千夜の一夜な境界ランプ

星井ゆの花(星里有乃)

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第21夜 精霊ジンと王子

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「キミはランプの精霊さん? こんにちは! ボク、ハザードって言うんだ」

幼い目をキラキラさせて、そう言って私のことを見上げてきた少年。名前はハザード、手には魔法の境界ランプを持っている。

ミルラの香りが漂い、花々で飾られた広い宮殿の一室で久しぶりに人間に呼び出された私は新たな主人の幼さに目を疑った。

ハザードは境界国という現実世界と魔導世界の狭間にある国の王子様。
境界国は原則、魔導師やそれに準ずるものしか入国出来ないので現実世界の人間達からはあまり知られていないかもしれない。

砂漠地帯に位置する境界国は昼はうだるような暑さ、夜は寒くなるという一般的な砂漠地帯の気候だが、貿易が豊かで魔導師達はそこで現実世界との貿易を行うので発展を遂げた。

そんな境界国の王子が境界ランプと呼ばれる魔法のランプを父親から譲り受けたのは7歳の時。

王子と言っても正妻との子供ではなく、側室の大臣の娘との間に出来た三兄弟の末っ子である。おそらく彼が王位を継ぐことはないだろう。

王様はそんな自国の王位に最も遠い位置にいる末っ子の王子に大切な魔法のランプを譲ってしまったのだ。

だからと言ってそれに意見するものなど誰もいない。

魔法のランプは境界国に永きに渡り伝わる秘宝だが、伝承通りランプをこすっても精霊を呼び出すことは不可能。

やがて魔法のランプはただおとぎ話であり、境界ランプも凝った飾りのついたインテリア程度の認識となり精霊ジンの存在も忘れ去られていた。

なので、千数百年ぶりに外の世界に呼び出された精霊は新たな己の主人の幼さに絶句してしまう。

(なんだ……久しぶりに外の世界に出たのにこんな小さな子供が私の主人なのか? いや、この子を小さいうちから魔導王に相応しく教育すればいいだけだ)

そんな精霊の気持ちを知ってか知らずかハザードは精霊の衣の袖をひっぱり名前を聞いてきた。

「ねえ、精霊さんは何ていう名前なの? 精霊さんこの宿題解ける? ボク先生から出された宿題解かなきゃいけないんだ」

ハザード王子は算数の宿題が分からなくて、おとぎ話を思い出しランプをこすり呪文を唱え精霊を呼び出したようだ。勉強が苦手という割にとても美しい発音で魔法の呪文を唱えていたような気がするが……小さな子供は不思議な存在である。

精霊は自分たちの種族名である「ジン」という呼び名しかハザード王子に名乗らなかったが、王子はどうやらそれが私の名前であると認識したらしく私は他の者達にもジンと呼ばれるようになり、宮殿で王子の教育係兼ボディーガードの精霊として受け入れられた。

数年経ち、王子が10歳になった時に王が亡くなった。高齢だった王は長寿を全うしたのだろう。

王位は正妻の子である第一王子が継ぐと考えられていたが、王位を継ぐ直前に側室の息子達の派閥と揉めて暗殺される。王不在のまま王位継承権を巡る争いが行われ次々と王位継承の資格を持つ王子達が殺された。

内部の派閥争いなのか、外部からの攻撃なのか……。

やがて、前王の血を引くハザードの5歳上の兄が王位を継いだ。

平和が戻ったかに思われていたがその新国王も数年で亡くなった。原因は不明。

ハザード王子は王位継承権争いを避けるために魔導国に魔法留学をするという形で境界国から数年間離れていたが、ついに呼び戻され境界国の王位を継ぐ。

王位を継ぐ予定のなかったハザード王は、魔導国で魔法の訓練を積み優秀な魔導師だ。
その優秀な魔導師を暗殺することはアサシン達も困難だったようで数年間はハザード王の政治は安定していた。

若き王の安泰を誰もが確信した頃、今までの王達のようにハザード王は倒れてしまう。意識がずっと戻らない。

ハザード王を幼い時から育ててきた精霊ジンは自分が影武者となり、若い人間の魂をハザード王に捧げる魔術儀式をすることにより王の延命をはかった。

境界ランプの持ち主達の中での魔導王の玉座を巡る争いにも影武者である精霊ジンが参加している。

本物のハザード王を目覚めさせるには自分の魔力では足りない。
もっと強い魔力が必要だ。
例えば他の境界ランプを魂として捧げるとか……。

今現在の境界ランプの持ち主で1番魔力の強い人間からターゲットを絞り王に魂を捧げることにしよう。

精霊はたとえ自分が蔑まれようとも愛しい主人のためにさらに手を汚す覚悟をした。
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