追放された聖女は幻獣と気ままな旅に出る

星里有乃

文字の大きさ
80 / 87
旅行記6 もう一人の聖女を救う旅

12 雷鳴は運命を切り裂く

しおりを挟む
『散財と我儘による財政破綻の原因、悪い魔女である聖女クロエを魔女裁判にかけろ』

 精霊国家フェルトの解散に伴う断罪の噂が飛び交い、特に現在投獄中の聖女クロエの処遇が注目されていた。
 僅か十四歳の少女であるクロエを処刑することに反対する意見も多く、断罪実行までに猶予があった。

「移民受け入れ側として、魔女狩り防止活動の代表者として、魔女狩り推進派に意見を述べます!」

 これも不思議な星の巡り合わせなのか、ティアラは自らを追放した元凶である因縁深い聖女クロエの命を巡る交渉を行うことになったのだ。


 * * *


 話し合いの場は、ティアラ側から提供することになり、丘の上のハルトリア公爵邸を使用することになった。怪しい雲行きを示唆しているのか、あいにく暗雲立ち込める空模様で、ポツポツと雨粒が降っている。
 傘もささず邸宅の門を叩いたのは、昔ながらの黒ローブファッションの男魔道士。胸に下げた逆さ十字架のペンダントから、闇魔法を信仰していることが窺われた。

「初めまして、ローゼン・デルタと申します。まさかハルトリア公爵邸にお招きいただけるなんて、思ってもみませんでした。あいにく仲間達は、まだフェルトで仕事中でしてね。私一人でお話しを伺いますが、どうぞよしなに」

 にこやかな笑顔だがウエーブがかった黒髪と青白い顔色、端正な顔立ちも相まって人間離れしたオーラの持ち主だ。

「ローゼンさん、遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます。詳しいお話しは、客間でゆっくり……どうぞ」


 表向きはゲストという扱いになるため、公爵夫人であるティアラを始めメイドや執事が丁寧に接客し、客間でお茶を飲みながらの話し合いとなる。
 遠慮がちに真紅のソファへと腰掛けるローゼン・デルタは、弱気な魔道士といった雰囲気だが、内実が異なるのは明白だった。彼から発せられる魔法力は人間の限界レベルに到達しており、ティアラと同席するジルや背後で見守る幻獣ポメも警戒心を解くことが出来ない。

「……聖女クロエの処刑は、取りやめにして貰えませんか?」

 ティアラが魔女狩り反対の本題に入ったところで、ローゼン・デルタの表情が一変。最初の友好的な態度は、やはりお世辞だったのか、攻撃的な本性を露わにし始めた。

「それにしてもハルトリア公爵夫人は、随分と物好きですなぁ。偽善パフォーマンスとはいえ、わざわざ自分を追放した仇を助けてやるなんて」
「妻の厚意を偽善パフォーマンスとは……心外ですね。大公国ハルトリア側からすると、解散する国の移民を受け入れるわけですから、それなりに負担がある。今時、批判されるのが分かっている魔女狩りをしていたとなれば、ハルトリアのイメージにも拘わります」

 妻であるティアラを面と向かって批判されたのが、頭にきたのか。普段は冷静なジルが、ややムキになってフォローに入った。けれど、『魔女狩りをしている国からの移民を受け入れるとハルトリアのイメージが悪くなる』というのは、いつもは口にしないジルの本音だろうとティアラも納得する。

「奥様を前に出して聖女様ごっこをしたいのであれば、もっと上手い方法を教えて差し上げますが。それとも聖女様ごっこで、大衆に自らのお力をアピールするのが、大公国ハルトリアの地位向上手段なのですかな?」

 捲し立てるようにティアラの魔女狩り防止活動を『聖女ごっこ』ひいては、ただの偽善、パフォーマンスという揶揄をする。だが、このような煽りに屈しては、精霊国家フェルトも大公国ハルトリアも昔ながらの風習から抜け出すことは出来ない。

「私は自分の地位や評判のために、聖女クロエの魔女狩りを反対しているのではありません。哀しい歴史にピリオドを打ち、別の形で罪を償わせるようにと提案しているのです!」
「ふんっ。せっかく世間に魔女を処刑する瞬間を見せつけて、上層部の権力をアピールするチャンスなのに、ハルトリア一族は馬鹿な嫁をもらったものだ。嗚呼、嘆かわしいっ」

 すると、ローゼン・デルタの怒りと連動するようにガラガラと不穏な音を立てて、窓の向こうで雷が鳴り響く。

「これは……この黒い魔法は? ローゼンさん、あなたまさか……闇の精霊っ?」
「そうだよ、ティア。せっかく前世の悲願を果たしてやろうとしたのになぁ。所詮、馬鹿は生まれ変わっても何も何も、何も変わらなかったかっっ! 滅び、断罪、これらの見せしめが人間共に必要だということが……まだ、分からないのカァアアア!」
「きゃああああっ」

 闇の精霊ローゼン・デルタが号令をかけると、雷鳴が運命を切り裂くように亜空間が生まれた。そしてティアラの意識は雷の轟音と共に、深い深い闇の中へと落とされていったのである。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜

咲月ねむと
恋愛
伯爵令嬢のエリアーナは、婚約者である王太子から「地味でつまらない」と、大勢の前で婚約破棄を言い渡されてしまう。 全てを失い途方に暮れる彼女を拾ったのは、隣国からやって来た『氷の悪魔』と恐れられる冷徹公爵ヴィンセントだった。 ​「お前から、腹の減る匂いがする」 ​空腹で倒れかけていた彼に、前世の記憶を頼りに作ったささやかな料理を渡したのが、彼女の運命を変えるきっかけとなる。 ​公爵領で待っていたのは、気難しい最強の聖獣フェンリルや、屈強な騎士団。しかし彼らは皆、エリアーナの作る温かく美味しい「お弁当」の虜になってしまう! ​これは、地味だと虐げられた令嬢が、愛情たっぷりのお弁当で人々の胃袋と心を掴み、最高の幸せを手に入れる、お腹も心も満たされる、ほっこり甘いシンデレラストーリー。 元婚約者への、美味しいざまぁもあります。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...