チワワに転生したオレがラブリーチートで異世界を救い始めている件。

星里有乃

文字の大きさ
18 / 37
第1章

18話 子犬になった転生者

しおりを挟む

 黒フード集団とブーケ姫の簡単な話し合いも終わり、未来からやってきたチワワのオレは、期間限定でブーケ姫に飼われることになった。先程の会話が本当であれば、星が一直線に並ぶ時に儀式を行えば元の時代へと戻れるかも知れないそうだ。
 住まいは同じ魔王城とはいえ、大戦後の二百五十年前で暮らすのは、いささか大変そうに思えた。

 これまでの暮らしは地球で暮らしていた頃と同じ文明水準だった。暑ければクーラーがあり、寒ければ暖房を効かせれば良い。必要な道具はネット通販ですぐに揃うし、お城で暮らす大半の人々は衣食住に困ることはまず無いだろう。

 まぁオレはペットという立場のチワワだから、自分で食料調達したり衣服を揃えることはなかったけど。冷暖房完備の現代生活から、昔ながらの電気のない暮らしにか弱いチワワの身体で対応出来るか不安ではある。

 それに二百五十年前の伝承が本当なら、大戦後は食糧難や物資の不足に悩まされていたらしい。子犬が1匹増えるくらい、お姫様からすると大した負担でもないのだろうが、面倒を見てもらうにしても罪悪感が生まれる。

「まずは、ハチを安全な場所へ連れて行かないと。このバスケット借りていいかしら?」
「くうーん」

 ブーケ姫は魔法部屋の棚に収納されていた魔法アイテム収納用のバスケットから、犬を運ぶのにちょうど良さそうなものをチョイス。バスケットの内部は、先程までラベンダーなどのハーブ類が沢山敷き詰められていたため良い香りがする。

「おぉ! 姫様は本当にお優しい。ここから別棟までは、かなり歩きますからね。子犬の足では厳しいでしょう」
「このタオルを使って下さい。バスケットの中に敷けば、子犬の身体が傷つかずに済むと思います」

 バスケットは籐で編まれており、内部は所々トゲっぽくなっていたが、チワワのオレが中で休んでも痛くないようにタオルを敷いて安定した内部に変えてくれた。

「ありがとう、これでよし。このサイズなら、ハチを運ぶためのペットキャリーの代用になるわよね。ほらハチ、痛くないからこの中に入りなさい」
「くいーん(分かったよ)」

 本来の飼い主であるブルーベル姫のご先祖様かもしれない、この女性。忠犬本能の高いオレ的には、本来の飼い主以外には警戒心が強いはずだが、割とすんなり言う通りに動いてしまった。

「では、ブーケ姫。お気をつけて……我々は、早くその子犬を元の時代へ返せるように努力しますので」
「しばらくの間、私の使い魔としてそばに置くから安心していいわよ。子犬の面倒を見るのなんて、久し振りだから楽しみだわ。それじゃあ、また」

 ブーケ姫は、どうして時を超えてこの時代へとやってきたオレを、素早く保護することを決断したのだろう。遠慮と疑問が交錯する中、迷宮のような薄暗い廊下をバスケットの中でぼんやりと眺める。

(こんな場所、現代の魔王城にはなかったなぁ。建物は移築しただけだって話だけど住所がちょっとだけ違うらしいし、やっぱり移築する前は間取りとか細かく違うんだろうな)

 魔法儀式の部屋は地下のあったようで、コツコツと階段を上がり地上階へと出る。広い廊下は、オレが住んでいた時代のお城よりも窓が大きく、夜空には満天の星が浮かんでいた。

「きゅうーん。くいーん」
 見たことのないような星々に、思わず感嘆の鳴き声をあげると、ブーケ姫がクスクス笑いながらオレに話しかけてきた。

「あら、星空が珍しいの? もしかして、未来の魔王城からは星がそんなに見えないのかしら? やはり、無駄な戦ばかりしていたから、次第に星のご加護が薄れていったのでしょうね。ふふっ。難しい話をしてごめんね。あとで、子犬用のミルク粥を作ってあげるから」
「くぅーん」

 大戦の傷跡でところどころ修復作業中の魔王城だが、基本はとても立派なお城である。欠点があるとしたら、チワワのオレの足ではお城の中を歩き回るのは困難になりそうだということくらいか。
 わざわざオレを自分の足で歩かせずにバスケットで運ぶことにしたのは、この広い城内を召喚されたての子犬に歩かせるのは酷だと思ったのだろう。

 殆ど人とすれ違わずに部屋まで辿り着けると思っていたが、途中で聖職者らしき男性に声をかけられる。白と金のローブに長い帽子、大きな錫杖とロザリオは誰がどう見ても聖職者である。
 だが、青肌金眼の長い爪という『ザ・魔族』と言ったビジュアルのせいでどうしてもゲームの中ボスに見えてしまう。ゲームキャラだったら、悪魔の神官とか魔族の神官長とかそう言った呼び名でプレイヤーを困らせていそうだ。

「こんばんは、夜分遅くまでお仕事ご苦労様ですブーケ姫。ところで、その子犬は一体どうしたのでしょう?」
「こんばんは、神官長様。地下で行なっていた召喚儀式が失敗して、別の場所にいた子犬を呼んでしまったみたいなの。本来の飼い主さんのところに返すまでは、私が面倒をみようと思って」

 魔族にはいくつか系統があるのかブーケ姫や黒フード集団は、耳が尖っている以外はほぼ人間と同じ外見である。ブーケ姫はエルフ族だと紹介されたら、きっと信じてしまうだろう。けれど、この神官長は他の魔族とは異なり青い肌で金色の瞳、爪が長くて心なしか牙が鋭く、かなり純粋な魔族に感じた。

 だからだろうか、中ボス風の神官長様のオレを見る目がギラリと光り、鋭い推理を始めたのだ。

「ほう……召喚魔法が。それにしても、随分と不思議な犬ですね。聖なる獣テチチに、若干似ておりますな。ふむ、気のせいでなければその子犬から人間の匂いがしていたのですが。はて?」
「人間の匂い? ここには魔族しかいない魔王城なのに。まぁこの子が以前住んでいたところに、何人か人間がいたのかも知れないわね」

 ブーケ姫には感じ取れない人間の匂いだが、神官長には感じ取れるらしい。

「若しくは、この子犬に人間の魂が宿っているか……ですな。ごく稀に、人間から犬に転生してしまう者がいるらしいのです。強い魔力を秘めた犬は、前世が人間であった可能性が高いとか」
「まぁ! もしこの子が元人間だったら、きっと物覚えが早いでしょうね。うふふ、預かっている間にいろいろ鍛えてみようかしら?」

 世間話も程々に、神官長と別れて別棟へと向かう。この時までは、オレもブーケ姫も『人間から転生した子犬』というものがどのようなチカラを秘めているのか、知る由もなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...