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正編 第2章 パンドラの箱〜聖女の痕跡を辿って〜
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しおりを挟むこの世界に存在するかすら分からない、目に見えない聖書的な神への信仰をアメリアが取り戻してしばらく経つ。不思議なことに失われていた魔法力が徐々に戻り、再び回復魔法を使えるようになった。
(全盛期に比べればまだまだの魔力だけど、これならギルドクエストに復帰出来るかも?)
新婚生活を送る予定だったアッシュ王子の部屋で身なりを整え、冒険者用のローブに袖を通す。アッシュ王子が、まだ新米兵士の安い給金を懸命に貯めて購入したホワイトゴールドの結婚指輪を嵌めて息を整える。
(アッシュ君……お願い、見守っていて。私、貴方が大好きだと言ってくれた優しいアメリアに頑張って戻るから)
魔法使いとしての自信を取り戻すためにも、アッシュ王子のことで泣き続ける日々と訣別するためにも、そして、夫アッシュに相応しい妻になるために。アメリアは再びギルドのドアを叩くことにした。
「お久しぶりです。実は、ようやく以前のように魔法が使えるようになってきたの。今日からまた、ギルドクエストに挑戦してみようと思うのだけど。復帰にちょうど良いものはないかしら?」
「あぁ……アメリア様! ついにギルドに復帰されるのですね。良かったです、アメリア様の魔力が戻って。いろいろと辛い世の中になってしまいましたが、ギルドとしても助け合って頑張る方針です。どうしますか、復帰としては避難所での回復作業や炊き出しがありますが」
災害の影響で職を失うものも増えた近頃では、ギルドクエストにも炊き出しのボランティアが追加されるようになった。
だが、ペルキセウス国は貿易都市を名乗るだけあって、食糧品には困らないはずだったが最近はストックが危うい状態だ。
実はペルキセウス国は食品自給率はそれほど高くなく、大半を輸入品に頼っている。他国の食糧生産状況に、自国の生活が左右される可能性は以前からあったが、災害が増えたせいで顕著になったのだ。
「そうね、王立騎士団絡みのクエストだと、夫の件でまた魔力が不安定になるかも知れないから。以前訪問した孤児院での炊き出しと回復魔法ボランティアがいいかしら? あの頃の気持ちをもう一度取り戻したい」
「そのクエスト、僕もご一緒してよろしいでしょうか? 孤児院から、何か子ども達の学習教材になるような遊び道具を増やせないかって、錬金術師としての依頼があるんですよ。王立騎士団の装備錬金はしばらくお休みします」
「ラルドさんも、ずっと武器の錬金ばかりしていたら魔力の使い過ぎで疲れちゃうものね。久しぶりに二人でクエストに行きましょう」
復帰のクエストはまだアメリアとラルドがコンビを組んだばかりの頃に訪問した孤児院でのクエストに決定した。正確には炊き出しと回復魔法ボランティアの会場が孤児院になっているだけで、孤児達の面倒を見るわけではないが。
一方で、ラルドが引き受けているクエストは、孤児院に魔法錬金で作った学習教材を納品するというものだ。二人のクエストは現場が共通しており、危険な時勢で行き帰りを共にするのにはちょうど良いと判断された。
* * *
変わりゆく社会情勢の中で、時代の波に流されているのはペルキセウス国の人々やアメリアだけではなかった。自ら悪魔に魂を売り、精霊魔法都市国家アスガイアの時期王妃の座を奪ったはずの異母妹のレティアも、人生の分岐点に差し掛かっていた。
レティアの予定では、アスガイアという国を自分好みに作り替えて、面白おかしく支配していくのが夢だったはずだ。けれど、現実はもっと世知辛く、災害が不気味なほど続く呪われた国の次期王妃というポジションだった。
「あぁっ! どうしてこんなにもこの国は災害やら病気やらが増えてしまったの? それともやっぱり、アメリアお姉様が王妃候補だった時の方がご神託通りに進めて良かったっていう訳?」
「しかしながら、そのアメリア様も既に隣国でペルキセウス王族の者と結婚され……いや結婚されていたというべきか。精霊達が最後の足掻きで延命治療を続けているそうですが、実質は魔法力の落ちた未亡人」
アーウィン家から長く付き人を務めているメイド長に愚痴をこぼすが、姉のアメリアが想像とは違う暮らしをしているという情報しか得られない。
「アメリアお姉様……どうしてそんな病弱な人を選んだのかしら? そんなに王族になりたかったの。あんまりそういう考えの女にも見えなかったけど」
「噂では随分とお二人は愛し合われていたようですよ。アッシュ様は王族と言っても追放されているお方、大した給金も貰えない一般兵だったとか。しかも生まれつき病弱ときてる。万が一、延命治療が成功し奇跡が起きて配偶者のアッシュ様がご快復されたとしても、レティア様が羨むような暮らしではありますまい。ステータスよりも恋愛感情を選んだのでしょう」
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「あのお姉様が、そんな道を選ぶだなんて。隣国に追放した時は……どうせ、元お妃候補の立場でいい暮らしをするんだろうって思ってたから。結局、私はこの国のこともお姉様のことも何も分かっていなかったんだ」
けれど、本当にレティアが未来を見ていなかったことに気づくのはこれからだった。悪魔との契約は、まだ終わっていなかったということを……身をもって知ることになるのだ。
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