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正編 第三章
第08話 泣き縋る声は氷を溶かす
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ギベオン王太子の焦りとは裏腹に、二人の気持ちはすれ違っていき、電話の内容はどんどん悪い方向へと向かっていった。
「……どちらかと言うと、周りの人も一丸となってネフライト君と私に先に纏まって貰ってから、ギベオン王太子と破断して欲しいように感じるわ。私が先に男が出来た設定の方が、王宮関係者達にとっては都合が良いのね」
『別にそこまでは言ってない! ただ、キミの気持ちをたまに確認しておきたいと思っただけで。それとも何か、もうネフライト君と何かあったのか……彼も今年で中学二年生だ。そろそろ……』
ルクリアからするとギベオン王太子が一体、何を確認したいのか本音の部分が分からない。別れたいのなら自分から言い出せばいいものを、まさかまだ十三歳のネフライトを悪者扱いしようとしているのではないかと疑ってしまう。
今日は偶然手を繋ぐ機会があったが、ネフライトは決してルクリアを傷付けるような真似はしない。
大人だった頃の記憶を持つ彼が、子供の身体で真摯に今、出来る限りの愛情表現をしてくれている。自分達のプラトニックな関係が侮辱された気がして、ルクリアは徐々にギベオン王太子を責めるような口調になっていった。
「……以前にも話したけど、ネフライト君はまだ少し子どもなの。貴方が考えるようないやらしい真似が出来るはずないじゃないっ。彼のことを本気で好きになるのは、未だ少しかかるわ。でも、ネフライト君は素敵な人よ、外見だって可愛いくてカッコいいし、このまま大人になれば私だってもっと彼のことが好きになる。でも、今の段階でネフライト君に奪略愛の罪を被せるなんて卑怯だわ!」
本気で好きになるのは時間がかかる、と言うことは既にもうルクリアは、ネフライトのことを好きになりつつあることを肯定したとギベオン王太子は捉えた。
(どうりで二人は、早く纏まってしまうわけだ。自分に気がありそうな財閥の御子息を思わせぶりに誘惑して、いずれ大人になったら自分のものにする気なのか。ルクリアは、そんなに悪い女だったのか。そうだよな……氷の令嬢とか言われているくらいだ。僕を見限って、あの子に走るんだ)
このままもっと好きになるというセリフは、ギベオン王太子からすると婚約者である自分よりも、ネフライトを選ぶと言う確定された未来を突きつけられた気がした。そうだ『未来はもう二人の娘のレンカが登場した時点で、決まってしまったのだ』と、ギベオン王太子の中で抑えていた何かがプッツリと切れた。
『……ああ、そうか。キミはそんなにあの子が大切か。今の段階では、手を出すのはネフライト君からじゃなくてキミの方からだろうしな。それともいずれ、自分の方から手をつけて喰うつもりなのか……僕とは肉体関係を持たないくせにっ』
「ふざけないでよ! 貴方と結婚するまでそう言う関係にならないのは、契約内容にあるからでしょう。それに、自分に責任を持てない学生の立場で、万が一子供でも出来たらどうするのよ」
頭に血が上りどんどん二人の口論は酷くなっていく、本当はこんなことを言い争いたい訳ではないのに。今日のギベオン王太子はいつも以上に、嫌味っぽくて好戦的だ。そしてルクリアも、将来は破断が確定していたとしてもギベオン王太子に未練があったのに、それ以上に彼の許せない部分が見えてしまう。
『だけど、ネフライト君とはそういう関係になるんだろう? 年が若くても、世間の目があっても、万が一子供が出来ても構わないから。いや、むしろキミの方が彼の子を望むようになるんじゃないか』
「ちょっと、ギベオン王太子。貴方、何だか今日……変よ。落ち着いて、落ち着いて話して……」
『……ルクリア、僕は知ってしまったんだ。今日、カルミアのクラスに突然やって来た新入生は、キミとネフライト君の娘なんだってな。未来は隕石衝突の影響で、ひどく荒れて成人年齢は元服まで引き下げられるそうじゃないか。だからって、そんなに早く結婚するということは。それだけ、ネフライト君のことを好きになるということなんだろう?』
ギベオン王太子が未来を知ってしまったと語り始めて、ルクリアは思わず反論を失ってしまった。
隕石衝突後の未来に、ギベオン王太子が存命しているかは謎だ。氷河期の中で永遠の眠りについているということしか情報はなく、それが死を現すのか、カルミアの夢見のチカラで学生時代の夢を永遠に見続けながら眠っているのかは分からない。
だが、ネフライトと夫婦になり、娘が産まれて家族になり、人としての人生を順調に歩んでいくルクリアとは大きく違うことだけは分かっていた。
「ねぇ、ギベオン王太子。私達は今の時間を過ごしているのよ。それに、未来からやって来たという少女の目的が、滅亡するこの国を救う事かも知れないでしょう。どうして、そんなに悲観的になるの。お願い、いつもの優しいギベオン王太子に戻ってよ。言い過ぎたのは謝るから……お願い」
「どうしてって……キミのことが、キミのことが好きだからに決まっていつだろう? ルクリア。キミが……僕と死に別れたのち。将来、僕以外の男に純潔を捧げて抱かれようと、他の男と子を成そうと、キミの心から完全に僕が思い出の中で消え去ってしまうとしても……僕はキミのことが好きだ」
まさか、いつも冷静で大人の対応を貫いていたギベオン王太子が、涙声でまるで『捨てないでくれ』と縋るように、ルクリアに愛を告白するとは思わなかった。ルクリアの中で、勝手に作り上げられていたギベオン王太子の氷像が崩れていく。
彼の内面は、ルクリアの想像よりもずっと熱い情熱を抱いていた。ルクリアの氷を溶かすように。
「……どちらかと言うと、周りの人も一丸となってネフライト君と私に先に纏まって貰ってから、ギベオン王太子と破断して欲しいように感じるわ。私が先に男が出来た設定の方が、王宮関係者達にとっては都合が良いのね」
『別にそこまでは言ってない! ただ、キミの気持ちをたまに確認しておきたいと思っただけで。それとも何か、もうネフライト君と何かあったのか……彼も今年で中学二年生だ。そろそろ……』
ルクリアからするとギベオン王太子が一体、何を確認したいのか本音の部分が分からない。別れたいのなら自分から言い出せばいいものを、まさかまだ十三歳のネフライトを悪者扱いしようとしているのではないかと疑ってしまう。
今日は偶然手を繋ぐ機会があったが、ネフライトは決してルクリアを傷付けるような真似はしない。
大人だった頃の記憶を持つ彼が、子供の身体で真摯に今、出来る限りの愛情表現をしてくれている。自分達のプラトニックな関係が侮辱された気がして、ルクリアは徐々にギベオン王太子を責めるような口調になっていった。
「……以前にも話したけど、ネフライト君はまだ少し子どもなの。貴方が考えるようないやらしい真似が出来るはずないじゃないっ。彼のことを本気で好きになるのは、未だ少しかかるわ。でも、ネフライト君は素敵な人よ、外見だって可愛いくてカッコいいし、このまま大人になれば私だってもっと彼のことが好きになる。でも、今の段階でネフライト君に奪略愛の罪を被せるなんて卑怯だわ!」
本気で好きになるのは時間がかかる、と言うことは既にもうルクリアは、ネフライトのことを好きになりつつあることを肯定したとギベオン王太子は捉えた。
(どうりで二人は、早く纏まってしまうわけだ。自分に気がありそうな財閥の御子息を思わせぶりに誘惑して、いずれ大人になったら自分のものにする気なのか。ルクリアは、そんなに悪い女だったのか。そうだよな……氷の令嬢とか言われているくらいだ。僕を見限って、あの子に走るんだ)
このままもっと好きになるというセリフは、ギベオン王太子からすると婚約者である自分よりも、ネフライトを選ぶと言う確定された未来を突きつけられた気がした。そうだ『未来はもう二人の娘のレンカが登場した時点で、決まってしまったのだ』と、ギベオン王太子の中で抑えていた何かがプッツリと切れた。
『……ああ、そうか。キミはそんなにあの子が大切か。今の段階では、手を出すのはネフライト君からじゃなくてキミの方からだろうしな。それともいずれ、自分の方から手をつけて喰うつもりなのか……僕とは肉体関係を持たないくせにっ』
「ふざけないでよ! 貴方と結婚するまでそう言う関係にならないのは、契約内容にあるからでしょう。それに、自分に責任を持てない学生の立場で、万が一子供でも出来たらどうするのよ」
頭に血が上りどんどん二人の口論は酷くなっていく、本当はこんなことを言い争いたい訳ではないのに。今日のギベオン王太子はいつも以上に、嫌味っぽくて好戦的だ。そしてルクリアも、将来は破断が確定していたとしてもギベオン王太子に未練があったのに、それ以上に彼の許せない部分が見えてしまう。
『だけど、ネフライト君とはそういう関係になるんだろう? 年が若くても、世間の目があっても、万が一子供が出来ても構わないから。いや、むしろキミの方が彼の子を望むようになるんじゃないか』
「ちょっと、ギベオン王太子。貴方、何だか今日……変よ。落ち着いて、落ち着いて話して……」
『……ルクリア、僕は知ってしまったんだ。今日、カルミアのクラスに突然やって来た新入生は、キミとネフライト君の娘なんだってな。未来は隕石衝突の影響で、ひどく荒れて成人年齢は元服まで引き下げられるそうじゃないか。だからって、そんなに早く結婚するということは。それだけ、ネフライト君のことを好きになるということなんだろう?』
ギベオン王太子が未来を知ってしまったと語り始めて、ルクリアは思わず反論を失ってしまった。
隕石衝突後の未来に、ギベオン王太子が存命しているかは謎だ。氷河期の中で永遠の眠りについているということしか情報はなく、それが死を現すのか、カルミアの夢見のチカラで学生時代の夢を永遠に見続けながら眠っているのかは分からない。
だが、ネフライトと夫婦になり、娘が産まれて家族になり、人としての人生を順調に歩んでいくルクリアとは大きく違うことだけは分かっていた。
「ねぇ、ギベオン王太子。私達は今の時間を過ごしているのよ。それに、未来からやって来たという少女の目的が、滅亡するこの国を救う事かも知れないでしょう。どうして、そんなに悲観的になるの。お願い、いつもの優しいギベオン王太子に戻ってよ。言い過ぎたのは謝るから……お願い」
「どうしてって……キミのことが、キミのことが好きだからに決まっていつだろう? ルクリア。キミが……僕と死に別れたのち。将来、僕以外の男に純潔を捧げて抱かれようと、他の男と子を成そうと、キミの心から完全に僕が思い出の中で消え去ってしまうとしても……僕はキミのことが好きだ」
まさか、いつも冷静で大人の対応を貫いていたギベオン王太子が、涙声でまるで『捨てないでくれ』と縋るように、ルクリアに愛を告白するとは思わなかった。ルクリアの中で、勝手に作り上げられていたギベオン王太子の氷像が崩れていく。
彼の内面は、ルクリアの想像よりもずっと熱い情熱を抱いていた。ルクリアの氷を溶かすように。
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