まれたとは考えておりません。領地経営や平民の暮らしの底上げをはかり、領地全体が豊かになることが使命だと考えておりました。それに真の贅沢とは使える食材や土地を無駄遣いすることです』

 ルイーゼの提案は、これまで辺境地には無かった発想ばかりで、改革のために取り入れることを上層部も賛成した。余った畑で育てる植物は、効率よく成長するものばかり。種や苗は、全てルイーゼの実家から支給されて、修道院の負担は無かった。遠く離れた土地で苦労して暮らすであろう愛娘への仕送りが、種や苗なのだろうと院長は有り難く受け取った。

 一度植えれば大量に増えるミントは、眠気覚ましの朝のお茶に最適。季節を選ぶものの、ジャガイモは主食にもオヤツにもなる。養鶏場も設置されて、新鮮な卵を毎日味わえるようになったし、ハーブや果物を用いたデザートは毎日の楽しみとなった。

「だからね、あの子が聖女と聴かされて妙に納得したの。ルイーゼ嬢は、目立つ形での聖女ではないかも知れないけれど、人々の暮らしを支える手助けが上手いわ」
「ですね、私もそう思います。その素敵な彼女を修道院としては聖女としてキープしたいわけですが、まだ彼女はグレー修道服の半人前。終生を修道院で過ごす神への誓いはしておりません。アランツ王国が是非うちに……とお誘いするのも仕方がないです」
「それこそ、神のご意志に委ねましょう。彼女の行くべき道は、きっと神様が導いてくれるわ」

 修道院長は、ルイーゼの将来はアランツ王国にあるような気がして、そろそろ修道院としても準備をするべきかしら、と自然と思うようになっていた。
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