29 / 52
第29夜 体術訓練
しおりを挟む洞窟での魔導訓練は後半を迎えた。
アニス師匠いわく、オレは魔法力はそこそこ上がったものの体術がさっぱりでこの先不安だという。
「いいか、千夜。これまでも魔法の境界ランプの持ち主達は魔法力を高めて懸命にランプから与えられる試練をこなしていった……。けれど、大半のランプの持ち主は不幸な最後を迎えた。何故だか分かるか?」
「ランプを手放そうとした瞬間、精霊に攻撃されて……とみんなで話し合って結論付けたんですけど……」
違うのか?
するとアニス師匠はうーんと考えてから……
「まあ、半分は当たっているけど。ランプを手放そうとした時に死ぬ者が多いのはランプとの契約が切れたにも関わらずにランプを所持していた所為だよ。自分のマスターでないものに一定時間以上持ち続けられると拒否反応を起こすのさ。手放すときは次の後継者を選んでから直接手渡すか、自分の子供が出来た時に自然と権利が子供に移るかのどちらかかな?」
そういえば魔導師貴族のシャルロットの飼っている魔法猫はオレにシャルロットとの間に子供を作ってランプの権利を渡すようにとせまってきたよな。
血縁にはリスクなしで継承できるのか。
アニス師匠が話しを続ける。
「今までのランプの持ち主達は境界ランプを手放そうとしないのに命を落とす者も多いんだ。たとえば、魔法を封じられて……とかな」
魔法を封じられる?
「魔法を封じられてもランプの精霊に助けて貰えばいいんじゃないんですか?」
ランプと契約状態なら可能なはずだ。
「魔法を封じられるとランプも使えなくなるんだよ。だから、魔力を封じられたらおしまいなんていう貧弱な魔導師じゃ、この先務まらないのさ」
貧弱な魔導師……。
魔導師は体力の弱いイメージだし、オレは最近まで魔導師ですらなかったけど、なんだか胸が痛むな。
「そんなわけで、今日から1週間は魔力禁止の体術のみの訓練だ! 洞窟をさらに奥に進むと赤色の扉があるからその部屋で鍛えてこいよ。鍛え抜かれた体格がウリのスペシャルな講師がお前を鍛えてくれるからな!」
アニスに急かされて、オレはリビングルームを進んでさらに奥にある通路を通らされ赤い扉の前にきた。
鍛え抜かれた体格のスペシャルな講師……オレの頭の中には、よくおとぎ話に登場するようなムキムキマッチョなたくましい精霊がイメージとして浮かんだ。
「キュー! マスター千夜早く中に入りましょうキュ」
ミニドラゴンのルルに促されて思い切って扉を開けるとそこは青い空、白い雲、爽やかな風が吹き、草が茂る広い庭だった。庭の奥には中国風の小さな住居がある。
洞窟内の中にこんな空間があったなんて……。
すると後ろから何者かがオレの背中を思いっきり蹴り上げてきた。
「ぐはっ!」
オレは地面にゴロゴロと転げ落ちた。
「なってないなぁ……千夜君だっけ? これ実戦だったらキミ消されてるよ」
オレを蹴り上げたと思われる人物がオレの背後に立ちそんなことを言った。
「まずは受け身の取り方、それから気配の察し方……そのあと武術的な訓練だね。1週間という期限だけどもう少し時間が欲しいから延長申請しないと」
一応、手を差し伸べてオレを立ち上がらせてくれた。
スレンダーだが胸も大きめでバランスのとれた美しいスタイル。チャイナドレスのスリットから美脚をのぞかせ、長い黒髪をサイドアップして結んでいる。
顔は……いわゆる絶世の美女と謳われた楊貴妃ってこんな感じなのかな? と思わせるような大人の美女だ。
だが誰かに似ている……。
まるでどこかの誰かさんを女性にしたかのような……。
「弟がキミにランプを押し付けて迷惑かけてるみたいだから、私が責任もってキミを指導することになったよ」
弟がオレにランプを……ということはこの美女の正体は……?
「私の名はメイラン。双子の弟リーと従姉妹セラがお世話になっているね。依頼通りキッチリ鍛えてあげるから」
クールな笑顔で言い放つメイラン先生。
そしてオレはメイラン先生に本当にキッチリ体術訓練をしてもらった。基礎体力訓練に洞察力の身に着け方、受け身、素手での攻撃方法……。
腕立て、腹筋、走り込みなどの基本的なものから座禅による精神力向上訓練、組手による体術の基本、空手系の瓦割りに合気道系の投げ技……東洋系の武術を組み合わせたような訓練内容だ。
最終日はアニス師匠も様子を見にきてくれた。
「もうだいぶ基本はいいだろう。実はもうすぐ現実世界での時間が迫ってきているようでね。一旦ここで訓練を終了して境界ランプの第2テストを受けてもらいたい。これが次のテストの内容だそうだ。まだ千夜は未熟だけど生き残れば次の試験を受けられるようにできているみたいだから無理するなよ」
そう言ってメイラン先生から手渡されたテストの内容は1回目のテスト内容とはあまりにも異なるものだった。
【チームに分かれて敵チームのランプを奪え。奪われた者は脱落】
「どうやら、今後はランプの持ち主達の中で脱落者を出すような仕組みになるみたいだな……。今夜はゆっくり休んで明日に備えろよ」
脱落者が出る……どうやら今までのようにランプの持ち主同士で仲良く交流を深める雰囲気ではなくなるようだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる