追放された聖女は幻獣と気ままな旅に出る

星里有乃

文字の大きさ
39 / 87
旅行記3 時を超える祝祭

07 二十年前の彼と一緒に

しおりを挟む

『さあ、いらして下さい。二十年前の祝祭の日に……!』

 運河を見守る水の精霊像に祈りを捧げたティアラとポメは、そのままゴンドラで引き返すことは許されず。精霊の導きによって、二十年前へとワープさせられてしまう。


 * * *


 目が覚めるとゴンドラに乗船していたはずが、乗船前に立ち寄ったパニーニ屋台の前に転移させられていた。
 繁盛しているパニーニ屋台の店主の顔をふと見ると、初老の店主ではなく息子らしき人の姿。店を切り盛りしているのは、店主と顔立ちは非常によく似ているが、働き盛りの中年男性だ。

「ん……。あら、私、一体どうやってストリートに戻って来たのかしら? 確か、ゴンドラに乗って精霊様にお祈りをして……」

 状況が飲み込めず辺りを見渡すと、パニーニを片手に持った少年が突然現れたティアラに驚きを隠せないながらも、フレンドリーに話しかけて来た。

「びっくりした……お姉さん、突然光と共に現れたけど。魔法使いか何かなの。それとも女神様? オレの名はジル、祭りは初めて? もし困っているなら、祝祭のガイド役として道案内くらいはしてあげるよ」
「えっ……ジル君?」

 ジル……と言えば、最近婚約したばかりのティアラの夫となる男ジルと同じ名前だ。けれど、ティアラの知っているジルは細身ながら高身長の大人の男で、年の頃は二十九歳である。

(あれっ……私、精霊様にお祈りしてて、二十年前へとワープさせられたの? パニーニ屋台の男性は、もしかすると息子さんじゃなくて店主さん本人? けど、この男の子の名前がジルって、偶然名前が同じだけかしら)

 今、ティアラの目の前で微笑む少年は、おそらく九歳か十歳くらい。黒い髪と澄んだ瞳が、婚約者のジルと似ているものの、この天使のように可愛らしい少年がニヒルな色男ジルに成長するなんて想像つかない。
 困惑するティアラをよそに幻獣ポメは、そのポメラニアンのような容姿を活かして、早速ジル少年と仲良しになっていた。

「きゃうーん、くいんっ」
「おっ……お前なんだか、人懐っこいな。へへっこの犬、お姉さんの犬? うちもテリアを飼ってるんだ」

 ジルも少年時代は、テリアに似た幻獣を飼っていたという。子供だったジルは、テリアの正体が幻獣であることを知らされていなかったらしいが。

(少年の名はジル、ペットはテリア……私、本当に二十年前へとワープしているの?)

「そ、そうなんだ。私の名はティア、初めての祝祭で迷子になっちゃったみたい。お言葉に甘えて、ジル君に道案内お願いしようかしら?」

 本名を告げるわけにはいかず、ティアという簡単な愛称で名乗るティアラ。ジル少年に古銀貨を手渡し、ガイド役をお願いすることに。
 少年に渡すガイド料としては奮発している方だが、未来の年号が刻まれているドラクマ通貨を使うわけにもいかず、旧時代の通貨である古銀貨で支払う。

「えぇっ? これって古銀貨じゃん。いいの、こんなに貰って……ドラクマで換算すると、百ドラクマくらいかなぁ。パニーニひとつが3ドラクマちょっとだから、パニーニ1ヶ月分くらい?」

 当時のジルは両親が駆け落ちした状況から、そこまで裕福ではなかったらしい。祝祭のガイド役を頼むことでジル少年のお小遣いが増えれば、今月のパニーニ代くらいは賄えるだろう。

「たまたま、古銀貨しか持ち合わせがなかっただけなんだけど、これも精霊様の思し召しだわ。パニーニ代にしてもいいし、残りは貯金してもいいし。その代わり、ガイドしっかりとお願いね!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜

咲月ねむと
恋愛
伯爵令嬢のエリアーナは、婚約者である王太子から「地味でつまらない」と、大勢の前で婚約破棄を言い渡されてしまう。 全てを失い途方に暮れる彼女を拾ったのは、隣国からやって来た『氷の悪魔』と恐れられる冷徹公爵ヴィンセントだった。 ​「お前から、腹の減る匂いがする」 ​空腹で倒れかけていた彼に、前世の記憶を頼りに作ったささやかな料理を渡したのが、彼女の運命を変えるきっかけとなる。 ​公爵領で待っていたのは、気難しい最強の聖獣フェンリルや、屈強な騎士団。しかし彼らは皆、エリアーナの作る温かく美味しい「お弁当」の虜になってしまう! ​これは、地味だと虐げられた令嬢が、愛情たっぷりのお弁当で人々の胃袋と心を掴み、最高の幸せを手に入れる、お腹も心も満たされる、ほっこり甘いシンデレラストーリー。 元婚約者への、美味しいざまぁもあります。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...