神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花(星里有乃)

文字の大きさ
43 / 76
正編 第2章 パンドラの箱〜聖女の痕跡を辿って〜

20

しおりを挟む

 悩みに悩んだ末、レティアは意を決してアスガイア神殿の地下礼拝堂に封印したトーラス王太子の魂に会いにいくことにした。だが、そこには意外な番人がいて、レティアの行手を阻む。

「おや、貴女は次期王妃候補のレティア様ではありませんか。もう半年以上、巫女のお仕事をお休みされているので、てっきりアスガイア神殿にはもう用はないのかと」
「えぇと、貴方運営の方よね。悪いけど、急ぎで地下礼拝堂に用があるの。そこ、通してくれない?」
「申し訳ありません……以前の運営者は兄でして、自分は引き継いでいるだけございます。ですが今でも兄が指示を出すこともありまして、自分の一存では地下礼拝堂を開ける決定権は……」

 この若い男。チャラチャラしたなりの癖に、随分と他人行儀で胡散臭い……と嫌悪感を抱く。
 のらりくらりとした態度で、敬語もわざとらしくレティアは小馬鹿にされている気がしてならない。

「もうっ! じゃあその以前の運営者に連絡してすぐに鍵を開けるようにお願いしてよ。急いでるんだから」
「では、どのような用件なのかをこの用紙にお書きいただき、それから精霊鳩で書簡を……」
「そんなまどろっこしいことしてたら、食事会の日にちが過ぎちゃうじゃないっ。もういいわ、事後承諾ということにして今すぐに鍵を借りるわよ!」

 男が胸に下げているキラキラとしたガラスのペンダントと共に、地下礼拝堂の鍵がぶら下がっていた。金髪を揺らしながら無理矢理鍵を奪おうとするが、相手の私物であろうガラスのアクセサリーを壊しかねないため、なかなか難しい。

「……トーラス王太子の魂なら、もう地下礼拝堂にはないぜ」

 いつまでも諦めない焦りがちなレティアを揶揄うように、先程までの胡散臭い敬語とはうって変わって低い地声で囁かれる。

 ビクンッ! と、思わず距離を取って警戒するレティアを再び、小馬鹿にするように男はクスクス笑い出した。

「貴方、どうしてそれを? しかも、もう悪魔像の中にはいないってこと?」
「いやぁ感謝して欲しいぜ、ホント。あのままトーラス王太子の魂をあんな物騒な置物に閉じ込めてたら、今頃トーラス王太子の魂は冥界で悪霊化してたって。一応、婚約者って言うならもう少しマシなやり方で、封印してやるんだったな。あっ……ちなみに、アンタには、トーラス王太子の魂の居場所は教えてやらないからな。まぁ分割してオレが一部味見したから、場所も何もないけどさ」
「はぁっ? ぶ、分割して味見って、アンタ頭おかしいのっ? あっ……もしかして、精霊」

 まるで精霊は人間と感覚が違うような言い回しだが、彼は精霊の中でもそれが顕著なだけで平均的な方である。

「ご名答、アスガイア神殿運営者引き継ぎのエルドだ。分割は分霊みたいなもんで保険をかけてやっただけだし、味見は血の契約が肉体が無くて出来ないから、その代わりだよ。一見グロく感じるけど、簡略化してるだけだから」
「簡略化、そう言う儀式だったんだ。そう……あっ。じゃあ別に、相談相手は貴方でもいいわ。あの悪魔像野郎、いよいよ私のことも消そうとしてるのよ! 何であんなのと契約しちゃったんだろう?」

 悪魔契約者の典型で、レティアは自分の命が取られることに気づき恐怖を覚えているようだった。

「何でって、そりゃアンタが悪魔像に唆されて、トーラス王太子を生贄に次期王妃候補の座を奪ったからなんじゃねーの。いよいよってなったら、契約者本人の命を戴くのが普通なわけで。ほら、王妃ごっこして気が済んだだろ。もうさ、思い切ってザマァされちゃおう! 自業自得、自己責任論で、最後にパッと見せ場を作って退場すりゃあ……みんな拍手喝采よ!」

 仕方がないので、エルドは意外な物の考えを与えてレティアを諦めさせようとする。まさかの自業自得、自己責任論を展開し、派手に死ぬことで最後の打ち上げ花火でも上げるかのような雰囲気だ。

「そんなわけ無いでしょ! あぁん……どうして、最後に出てきた精霊がこんなチャランポランなクズなのよぉ~」

 もう諦めているのか泣き崩れながら、レティアはアスガイア神殿を後にした。暗い後ろ姿を見送りながら、エルドは胸元のペンダントに宿るトーラス王太子の魂に一つ質問をぶつけることに。

『さぁて、罪のない神のいとし子を追放したツケ、くだらない悪魔儀式をしたツケを払う日がいよいよ近いわけだが。異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?』

 エルドは胸元のガラスのペンダント、即ちトーラス王太子の魂をコツンとつつく。
 意地悪な質問だったが物言わぬガラスの魂のカケラになったトーラス王太子が、返事なんか出来るはずもない。

「ははは! 答えようもないかっ。まぁ、それだけで済めばいいんだがな。運命は、もっと深く伏線をねじ込んで来やがった。レティアをメインにオレもトーラス王太子も、ラルドの兄貴でさえ、死の舞台を開幕するのに必要な役者にしか過ぎない。アメリアとアッシュの神のいとし子の夫妻だけが、今のところ安全圏か」


 * * *


 会食の日が間近に迫ったある日の夕刻。レティアが絶望の目で自宅のテラスに座り、落ちる夕陽を眺めていると珍しくフクロウが舞い降りてきた。

「精霊鳩の一番弟子が、郵便を届けに来ましたホー!」
「フクロウがしゃべった。精霊鳩の弟子? まだ見習いなのかしら」

 フクロウは精霊のようで、レティアに手紙を授けると、食べ物をねだるような仕草で見つめてくる。

「なぁに、私みたいな悪魔に魂を売った女に媚びたって何にも得しないわよ。あっ……お腹が空いているのね。ふんっ。たまたま今日のティータイムに出たスコーンが余っているから、残飯処理でよければあげるわよ。今のご時世、ティータイムなんて贅沢だって叩かれるから、内緒にしてよね!」
「フクックー! ホー」

 フクロウはよっぽど喉が渇きお腹が空いていたのか、与えられた水をゴクゴクと飲み、いちじくジャムとクリームチーズをたっぷり乗せたスコーンをペロリと平らげた。豪華なおやつのお礼なのか、自らの羽根を一枚授けてくれる。レティアは一応『ありがと……』と、言って飛び去るフクロウの姿を見送った。

 手紙の主は、驚いた事に今や魂を割られて何処にいるとも分からないトーラス王太子からだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。

アノマロカリス
恋愛
私の名前はレイラ・カストゥール侯爵令嬢で16歳。 この国である、レントグレマール王国の聖女を務めております。 生まれつき膨大な魔力を持って生まれた私は、侯爵家では異端の存在として扱われて来ました。 そんな私は少しでも両親の役に立って振り向いて欲しかったのですが… 両親は私に関心が無く、翌年に生まれたライラに全ての関心が行き…私はいない者として扱われました。 そして時が過ぎて… 私は聖女として王国で役に立っている頃、両親から見放された私ですが… レントグレマール王国の第一王子のカリオス王子との婚姻が決まりました。 これで少しは両親も…と考えておりましたが、両親の取った行動は…私の代わりに溺愛する妹を王子と婚姻させる為に動き、私に捏造した濡れ衣を着せて婚約破棄をさせました。 私は…別にカリオス王子との婚姻を望んでいた訳ではありませんので別に怒ってはいないのですが、怒っているのは捏造された内容でした。 私が6歳の時のレントグレマール王国は、色々と厄災が付き纏っていたので快適な暮らしをさせる為に結界を張ったのですが… そんな物は存在しないと言われました。 そうですか…それが答えなんですね? なら、後悔なさって下さいね。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...